大人気の“水素ホテル”に“水素で焼く”ブランド牛。今、水素エネルギーを使うホテルや旅館が増えています。なぜ水素なのか?取材をすると“エコ”だけじゃない別の理由も見えてきました。

「水素」で調理する人気割烹料理

神奈川・箱根にある旅館『強羅花扇 円かの杜』。
全ての部屋についている露天風呂や、別の源泉をひく大浴場がウリですが、中でも人気なのが、カウンターで食べる割烹料理です。

『円かの社』総料理長 柴尾良太さん:
「火力が強いので、食材の火の通るスピードが全然違う」

厨房に導入されているのは、水素ガスの入ったボンベがつながった「水素調理器」。一見普通のガスコンロのように見えますが、最大の特徴は火力が強いことです。

水素を研究する多摩大学の福田峰之客員教授によれば、一般的なガスは1800℃位なのに対して水素ガスの場合は2500℃。さらに水素ガスには臭いがないので、食材そのものの香りをいかせるとのこと。
水素調理器で焼いたブランド牛ステーキの味は…

THE TIME,マーケティング部 西堀 文部員:
「お肉の表面はカリっとしているのに、中はホロンホロンですね。美味しい~」

料理が美味しくなるだけでなく、「環境にやさしい」のも大きなポイント。
燃焼時にCO2を排出しないので、この旅館では水素調理器の導入で、CO2を年間約1.2トン削減できるといいます。

カナダから来た男性客は「水素調理器を使っていると知りこのホテルを選んだ」と話し、客の評判も上々です。

『円かの社』女将 松坂美智子さん:
「私たちの取り組みは本当に小さな一歩なので、お泊まりいただいたお客様が何か感じ取っていただけたらそれが一番」

プラスチックごみ利用の“水素ホテル”

“水素ホテル”と呼ばれているのは、『川崎キングスカイフロント東急REIホテル』(神奈川・川崎市)です。

施設で使用する電気を水素で発電し、年間100トン以上のCO2の排出を削減!
さらに、フロント近くにある小型ハウスでは水素発電の電力を使ってリーフレタスの水耕栽培も行っています。

このレタスは週に1度収穫され、土日に朝食として提供。客からも、「体に優しい感じで嬉しい」「環境にもやさしくていい」と評判です。

ホテルで使う水素を作っているのは5kmほど離れたところにある工場『レゾナック』。
原料は全国の自治体から集めてくる大量のプラスチックごみで、機械で細かく裁断した後に、高温の炉で燃やします。

その時に発生した水素だけを地下のパイプラインでホテルに送っているのです。
ちなみに、ゴミを燃やす時に出たCO2は、ドライアイスや炭酸水に再利用しています。

ホテルの電力は水素が20%で、残り80%も食品廃棄物から生成するバイオガスと“CO2フリー”。地球に優しいエネルギーを使う事は、ホテル側にも大きなメリットがあるといいます。

『川崎キングスカイフロント東急REIホテル』佐田大樹さん:
何気なく過ごしているだけで環境への取り組みに貢献できているという、他のホテルでは味わえない体験が、お客様に選んでいただけるポイントの一つになる」

水素エネルギーで育てたエビを目玉商品に

老舗ホテル『龍宮城スパホテル三日月』(千葉・木更津市)も、2026年に水素エネルギーを導入する計画です。
ホテル近くの土地に水素の製造装置を建設し、家庭から出た空き缶や工場などで廃棄されたアルミニウムから水素を取り出し、電力として使用する予定。

ホテルの敷地内では車エビなどを養殖し、館内の釣り堀で釣ったエビを素揚げで食べたり、茶碗蒸しにして夕食に提供したりと大人気ですが、将来的に「水素エネルギーで育てたエビ」として目玉商品にする計画だといいます。その狙いは…

『龍宮城スパホテル三日月』幾川雅統さん:
「食の循環やエネルギーの循環を、実際この場で観られるのがメリット。お金に代えられない学びの旅行ができる」

“水素のまち”が目指すのは

水や化石燃料、廃プラスチックなど、あらゆる資源から作ることができる「水素」。
ホテル業界をはじめ世界が注目する中、福島県に“水素のまち”も誕生しています。

人口2200人ほどの町には約80台の「水素カー」が走り、子どもが通学に使うスクールバスも「水素バス」。温浴施設のエネルギーの一部にも水素が使われています。

ここは、福島県の沿岸部にある浪江町。“水素のまち”と言われる最大の理由は世界最大級の水素製造施設『NEDO』があるからです。
この施設では水を電気分解して大量の水素を作っていますが、その時に使う電気は太陽光を使った自然エネルギーで発電。

『NEDO』水素アンモニア部 大平英二さん:
「太陽光発電のパネルが6万8000枚あって、全体の面積では東京ドーム4個分ぐらいの大きさ」

こうして作られた水素は全国に送られ、東京を走る水素バスなどにも使われていますが、浪江町が水素エネルギーに力を入れる理由のひとつは「復興」です。

福島第一原発から約10kmの浪江町は、人口が10分の1まで減少。震災から13年経った今でも75%が帰宅困難区域です。

浪江町役場 新エネルギー推進係 渡邉元気さん:
「完全に復興が終わったというのは全くなくてまだ道半ばというのが現実。水素を活用した町おこしにもチャレンジしていきたいし、未来の子供たちが水素を当たり前に使っていけるような、そんな社会にしていきたい」

水素エネ普及への2つの課題

水素の活用が広がる一方で、普及への課題も残されています。
1つは価格。水素を作る過程では電力が必要なので製造コストがかかり、プロパンガスの約3倍の値段になってしまいます。
もう1つは安全性。水素は可燃性の気体なので、安全に輸送や貯蔵ができるインフラの整備が必要です。

まだまだ課題のある水素ですが、アメリカの地質研究所によると、全世界の地中に埋蔵されている量は5兆トン!これは1万年以上の資源になるとのことで、水素の可能性に多くの注目が注がれています。

(THE TIME,2024年11月7日放送より)

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