開幕まであと半年となった大阪・関西万博。期待が高まる一方で、パビリオン建設の遅れや会期中の交通渋滞などが懸念されています。今回注目したのは、「災害対策」と「学校無料招待事業」。地震や津波などへの対策はどこまで進んでいるのか。学校現場では児童・生徒たちにとって「安心安全で教育的意義のある」校外学習にするため、行動する教員の姿がありました。
夢洲の津波対策はどうなっている?
今年3月、万博会場の建設現場で、作業中の火花がメタンガスに引火し爆発する事故が発生。博覧会協会は、会期中に換気装置やガス探知機を設置することを決めるなど対策を講じてきました。
(博覧会協会 藁田博行整備局長 今年7月)「事故がもし起きなかったら、やっていなかったことを安全対策(として)追加ですることになったので、会場の安全対策としてはプラスと受け取ってもらったら」
開幕に向け不安の解消を急ぐ協会。それでも、なかなか払拭できないのが地震や津波への懸念です。今後30年以内の発生確率が70~80%とされている南海トラフ巨大地震。最悪の場合、大阪駅周辺でも津波による浸水が予想されています。街の人に話を聞くと…
「地震の時の津波とかが怖いですよね。万が一…」
「津波とかが来たら一発じゃないですかって思いますね。あんな低いところなので」
大阪湾に浮かぶ人工島の夢洲では、津波対策はどうなっているのでしょうか?
(記者リポート)「夢洲の海側に来ています。私の後ろにはコンクリートがかなりの高さまで積みあがっています」
予想される津波の高さは5.4m。海面から護岸までは約6mで、さらに波が護岸を超えても法面が11mの高さまで積みあがっているので、浸水被害は出ない想定だといいます。
スムーズな避難のポイントは「現場スタッフの訓練」
では、浸水を免れたとして避難はスムーズに進むのでしょうか?夢洲へのアクセスは「夢舞大橋」「夢咲トンネル」「大阪メトロ」の3ルート。そのうち鉄道は、1日あたり最大22万7000人見込まれている来場者輸送の半分以上を担うとされています。
2018年の大阪北部地震では、関西の鉄道網はほぼ停止。駅には人があふれ、車両に閉じ込められた人が次々と助け出されました。南海トラフ巨大地震などが起きた場合も、一定期間運休や通行止めとなり、孤立は避けられないとみられます。
協会は、会場に取り残される人は最大15万人と試算。一時滞在施設として、パビリオンや大屋根リングなども活用することにしています。また、15万人が最長3日間過ごせるよう、90万食分の備蓄を確保し会場内に保管する計画が決まっています。
一方、現在急いで進められているのが、対岸にある舞洲や咲洲での一時滞在施設の確保です。複合施設ATCは今年9月、万博の帰宅困難者を正式に受け入れることが決まりました。
(ATCの担当者 福井崇之さん)「万博の帰宅困難者を受け入れたいなと。300人くらい、この会場だけでいけると思う」
今後、ATC以外の施設の確保に向けても協力を働きかけていく予定です。
ただ、会場で最も重要な避難誘導を主に担うのは、パビリオンなどにいる現場スタッフ。兵庫県立大学大学院の紅谷昇平准教授は、「安全」を確保するためには訓練が不可欠だと指摘します。
(兵庫県立大学大学院 減災復興政策研究科 紅谷昇平准教授)「訓練を重ねていく中で、例えば『ここに人が集中しそうだから案内を分けよう』とかが見えてくる。(Qパビリオン建設の遅れは影響する?)決してプラスではないですね。案内や防災誘導など、いろんな面で準備期間は短くなるので」
協会の事務方トップも「安全安心」な万博に向け、今後、スタッフの教育や訓練に力を入れたいと話します。
(博覧会協会 石毛博行事務総長)「実際に災害が起こった時に、どうスムーズに対処できるかというトレーニングをしていく必要があると思っています」
爆発事故などを受け「無料招待事業」に不安の声 「下見をしたい」教員たちが動く!
課題は、大阪府が進める学校の無料招待事業でも。大阪府は府内の小・中・高校生らを学校単位で万博に1回無料で招待する予定で、今年7月時点で府内の約8割の学校が参加を希望しています。しかし、今年3月の爆発事故などを受けて、子どもたちを安心して万博に連れていけるか不安視する声も上がっています。
(大阪教職員組合 米山幸治書記長 今年6月)「安全が保障されているとはとても思えない」
今年6月、会場となる夢洲に現役の教諭らの姿がありました。遠足のあり方などについて研究するグループで、会場の下見の時期がなかなか決まらないなか、せめて会場の外側だけでも視察しようとやってきたのです。しかし、入場ゲートの場所が確認できた程度で、引率のイメージをつかむことはできませんでした。
(現役高校教諭)「(入場ゲートは)1つの学校全員来ても全然余裕はあるけど、3校くらいでパンパンになるんちゃうかな」
(現役高校教諭)「安心して連れていきたいし、不安要素を1つでも削りたい。事前に私たちも知りたいし勉強したい」
安全で教育的意義のある校外学習にするためには、パビリオンの中身などの情報共有や早い時期の下見が不可欠と考えていますが、現状、博覧会協会は開幕後の下見しか認めていません。さらに、下見をした結果、万博に行くのを取りやめた場合、下見でかかった入場料を学校側に請求する方針です。
(現役中学教諭)「声を上げなかったら、教員に請求されることだってあり得ると思うんです。でもそんなおかしな話ないやろ」
グループは、これまで府などに意見書を出し対応の改善を求めてきましたが、大きな進展はありませんでした。そこで次の手段として『請願』に踏み切ることに。請願とは、自分たちの要望を議会を通じて国や自治体に伝えること。請願が議会で可決されれば、行政側は請願内容にどう対応したかなどを議会に報告する義務があります。議会を通じて市民が行政をチェックできるのです。
今回の請願内容は、主に以下2つ。
(1)“キャンセル料”によって学校が万博に行くかどうかを決めることに影響しないよう、最終的な万博参加・不参加の判断にかかわらず下見ができるようにすること
(2)会場の安全対策など、教員が答えられない保護者からの問い合わせについての窓口を大阪府に設けること
ただ、請願を提出するには賛同する1人以上の議員の署名が必要で、可決するには議会の過半数が賛成しなければなりません。
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