近年スプリントハードル(男子110 mハードル、女子100mハードル)が盛り上がっている。昨年の世界陸上ブダペスト大会では日本選手3人がフルエントリー。トラック&フィールド種目で男女ともフルエントリーできたのは、スプリントハードルとやり投の2種目だけだった。

4月29日の織田幹雄記念国際(広島)では、男子は村竹ラシッド(22、JAL)が13秒29(-0.6)で、女子は田中佑美(25、富士通)が13秒00(-0.1)で快勝した。外国勢の顔ぶれが発表されていないが、ゴールデングランプリ(5月19日・国立競技場)では泉谷駿介(24、住友電工)や寺田明日香(34、ジャパンクリエイト)も参戦。男女ともパリ五輪にもつながるハイレベルな戦いが期待できる。

レース後半で初戦としては高いスピードを出せた村竹

織田記念は泉谷不在ということもあり、村竹が2位に0.23秒差つけて圧勝した。13秒29は自己記録の13秒04(-0.9)とは開きがあるが、シーズン初戦、雨のコンディションということを考えれば悪くない。

「決勝を走る前に少し体が冷えてしまったので、13秒2台後半から13秒3台前半が出たらいいかな、と思っていました。13秒29は十分です」

走りの内容も納得できるものだった。

「3台目までしっかりスピードを出して、中盤はゆったりリズムに乗ることができました。初戦なので最後までスタミナが持たないかな、と思っていたんです。初戦でこんなにスピードが乗ってくることはなかったので、今日は良い感覚がありました。次につながる良い初戦になったかな、と思います」

泉谷は順天堂大の2学年先輩。4月はダイヤモンドリーグを厦門大会(4月20日。3位・13秒17、-0.3)、蘇州大会(同27日。2位・13秒23、+0.8)と転戦したため、織田記念を回避していた。泉谷は13秒04(-0.9)の日本記録保持者で、昨年の世界陸上ブダペストで日本人過去最高の5位入賞を達成した。メダルも狙える第一人者である。

村竹も22年世界陸上オレゴンに出場したが、予選落ち(13秒73、+0.2)と力を発揮できなかった。泉谷と村竹は13秒04と日本記録を2人で持つ。記録的には同レベルだが、泉谷とは国際経験の差が大きい。その村竹が経験を積む絶好の機会となるのがゴールデングランプリだ。

単日開催競技会では、ダイヤモンドリーグ以外で最もレベルの高いシリーズであるコンチネンタルツアー。世界で12大会のみが指定されている「コンチネンタルツアーゴールド」として開催される。順位、記録に応じて付与されるポイントはAカテゴリーで、Bカテゴリーの日本選手権よりも高い。国内開催の競技会では最もハイレベルの大会だ。

「ゴールデングランプリはもちろん優勝を狙って、良い走りをしたい。シーズン前に泉谷さんと一緒に合宿して、競る練習も行いました。自分は練習でスピードが出せるタイプではありませんが、そんなに離されることなく練習ができました」

そして織田記念でピークを合わせない状態で、想定した走りができた。
「去年や一昨年より余裕を持って臨めると思っています」

外国人出場選手はまだ公表されていないが、順天堂大の先輩後輩対決だけでも、110mハードルは盛り上がる。

スタートもハードル間の走りも手応え十分の田中

女子は田中が13秒00(-0.1)で、2位の福部真子(28、日本建設工業)に0.09秒差をつけた。大差とまでは言えないが、この種目としては僅差とは言えない差で快勝した。スタートが、内面的なところで以前よりスムーズにできるようになったという。

「一度、高校生でアジア大会に出たときにフライングで失格になったことがあります。スタートに対してかなり苦手意識がありましたが、スタート練習を(1人で行うのでなく)誰かに手を鳴らしていただいて行ってきました。そこが良かった点ですね」

ハードル間の走りも進歩を実感できた。

「3台目から5台目までのインターバルを、足を置きに行けたというか、落ち着いて刻みに行くことができました」

スピードを抑えたわけではない。その逆で、正確な位置に接地して走ることで、ハードルから遠い位置で踏み切りスピードが落ちない。だがハードル種目の難しいところは、まったく同じ動きを続けることが難しい点にある。

「レースペースで後半もその動きをするのは初めてだったので、少し体が伸びるようになってしまって、若干減速したかなと思ってます」

冬期トレーニングの成果を出しつつ、課題も明確にできた。シーズン初めの試合としては十分な収穫があったと言える。日本記録(12秒73)保持者の福部にも、歴代2位(12秒86)の青木益未(30、七十七銀行)にも勝つことができた。

ゴールデングランプリでは織田記念に出ていなかった寺田明日香(34、ジャパンクリエイト)とも対決する。寺田は19年に日本人初の12秒台を出した選手。その前レースで寺田は13秒00(+1.4)の19年ぶり日本タイで走ったが、同じレースで田中は13秒18と当時の自己新をマークした。

昨年のゴールデングランプリは寺田が12秒86(+0.4)で優勝し、田中は12秒89の自己新で2位。昨年4月の織田記念で初めて12秒台(12秒97・+0.6)を出したばかりだったが、ゴールデングランプリの結果で自信を深め、日本選手権3位、世界陸上ブダペスト代表と成長した。

「昨年の12秒89は寺田さんのリズムに付いて行って出せた記録です。今年に関しては自力でそのくらいは出せます。現実的に、ハマればにもう少し出せますね」

女子もゴールデングランプリの外国勢が発表されていない。昨年(日本勢が3位までを独占)のように、日本勢による熾烈な優勝争いになるかもしれないが、どんなレースになっても、1年前以上の記録が期待できる。12秒77のパリ五輪参加標準記録も射程圏内だ。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。