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<国際的な規制の対象となり、2027年末で世界的に製造が禁止される蛍光灯。代わりを担うLED製造の現場では環境配慮型の「新たな取り組み」が続々スタートしている>

2027年末をもって、一般照明用の蛍光灯の製造・輸出入が「禁止」になる。一体なぜか。

蛍光灯には水銀が入っている。蛍光灯に電流を流すと電極から電子が放出され、その電子と水銀原子がぶつかることで紫外線が放出される。それがガラス管内の蛍光体に吸収されて、可視光線(目に見える光)として放たれる、それが蛍光灯が光る仕組みだ。

つまり、蛍光灯が光るためには水銀はなくてはならない。

しかし、水銀が人体に(他の生物にも)有害であることは誰もが知るところ。杜撰に廃棄される蛍光灯があれば、そこから自然界に有毒物質が流れ出てしまう。

こうした水銀による人体・生物・環境への影響に対する懸念から、2023年に開かれた国際会議で蛍光灯の製造・輸出入を2027年までとする取り決めとなった。蛍光灯をめぐる取り決めは「2027年問題」と呼ばれ、照明業界に大きな衝撃をもたらした。

国際会議での決定を受けてパナソニック エレクトリックワークス社(以下、パナソニックEW社)は10月1日、2027年9月末での蛍光灯の生産終了を発表した。取り決めを受けての生産終了発表は大手メーカーでは初だ。

パナソニックEW社は蛍光灯の国内市場シェア60%を占める最大手。1951年の発売以来、73年にわたり蛍光灯を販売し日本市場を牽引してきた。

2027年9月末の生産終了に向けて、蛍光灯の生産量は段階的に減らし、現在製造を担っている大阪・高槻工場の250人の従業員についても順次、別部門に移り、照明生産の技術を活用できる他の業務にあたるという。

パナソニック エレクトリックワークス社ライティング事業部長の島岡国康氏 Newsweek Japan

「最後の日」が近づく蛍光灯の製造について、ライティング事業部長の島岡国康氏は「最後の1台まで、きっちりと作り込んでいきたい」と語り、今後は「『光は、心を動かす。パナソニック・ライティング』をコンセプトに、心の豊かさとエコの両立に向けて進めていきたいと考えております」と述べた。

蛍光灯がなくなったらどうなる?

では、蛍光灯がなくなったら家庭やオフィス、工場、商業施設の照明はどうなるのだろうか。

環境省が2021年に行った調査によると、住宅内でLED照明を使用している世帯は約7割を占めるものの、住宅内の「全ての」照明をLEDにしている世帯はわずか2割弱。まだまだ多くの場で蛍光灯、あるいは白熱電球が使用されている。

これまでも行政や企業を中心にLED照明への移行を推奨してきたが、蛍光灯の生産終了発表を受けてこうした勢いはさらに加速していくだろう。

蛍光灯からLED照明への移行で約50~60%、白熱電球からLED照明への移行では約80%消費電力が削減されることを考えると、水銀の流出による健康・自然への被害防止に加えて、環境負荷の軽減に期待は高まるばかりだ。

だがその前に、照明業界は目の前に迫る蛍光灯からLED照明への「移行の波」への対処が求められる。

LED照明への切り替えには工事が伴う場合が多いが、ただでさえ電気工事士の人手不足と高齢化が進むなか、今年4月からは時間外労働の上限規制が適用された。そこに移行の波が重なるとなれば混乱は避けられない。

ライティング事業部プロフェッショナルライティングビジネスユニット長の熊澤龍也氏 Newsweek Japan

そこでパナソニックEW社では、照明商品の省施工設計にこだわってきた。主力製品の「iDシリーズ」では、既存のモデルの一部に小さな「電線保持片」を追加することで、器具内で電線を引き回ししやすくするなど、施工に配慮した細やかな設計のバージョンアップを実施してきた。

これらの設計について「非常に細かいかもしれませんけど、電気工事を伴うものですから、このような細かいところにも非常にこだわって、1つ1つ積み重ねてきております」と、ライティング事業部プロフェッショナルライティングビジネスユニット長の熊澤龍也氏は語る。

このほかにもiDシリーズでは、軽量化や各部品の形状最適化など施工性改善につながるモデルチェンジを実施。作業負担軽減の面からもLEDへのスムーズな移行を後押ししていく。

生産過程でも「環境配慮」を徹底

パナソニックEW社では1つの市場の終焉を新たな時代への転換点として、「環境にやさしいLED」を「環境にやさしく製造する」ための改革も推し進めている。

2012年の発売以来5000万台を出荷している主力のLED器具「iDシリーズ」を製造している新潟工場では、環境配慮型のものづくりを徹底。1973年の操業以来、消費電力の見える化や製造設備の見直しなど地道な活動を続けており、2017年にはグッドファクトリー賞、2018年には省エネ大賞・資源エネルギー庁長官賞を受賞するなど高い評価を受けてきた。

熊澤氏は「大変光栄な賞をいただいておりますが、これに満足することなく、さらなる省エネに向けたプロジェクトを我々は進めてまいります」と、省エネ改革への大きな意欲を見せた。

パナソニックEW社が販売している照明器具 Newsweek Japan

2020年度からは省エネ推進のためのプロジェクト体制を整え、重力や自然エネルギーを活用した電力を使わない生産性改善「からくり改善」など独自の取り組みにも力を入れている。

2023年には太陽光発電システムを増強し、CO2排出量を年間1140トン分削減。省エネ・創エネ活動での利益を原資に、再生可能エネルギーの買電やJクレジットの購入を行うことで、2024年度にCO2排出量の実質ゼロ化を成し遂げた。

今後も純水素型燃料電池を導入予定で、事業の使用電力を再エネで完全に賄う「RE100」、さらには新潟工場だけでなくライティング全製造拠点での2030年度のCO2ゼロ化を目指していくという。

リサイクル・リユースで経済の「輪」を作る

国際規制を受けてのLEDのさらなる普及、LED照明製造のグリーン化に加え、パナソニックEW社が近年力を入れているのが、照明器具のサーキュラーエコノミー実現に向けた実証実験だ。

サーキュラーエコノミーとは、資源や製品の価値を最大化し、資源の投入と廃棄物を最小限に抑える経済的循環を指す。

既に、主力のiDシリーズでの再生樹脂や再生鉄を使用したモデルチェンジを実施するなど、リサイクル材や代替素材、自社工場内の廃材を活用した商品製造・販売を行っているパナソニックEW社。

「工場内で出た廃材を回収してリサイクルする。これはある意味、大きな流れのサーキュラーエコノミーの中の『製造』の過程でもう一度くるっと回しているような形です」と、取り組みについて熊澤氏は説明する。

そして2023年度には自社製品のリユース展開・回収・再資源化の実証実験を開始。この実証実験では、北海道内に109店舗を展開する「生活協同組合コープさっぽろ」をフィールドとし、使用済み照明器具のリユースやリサイクルの可能性を探っている。

実証の流れは以下の通り。「コープさっぽろ」の主力店舗では、最新式の照明設備を導入することで客足を伸ばすため、数年ごとに照明を取り換えている。これまでは、付け替えた照明はそこでお役御免、廃棄されていたが、なかにはまだまだ使えるものも多かった。

そこで今回の実証では、廃棄されるはずだった照明の余寿命診断をパナソニックEW社が実施。使えるものを選別して、別の店舗の古い照明器具と交換する。古くなった照明器具は回収し、リサイクル処理を経て、再生素材とすることで、資源として再活用されていく仕組みだ。

2023年度の実証では、事業の有効性も確認されており、これが成功すればパナソニックEW社起点の大きな1つの輪、すなわち循環型経済を形成できる。

蛍光灯の国際規制を受けて大きく動き出す照明業界。これから先は、照明そのものはもちろん製造過程まで環境にやさしい新たな光で未来を照らしていく。

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