2025年の春闘に向けて、労働組合からは2024年を上回る賃上げ要求目標が続々と出てきている。賃上げの波は続くのか。

賃上げ前倒し企業の狙い 半年前にも… 再び賃上げ

家電量販店のビックカメラは、春闘を前に早くも12月支給分から正社員の賃上げを実施した。

ビックカメラ 人事部 川瀬大部長:
今回ベースアップと定期昇給を合わせて、正社員約4700人に関しての5.6%ほどの賃上げを行った。最高で2万円のアップをしている。業績をいち早く給料の部分に反映させたいというところが一つ。今後の人材をしっかり確保していく部分で、採用率・採用力をしっかり上げていかなければいけないので、前倒しでの賃上げを行った。より働きやすい、働きがいのある環境作りは非常に大事。

これまでビックカメラは5月に賃上げしていたが、今回から12月に前倒し。既に5月に11.8%の賃上げをしていて、わずか半年で再びの賃上げとなる。2024年8月期の決算では、訪日外国人客向けの免税売上高が667億円と過去最高となった。好調な業績を賃金に反映し、優秀な人材の確保に繋げたい考えだ。

過去最高の賃上げ要求も 中小企業に波及するか

自動車や電機など主な製造業の労働組合が加盟する金属労協は12月3日、2025年の春闘で、ベースアップを月額1万2000円以上とする要求を発表した。過去最高額だった2024年の1万円以上の要求を上回っている。2025年の賃上げの意義について、金属労協の金子議長は…

金属労協 金子晃浩議長:
物価上昇が続き、人手不足も変わらず、経済成長の実感も乏しく、国際的な賃金水準も低位のまま。こうした状況だけに鑑みても、これまでの賃上げの流れを止める理由が全く見当たらない。賃上げの流れを今後も定着させていくために、極めて重要な年になる。

各労働組合から、高い要求が相次いでいる。機械や金属産業の中小企業からなる、ものづくり産業労働組合「JAM」は、ベースアップ分として過去最高となる月額1万5000円以上を目指すことを明らかにした。

流通や外食などの労働組合「UAゼンセン」は、ベアと定期昇給分を合わせて全体で6%、パートなどの非正規雇用で働く人は7%とする方針を発表した。

こうした中、政府は12月6日、全ての世代の賃金、所得を増やすことを最重要課題とする、来年度(2025年度)予算編成の基本方針を閣議決定した。今後は価格転嫁や生産性の向上を通じて、中小企業の賃上げに広がるかが焦点となる。

経済同友会 新浪剛史 代表幹事:
大手企業は別にして、中小企業をどうするかが一番重要な問題。(中小企業の)賃金が上がっていく画をちゃんと描けないと、全体の賃金が恒常的に上がる画は描けない。中小企業がちゃんと上げられる仕組みを作っていく。

過去最高の賃上げ要求も 賃上げ実現に何が必要?

2025年の春闘に向けた動きが始まり、2024年を上回る要求が続々と出ている。労働組合の賃上げ要求目標をみると、連合の「全体5%以上」「中小企業6%以上」の要求を皮切りに、自動車・電機・鉄鋼・重工などの労働組合で構成される金属労協は過去最高水準のベースアップ1万2000円以上を要求する方針。私鉄総連はベア1万3400円、流通や外食のUAゼンセンも全体で6%、パートなど非正規は7%と強気な要求が目立っている。

――金属労協がベア1万2000円以上、20%アップの要求を出してきた背景は?

東京大学名誉教授 伊藤元重氏:
思ったより高い要求を出してきた。最大の理由はやはり労働力不足だろう。深刻さでいうと、去年より今の方がかなり厳しく、賃上げの大きな圧力になっている。ここで賃上げが衰えると失速感がより強い。だから何とかして賃金を上げたいという思いが関係者に強いのではないか。

――連合が「全体5%以上」と言っていて、これは2024年と同じだが、中小企業は「6%以上」とより高い賃上げ要求を出してきた。

東京大学名誉教授 伊藤元重氏:
これまでは中小企業の方が、大手企業よりも低かった。長い目で見て、中小企業はもっと上げてもらいたいという思いがあると思う。実際にそうなるかどうかまた別の話だ。

過去の賃上げ率を見ると、2023年の春闘から様相が変わり、3%という数字が出て、2024年の春闘で5%を超えた。2025年、5%以上を掲げている。

――好循環という意味では、どの辺まで来たか。

東京大学名誉教授 伊藤元重氏:
実質賃金は最近になって少しゼロに近づいた。賃金は物価に比べて遅れてきた。それを取り戻すということになると、賃金はもう少し上がり続けなければならない。もし上がらないと失速感が出るのではないかという話をしたが、そういう意味で2025年の賃上げは非常に重要だ。

――3年続けて上がってはじめて「定着」という意味か。

東京大学名誉教授 伊藤元重氏:
そういうことだ。

実質賃金の最新データ。10月の実質賃金は前年同月比で同水準だった。2024年6月に27か月ぶりにプラスに転じた後、8月以降は2か月連続でマイナスとなっていた。

――傾向としては、少しずつ良くなってきているか。

東京大学名誉教授 伊藤元重氏:
追いついてきている感じだ。元々賃金は「遅行指標」(景気の動きに遅れて変動する経済指数)といって、遅れて対応するので自然な現象ではある。(実質賃金がプラスにならないと、世の中良くなったという実感はない)そういうことだ。

――上げるためには、名目賃金を上げるか、物価を下げるかどちらかしかない。

東京大学名誉教授 伊藤元重氏:
今の段階で物価を大幅に下げるような政策はなかなか難しい。やはり賃金がカギになる。

――2025年の春闘でも、名目賃金を高めに上げていかなくてはいけないか。

東京大学名誉教授 伊藤元重氏:
賃金を上げるためには、ある程度、価格転嫁も進めていかなければいけないので、物価はむしろ「上げる」とは言わないが、下げ止まる要因なので、賃金は大変重要だ。

――政策的な支援も必要だということになるが、何が一番大事か。

東京大学名誉教授 伊藤元重氏:
結局、賃金はマーケットが決めるところ。賃金を上げないと日本経済にとって非常にまずいことになるという思いをみんなが共有するということだろう。その意味でもやはり2025年3月の春闘は、非常に重要な意味を持っていると思う。

――政府も「価格転嫁を進めましょう」という音頭取りをしている。公正取引委員会も積極的にコミットしているが、これは大事か。

東京大学名誉教授 伊藤元重氏:
引き続きやっていく必要があると思う。企業のいろんな会合に出ても、そういう動きはみんな意識していると思う。だからといってすぐ価格を上げるわけではないが、価格転嫁は少し進んでくるだろうと期待している。

日米の金融政策どうなる? トランプ氏の政策の影響は?

――今後の金融政策。日銀が近々利上げに踏み切るという見方もあるが、ここで金利を上げることが、賃上げや景気にマイナスになる心配はあるか?

東京大学名誉教授 伊藤元重氏:
今、物価が2%を超えて伸びている。日銀の政策金利0.25%でその差額、実質金利が非常に低い。ここで多少金利が上がったからといって失速に繋がるとは思えない。むしろ2%を超える物価が2年以上続いているのに、未だに0.25%と非常に低い政策金利はおかしい。だから早く政策金利を上げた方がいいと思っている。

――もう一つ焦点は、為替相場。円安が非常に進んでいて今も150円ぐらい。これがずっと続くと物価高に効いてくるので、少し円高方向に是正するにはどういう手があるか。

東京大学名誉教授 伊藤元重氏:
実際問題として、為替には金利が一番効く。為替の動きを見た時には、円安を是正する段階では金利を上げた方がいいのではないか。ただ日本銀行は、為替のために金融政策とは言わないと思う。本音と建前がどういう形で出てくるか。ただ為替が重要な要因であることは事実。あまり円安が進むと、利上げの可能性は高くなると思う。

――今、景気もそんなに悪くなっていない。利上げする環境は整っているか。

東京大学名誉教授 伊藤元重氏:
トランプ政権が出てきていろんなことが起こる前に、金利を上げたらいいとは思う。

(BS-TBS『Bizスクエア』 12月7日放送より)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。