4年前の2020年、コロナ禍で大会開催が困難な社会状況も考慮し、ゴールデングランプリ(以下GGP)はドリームレーン枠として、有望高校生選手に出場機会を設けた。その時に出場した高校生2選手が成長し、今大会の男子100mと男子400mハードルに優勝した。
GGPはワールドアスレティックスコンチネンタルツアーの中でも、14大会のみに与えられた「ゴールド」ランクの競技会。今年は東京五輪会場だった国立競技場で5月19日に開催された。
男子100mは昨年の世界陸上ブダペスト6位のサニブラウン・アブデル・ハキーム(25、東レ)と、昨年の日本選手権優勝者の坂井隆一郎(26、大阪ガス)が、レース中に脚の痙攣でスピードを緩める展開に。混戦となったが若手の栁田大輝(20、東洋大3年)が10秒21で、4人が0.04秒差でフィニッシュする接戦を制した。

予選で生じた課題を修正。「勝ちきった」ことに価値

ドリームレーン枠でのGGP出場から4年。栁田大輝が成長した姿を同じ国立競技場のトラックで見せた。
3レーンの和田遼(24、ミキハウス)が好スタートを切ったが、本来スタートを得意とする5レーンの坂井は、脚が痙攣したため3歩目でつまずく動きになって失速。序盤はサニブラウン、東田旺洋(28、関彰商事)が和田と並んでいたが、サニブラウンも間もなく脚の痙攣で失速した。後半で4レーンの栁田が、左隣のレーンの和田に並び、最後は競り勝った。栁田10秒21、8レーンの東田が10秒22の2位、和田が10秒23の3位。タイムはパリ五輪標準記録の10秒00と差があったが、栁田にとっては収穫のあるレースだった。

「予選(1組1位。10秒31)のスタートがイマイチでしたが、ちゃんと出られれば勝負できると思いました。決勝のアップはそこだけ意識して、きっちり修正できました。(坂井が減速したことも)あれ、いないぞ、とわかりました。隣でしたから。そこで動揺しなくてよかった」

先行した左隣の和田は東洋大の先輩で、坂井は対戦が多く昨年の日本選手権は1、2位だった(0.02秒差で坂井が優勝)。

4月に米国で10秒02の自己タイで走っていることを考えれば、栁田の状態が万全でなかったことは明らかだ。それでも予選の課題を修正し、両隣を意識しながらのレースになっても「しっかり勝ちきることができた」。自身に一定の評価を与えた。

スプリンターに専念するキッカケとなった4年前のGGP 

20年のGGPに高校2年生の栁田はドリームレーン枠で出場し、10秒27と当時の高校歴代6位タイで走った。シニア選手と走る高校生は、萎縮してしまって力を発揮できないことも多い。栁田は当時から、格上の選手たちが相手でも力を発揮していた。それが国際大会での強さにつながっていく。

だが4年前の栁田は、走幅跳選手としても期待されていた。18年の全日本中学選手権、19年の国体少年B(中学生と高校1年生カテゴリー)と走幅跳で2年連続全国大会に優勝。2大会とも2位に20cm以上の差をつける圧勝だった。
しかし100mでも全日本中学選手権2位と、2種目で才能を示していた。4年前もGGPの約1か月前には走幅跳で7m51の自己新をマークした。だがGGPをきっかけに100mに専念し始めた。桐生祥秀(28、日本生命)が優勝し、ケンブリッジ飛鳥(30、Nike)が2位。リオ五輪4×100mリレー銀メダル・メンバーと戦ったことで、最速を突き詰める種目に心が動いた。

ドリームレーンを経験した翌21年は、100mでインターハイに優勝。22年はU20世界陸上6位と世界陸上オレゴン4×100mリレー代表、23年はアジア選手権優勝(10秒02の自己新)と世界陸上ブダペスト準決勝進出。栁田の世界に向かって成長する様子は、GGPの戦績にも表れていた。

【栁田のGGP戦績※種目は全て100m】
◆2020年(農大二高2年)
予選3組4位・10秒27(+0.7)=自己新
当時高校歴代6位タイ
決勝5位・10秒36(-0.2)

◆2022年(東洋大1年)
予選2組2位・10秒32(-0.4)
決勝4位・10秒27(+0.1)

◆2023年(東洋大2年)
予選1組3位・10秒13(+1.6)=自己新
決勝7位・10秒19(+0.4)

◆2024年(東洋大3年)
予選1組1位・10秒31(-0.7)
決勝1位・10秒21(-0.1)

今季も4月27日の米国でのレースで10秒02の自己タイ。GGP初出場時から見せていた大舞台での強さは、海外で2度も自己記録を出すことにつながっている。

5月25日のダイヤモンドリーグ・ユージーン大会参戦も決まった。ユージーンは記録が出やすい高速トラックとして知られる。10秒00のパリ五輪標準記録突破や、9秒98の学生記録更新も期待できる。単日開催競技会では世界最高レベルのダイヤモンドリーグでも、栁田は本領発揮するだろう。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

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