転換期の経済においては避けられない動きなのか。企業の倒産が急増している。東京商工リサーチによると、令和5年度の企業倒産は9年ぶりに9千件台に達した。新型コロナ禍に伴う政府の手厚い資金繰り支援が終了し、苦境に立つ中小・零細企業は多い。物価高によるコスト増も追い打ちをかけている。
さらに経済活動の活発化に伴う人手不足だ。働き手を確保しづらい状況は賃上げを促し暮らしを上向かせる面がある。一方で賃金を上げなくても人を雇えた時代の終焉(しゅうえん)は企業経営の重しとなる。労働供給の制約は悲喜こもごもの影響をもたらす。
戦後日本を振り返ると、昭和30~40年代の高度経済成長期を支えたのは農村から都市の工業部門へと流入した潤沢な労働力だった。無論、この流れがずっと続いたわけではない。農村からの流入が止まる時点は、経済学で「ルイスの転換点」と呼ばれ、通常はこれを過ぎると賃金に上昇圧力がかかり企業経営を圧迫する。日本は高度成長期の終わりごろが転換点だった。
幸運だったのは、農村からの流入が細っても日本の人口自体は拡大期にあったことだ。生産年齢人口の減少は平成以降である。それまでの間に分厚い中間層が形成されて消費を支え、企業は省エネ技術の開発や海外展開を積極化できた。こうした時間的な猶予があったことは、ルイスの転換点と人口減少がほぼ同時期だとされる今の中国とは異なる日本の特徴である。
翻って、現在日本の人手不足はどうか。これまでは女性や高齢者の労働参画で人手不足を相殺できた面もあったが、今後はそうもいくまい。女性・高齢者層の就労は既にかなり進んでおり、新たな働き手を確保する余地が狭まってきたからだ。
その点では農村からの労働力を期待しにくくなった昭和期の構図とも似ているが、人口減の真っただ中にある点で今と当時は全く違う。だからこそ企業の人手不足対策には従来にない強い覚悟が求められよう。
賃上げ原資を確保するためにも、デジタル関連の投資で事業の効率化を図ったり、適正な価格で製品・サービスを提供できる成長分野を強化したりするのは有効だ。こうした積極的な経営の広がりに期待したい。人手不足が本格化する中で事業継続を断念せざるを得ない企業もあるだろうが、今は同時に、新たな成長基盤を構築する好機でもあると認識しておきたい。
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