パリ五輪の注目選手をスポーツライターの佐藤俊氏が紹介する。今回から正式採用された「ブレイキン」。日本はこの種目、実はとても強く、大いに期待される。

サッカー、メダル獲得なるか

7月26日から8月11日までパリ五輪が開催される。

東京五輪から3年、選考という競争を勝ち抜いてきた選手がパリを舞台に世界と戦うことになる。8位内の入賞はもちろん、メダル獲得の期待が高まる注目の個人、団体スポーツを取り上げてみた。

開幕に先駆けてスタートするのは、サッカーだ。男女ともに出場するが、とりわけ期待が大きいのは、U23日本代表がメキシコ五輪以来56年ぶりのメダル獲得を目指す男子サッカーだ。パリ五輪の予選だったU23アジア選手権で優勝し、日本はアジアチャンピオンとしてパリ五輪に臨むことになる。

五輪チームは、レギュレーションにより、23歳以下の選手で構成されるが、本大会ではOA枠(23歳以上の選手3名)が使用できる。

だが、今回は、そのOA枠を活用しないことになった。

短期決戦では守備の強化が重要で、ベスト4まで行ったロンドン五輪、前回の東京五輪ではいずれも吉田麻也らOA枠で守備の選手を採用し、負けないチームを作った。今回、OA枠なしで、手堅い守備網を作れるかどうか。また、久保建英ら日本代表で活躍する選手の招集はクラブとの交渉で実現できなかった。

ただ、藤田譲瑠チマや町田で売り出し中の平河悠らアジア選手権優勝メンバーがチームの軸になっており、タレントは揃っている。大岩剛監督は、「メダルを取る、決勝に進むということをターゲットにずっとやってきているので、それに向かって一歩一歩進んでいきたいなと思います」と語る。

まずは初戦のパラグアイ戦にしっかり勝って勢いをつけ、マリ、イスラエルに取りこぼしせず、グループリーグを突破できれば、半世紀ぶりのメダルが見えてくるだろう。

東京で銀の女子バスケ、今回はいよいよ…

東京五輪で銀メダルの女子バスケットボールは、パリ五輪では金メダルを目指す戦いになる。トム・ホーバス前監督は、インサイドに選手を配置しない5アウトのシステム、スリーポイントシュート、成功率の高いペイントエリア内にシュートを集中させる戦術を徹底。決勝でアメリカに敗れたが日本のスタイルの確立など銀メダル以上の成果を得た。

東京大会後、恩塚亨ヘッドコーチは「走り勝つシューター軍団」をコンセプトに掲げてチーム作りをしてきた。世界は190cm台が顔を揃える中、今回の日本の平均身長は、東京五輪を2cm下回る173.6cm。海外勢との体格差を埋めるべく高めてきたものが、運動量、スピード、スリーポイントなどのシュート力だ。

また、パリ五輪のメンバーは、12人中、東京五輪経験者が9名で残り3名も五輪経験者になっており、その経験はパリの舞台でも活きるだろう。

主将の林咲希は「世界一になって日本に帰ってきます」と宣言しているが、初戦がキーになるだろう。グループリーグ初戦は東京五輪の決勝の相手アメリカ、さらにドイツ、ベルギーとつづく。小兵のスピード軍団としてコートを走り抜き、パリっ子たちのハートを射抜いて悲願の金メダルを獲得し、歓喜のシーンを実現してほしい。

「海外経験」が活きる男子バレー

バレーは、男子バレーボール日本代表が熱い。東京五輪では、92年バルセロナ大会以来29年ぶりに決勝トーナメントに進出し、7位。23年のネーションズリーグでは銅メダルを獲得し、同年秋のパリ五輪の予選を兼ねたワールドカップでは08年北京五輪以来の自力での五輪出場権を手にした。さらに5月末から始まったネーションズリーグでは決勝に進み、銀メダルを手にした。世界ランキングは2位で、まさにライジングサンの勢いだ。

ここまでチームが成長したのは、コンビネーションなど東京五輪の時から積み重ねてきたものもあるが、「レシーブ力」が格段に増し、守備力が上がったのが大きい。世界レベルではどこの国もサーブ、スパイクは素晴らしい。だが、レシーブは日本ほど良くはない。日本は、そこにフォーカスし、レシーブを磨いてボールを拾いまくるバレーでネーションズリーグの決勝に進出した。パリ五輪でもレシーブ力が大きな武器になるだろう。

また、選手個々のレベルアップがチーム力を爆発的に上げているのも大きい。イタリアでプレーする主将の石川祐希、帰国した西田有志はともに「海外の経験が大きい」と語る。サッカーもそうだが、選手が海外の強豪チームでプレーすることで個人戦術が飛躍的に向上し、相手が常に外国人選手なのでビビらずにプレーすることができる。

その経験値は想像以上に大きく、今の日本の選手を見ているとどんな相手にも自信を持って「負けない」という意識でプレーしているのが見て取れる。宮浦健人、髙橋藍も海外経験者であり、選手層でいえば世界トップレベルにあり、それが「史上最強」とも言われている所以でもあろう。

パリ五輪では世界ランキング2位の日本はプールCでアメリカ(5位)、アルゼンチン(8位)、ドイツ(11位)と同組にあるが、油断さえしなければ決勝トーナメントには進出できる。そこから勝ち上がり、72年のミュンヘン大会以来、52年ぶりのメダル獲得に臨む。

今回から正式採用の「ブレイキン」

個人種目で注目なのは、パリ五輪から正式採用されたブレイキンだ。基本的なダンスの型(ステップ、フットワーク、パワームーブの技)はあるが、それをアレンジしてオリジナリティを出すことが非常に重要になる。ブレイキンの対戦はバトルと呼ばれ、1対1の戦いになる。音楽を流すDJや、進行役を務めるMC、ジャッジを行う審査員によって進められる。

日本は、このブレイキンが強く、男子代表のダンサーネームShigekixこと半井重幸は7歳からダンスを始め、22年世界選手権2位、23年世界選手権3位と日本のエース的存在。「目標は金メダル」とハッキリと宣言する通り、世界のトップを狙いにいく。

Hiro10こと大能寛飛は、パリ五輪予選シリーズで3位、6位とまとめて代表の座を射止めた。金沢市出身で能登半島地震では石川県に住む祖母が被災した。「地元の人たちに元気を届けたい。パリは死ぬ気で頑張る。金メダルを絶対取る」と熱く語る。

女子はダンサーネームAmiの湯浅亜実とAyumiの福島あゆみの2人が第1戦に続いて決勝まで勝ち進み、パリ五輪の座を勝ち取った。湯浅は小5の時にブレイキンを始め、第1回WDSF世界ブレイキン選手権(中国・南京)優勝、第1回世界アーバン大会(ハンガリー・ブダペスト)優勝、ともに初代女王に君臨、抜群の実績を誇る。

福島は21年世界選手権優勝、22年世界選手権3位、23年世界選手権2位と41歳ながら抜群の安定感と強さを誇るが、一方で拠点の京都では幼稚園などでダンスや英語を教える先生の顔も持つ。大技に頼らず、基本で精度の高い技を繰り出すスタイルで、「1戦1戦、大事に戦って最後にそれ(メダル)が見えたらいい」と目前の試合に集中して勝ち上がっていくという。

男女ともにアベックでの金メダル獲得は決して夢物語ではなく、普段通りの力を発揮すれば日本勢が金銀のメダルを独占する可能性もあるだろう。

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