史上初となる延長タイブレークで決着が付いた夏の甲子園決勝から2日後の25日(日)、もうひとつの高校野球でも全国大会が幕を開けた。全国高校軟式(なんしき)野球選手権大会だ。
この日、兵庫県明石市にある明石トーカロ球場で行われた1回戦の第2試合に登場したのが中京高校(岐阜)。直近6年間で優勝5回、今大会は3連覇を狙う軟式野球の強豪だ。そこで軟式野球部のコーチを務めるのが同校教員の後藤敦也さん(27)。自身も中京高校軟式野球部のOBだ。
「負ける訳にはいかないからやり続けるしかない」延長50回の激闘を振り返る
中京高校と言えば、10年前の2014年に崇徳高校(広島)と延長50回に及ぶ激闘を繰り広げたのがいまも記憶に新しい。延長15回で決着がつかなかった場合、サスペンデッドゲームとして翌日に試合が再開され、3度のサスペンデッドゲームを経て、両チーム無得点のまま4日目は延長46回から再開。試合は延長50回に中京高校が3点を取り勝利を収めた。その試合で決勝点となる先制打を放ったのが、当時キャプテンを務めていた後藤さんだった。「ここで教わってきたこと、監督さんがずっと大事にしていること、それが好きでこの野球部に戻ってきた」と、現在は英語科の教員になり母校の野球部を指導している。
昨今では、夏の甲子園で試合を午前と夕方に分ける2部制や、延長タイブレーク制が導入されるなど、酷暑から球児を守る対策が敷かれている。さらに、既存の9イニング制から7イニング制に短縮する案も検討が進められている。この時世から考えれば、「延長50回」という言葉そのものが衝撃的なものだろう。
当事者の後藤さんは「終わってみればとんでもないことかもしれないけど、そりゃあ負ける訳にはいかないからやり続けるしかないですよね」と時より笑みを交えながら当時のことを語ってくれた。「とにかく頭を使う、相手の作戦などこれから起こりうることを予測し、起きたことに対して慌てず動くことを心がけてやっていた。その一球一球の積み重ねなんです。」と振り返るが、当時の中京高校は先攻め、セカンドを守っていた後藤さんは1点取られればサヨナラ負けという緊張感の中で守り続けていた。「多少のことでは動じなくなった。急に何かが起こっても心や頭を冷静にいられるようになりましたね。」と、延長50回を戦い抜いたタフな経験はその後の人生に活かされていると話す。
「守備の緊張感は相当ある」後藤さんが語る軟式野球の面白さ
硬式と比べて打球が飛びにくいとされる軟式野球は、1点を争うタフな試合展開になりやすいのが特徴。その競技特性が「延長50回」という伝説を生み出したと言っても過言ではないだろう。攻撃面ではバントやヒットエンドラン、さらにはボールの特性を活かして内野に叩き付けるバッティングなど、緻密な攻撃が多く用いられている。改めて軟式野球の面白さを聞くと、「あれだけ跳ね上がったり、変な回転がかかったりと、守備の緊張感は相当あるんじゃないかな」と後藤さんは教えてくれた。実際に、取材をしたこの日の中京高校の試合は1点を争う展開となり、緊迫した場面で高く跳ねた打球やファールゾーンから巻き込んで入ってくる様なスピン回転のかかった打球が内野に飛び、その都度間一髪のタイミングでアウトを奪いグラウンドとスタンドが最高潮の盛り上がりになる場面が見られた。
3連覇を目指す今大会、「いまできることをとにかくやるだけ、それだけでいいんです」とここまで練習を積み上げてきた後輩たちを信じて後藤さんはスタンドから見守る。幕を開けたもうひとつの高校野球、これからどんなドラマが生まれるのかこちらからも目が離せない。
(取材・執筆:毎日放送スポーツ局 林新太郎)
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