AT限定普通免許で運転できるディーゼルトラックとして話題のいすゞ「エルフミオ」。そのOEMモデルがさきごろ、日産、マツダからも発売された。もちろん基本的には同じクルマで、乗用車ディーラーが販売することでその販路も広がりそうだが、見た目以外にも違いがあった。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/フルロード編集部、いすゞ自動車、日産自動車、マツダ

いすゞ1トン積トラックの軌跡

いすゞエルフミオ。写真は総輪小径タイヤ・全低床のフルフラットロー。エルフミオの型式「NHR」は、もともと4代目エルフの積載量1~1.5トンモデルに付与されたものだが、5代目以降は1.5トンモデル専用となっていた

 先日開催されたエルフミオのプレス試乗会(試乗レポートも掲載予定です)で、同車が今夏の発売以来、1500台以上の受注を集めていることが明らかにされた。これは、先代(6代目)エルフの最小車型・積載量1.5トンモデルの年間販売台数に匹敵する規模という。

 発売から半年足らずという段階なので、小型トラック普免モデル需要の大きさを証明するには時期尚早だが、物流企業やレンタカー会社などフリートユーザーから予想以上の引き合いがあるらしく、メーカーがかなりの手応えを感じているのは確かだ。

 いすゞが、今のエルフミオに匹敵する積載量1トンクラスのエルフを開発・発売するのは初めてではなく、4代目エルフ(1984~1993年)まで1トンクラス車を設定していた。5代目エルフが登場する1993年は、同社が乗用車などモノコックボディ車の自主開発・生産を中止した年だが、実はトラックでも『選択と集中』が進められ、非主流モデルのエルフ1トンクラス車と積載量850kgクラスの「ファーゴトラック」は統合の上、OEM調達となったのである。

 それが1995~2021年の26年間にわたって展開していた「エルフ100」で、日産アトラス10(F23型およびF24型)のいすゞブランド車だった。
 
 エルフミオは、いすゞにとって四半世紀ぶりの自主開発になる積載量1トンクラス車というわけだが、今度は「普免で運転できる車両総重量3.5トン未満トラック」という『新たな本流』を目指した戦略的なクルマとして、その存在意味は大きく変わったといえるだろう。

1995年、4代目エルフNHR/S積載量1トンモデルおよびファーゴトラック(NFR/S)の後継車として設定されたエルフ100。日産アトラスF23積載量1~1.5トンモデルのいすゞ向けOEMモデルである

「自家用ユーザー」が多い市場

日産の国内向けキャブオーバー型小型トラック最後のモデルとなったアトラスF24。積載1~1.5トンを中心とし、2トン積モデルもあった
マツダ タイタンダッシュ。1トン積クラスのボンゴブローニイトラックの後継1~1.5トン積モデルとして、2~4トン積クラスのタイタン(4代目)とともに2000年にデビューし、「ダッシュ」のみ2010年まで生産された

 ……といういすゞ積載量1トン小型トラックの略史(これでも一部)は、実は本稿の前フリである。

 このエルフミオ投入を密かに期待していたのは、いすゞから積載量2~4トンクラスのエルフをOEM調達してきた、日産(1995~2012年、2021年以降の再開では1.5トン車を含む)とマツダ(2004年~)ではないだろうか。

 というのは、エルフミオのクラスはもともと、自営業などの自家用トラック(白ナンバー)ユーザーが伝統的に多い市場で、客層が乗用車ユーザーと近い。また、食品の小口配送を行なう大口ユーザーが好んで導入してきたのもこのクラスだった。そしてドライバーは基本的に普免取得者である。

 その自家用トラック市場をメインとしていたのが、日産であり、マツダだったのだ。

 しかし日産は2021年に、マツダは2010年に、それぞれ小型トラックの自主開発・生産から撤退した。撤退の理由は各社の事情によって違うが、いずれも最後まで残っていたオリジナルモデルは積載量1~1.5トン車だった。母体ユーザーには可能な限り商品の供給を行なってきた企業努力の跡でもある。

 いすゞにとってエルフミオは、当然このマーケットを視野に入れているが、いま現在も保有ユーザーがいる日産、マツダにとっても、ラインナップ補完モデルとして魅力的なクルマである。特にディーゼル車は、積載量850kgクラスの日産バネット、マツダボンゴを含めてブランクとなってきただけに、母体ユーザーのニーズに応えるポテンシャルは高いだろう。

メーカー扱いの特装車はオリジナル!?

エルフミオの日産向けOEM車・アトラスF26普通免許対応モデル。ちなみに日産向けNHRには「AHR」という型式をいすゞが付与している
エルフミオのマツダ向けOEM車・タイタンLHR。LHRはマツダ向けNHRを示すいすゞの型式に由来する

 エルフミオの日産向けOEM車は『アトラスF26普通免許対応モデル』、同じくマツダ向けOEM車は『タイタンLHR(普通免許対応車)』と、それぞれに表現されている。日産は直截的なタイトル、マツダは車両型式(LHR87AF)からの引用で、『ミオ』に類するような接尾詞や特別な名称を与えておらず、割と地味な扱いではある。

 エルフミオ、アトラス普免車、タイタンLHRは、フロントグリルのデザインとエンブレム類、ボディカラー設定色数などが異なり、アトラス普免車、タイタンLHRではフロントバンパーはボディ同色のみ、ADAS(先進運転支援システム)装備がエルフミオのスタンダードパック(メーカーオプションの充実仕様)相当が標準となるほか、一部の装備が標準となるかオプションとなるかといった程度で、中身は同一のクルマである(ただし現時点で未発売の車型がある)。

 だが、アトラス普免車では、日産の子会社オーテックジャパン扱いの特装車が用意されており、いまのところメーカー扱いの特装車を絞りこんでいるエルフミオよりも、特装車ラインナップが充実しているという「逆転現象」がみられるのだ。

 そのラインナップには、ドライバン、保冷バン、冷蔵・冷凍バン、テールゲートリフタ付平ボディ、電動ダンプが並び、さらに「架装事例」としてカーテン車や4ナンバードライバンおよび温度管理バンまである。中にはエルフミオと同一の架装(電動ダンプ)もあるが、もっともオーソドックスなドライバンは北村製作所製(エルフミオはパブコ製)で、荷箱の内法サイズと床面地上高、積載量といった主要スペックもすべて異なるなど、日産オリジナルの展開が広がっている。

先代を受け継ぐラインナップ

日産は、子会社のオーテックジャパンで商用車モデルの特装車を展開してきた。写真はアトラスF26普免モデルのバン専用フルフラットローシャシーをベースとしたドライバン完成車で、オーテック独自設定の北村製汎用バンボディを架装している

 実はアトラス普免車の特装車ラインナップは、先代たるアトラスF24特装車の一部を継承するような内容になっているのだ。シャシーと車両総重量が一変しているので、完全には同じ上モノではなく、一部の車種と架装メーカーが設定されなくなってはいるが、日産の母体ユーザーを意識したラインナップであることは明らかだ。

 いっぽうタイタンLHRでは、エルフミオと同じ電動ダンプ完成車を設定しているものの、ドライバン完成車は未設定。タイタン2~3トン車で設定しているマツダE&T扱いの特装車「TESMA」シリーズの展開も、いまのところLHRにはみられない。これも母体ユーザーの違いだろう。

 もちろん、完成車だけではなくキャブ付シャシーも存在しているので、物理的重量的な制約以外で架装が限定されているわけではない。民需架装として意外なクルマが現れるかもしれないので、期待してウォッチしたいと思う。

 ちなみに、エルフを「カゼット」としてラインナップしているUDトラックスでは、エルフミオを追加する予定はないとのことだった。

マツダでは特装子会社・マツダE&Tで、「TESMA」ブランドの特装車を扱っているが、タイタンLHRではいまのところ特装車の設定はないようで、平ボディ以外は電動ダンプ完成車がみられるのみ

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