ことし、倒産した焼き肉店の数が過去最多になったことがわかりました。

そのワケを取材してみると、背景には畜産農家のある異変、そして日本人の“牛肉離れ”の現状が見えてきました。

■倒産した焼き肉店が過去最多の39件 背景には「輸入牛肉の高騰」

みんなに愛される「焼き肉」。

大阪の鶴橋にある、焼き肉店を取材すると…。

【海南亭 金海博店長】「1年ぐらいは苦しい(経営)状態が続いているかなと。値上げしたいなと思いますけど…ここは頑張り時だなと」

帝国データバンクによると、倒産した焼き肉店はことし1月から9月までに39件。

これまで年間で最多だった、2019年の26件を既に上回っています。

その背景の1つが…「輸入牛肉の高騰」です。

輸入牛肉が去年末頃から高騰し、アメリカ産冷凍バラ肉の卸値は、前年に比べると6割以上高くなる時期もありました。

この焼き肉店でも…
【海南亭 金海博店長】「ランチはアメリカ産のハラミを使ってるんですが、去年4月の価格高騰前に比べて約1.5倍ぐらい。焼き肉店30年してるんですけど、初めてでびっくりしました」

一度は「値上げ」をするも、客足が大幅に減ってしまい…戻ってきてもらうため、逆に「値下げ」をするメニューを作ったということです。

【海南亭 金海博店長】「お客さまの足は遠のいてるというのは、体感としてはあります。牛肉ってご褒美的な食事。少し我慢される場面も多いのかな」

■「牛肉はよっぽどのときじゃないと買えない」 スーパーで“牛肉離れ”実感

実は牛肉全体の消費量は、ここ5年間でおよそ1割減っています。

本当に“牛肉離れ”は起きているのか、大阪市内のスーパーを取材しました。

牛肉売り場で買い物客が手にとるのは、安くなっている“見切り品”が圧倒的に多く、鶏肉や豚肉を買う人が多い印象です。

【買い物客】「きょうは南瓜(カボチャ)のそぼろと、これ(豚)はステーキにしようかなと」(Q.牛肉のステーキは?)「食べたいなって思うけど、よっぽどのときじゃないと買えません」

【買い物客】「すじ肉買いたかったけど、まだもうちょっと高いし。(4月比)3割増。誰がもうけてんねやろ」

スーパーでは、輸入牛の仕入れを価格が安い時期だけにしましたが、手ごろな国産牛も3年ほど前に比べると、4割から5割ほど、徐々に高くなっているということです。

【フレッシュマーケットアオイ 内田寿仁社長】「かなり長期的に続いている物価高ですけど、やはり牛肉離れが起こってしまっている」

■畜産農家を取材 餌代が高騰

「牛肉値上がり」の原因を探るため、畜産農家を取材すると、そこにはある異変がありました。

滋賀県近江八幡市にある畜産農家「亀井牧場グループ」。

牛舎には優雅な音楽が流れています。

【亀井牧場グループ 亀井頌司さん】「クラシック的な。リラックスさせてあげるためにできることは何でもしていこうかと」

亀井牧場グループではおよそ1800頭の近江牛を飼っています。

【亀井牧場グループ 亀井頌司さん】「いい牛は寝るときも、堂々と寝るので」

うまみや甘みのある牛肉にするため、地元・近江米のわらや、ビールかすを餌に混ぜていますが、欠かせないのがとうもろこしなどの配合飼料です。しかし…。

【亀井牧場グループ 亀井頌司さん】「ウクライナ戦争、円安重なったじゃないですか。月のエサ代、配合飼料代だけでも、月ベースで1000万円ぐらい(上がってる)」

海外からの輸入に頼っている飼料が、円安などで高騰。

さらに肉のランクをめぐる“ある”変化も畜産農家に打撃を与えています。

■“最上級”A5ランク量産で希少価値が薄れ 農家は「赤字でお肉に」

【亀井牧場グループ 亀井頌司さん】「すごい技術でA5ランクを作るっていう時代から、もうしっかり健康にしたらA5ランクができちゃう時代になってしまったので。A5ランクは非常に多いです」

一般的に和牛でサシがきれいに入った“最上級”とされるA5ランク。

30年前は、全ての和牛のなかで10%未満でしたが…、今はおよそ45%がA5ランクに。希少価値が薄れてしまい価格が徐々に低下しているのです。

【亀井牧場グループ 亀井頌司さん】「(A5ランクが)今、非常に安いんでね。コストが上がっているだけなんで、肉の値段なんて上がってないんで。だからもう全国の農家さんも牛飼ってる人も、赤字でお肉にしてるんですよ。ほんまに厳しいのは厳しいですよね」

実は、A5ランクなどの高級和牛の増加が、手ごろな国産牛(交雑牛)の価格高騰にもつながっていると専門家は話します。

【広島大学大学院 統合生命科学研究科 長命洋佑准教授】「黒毛和牛を作ることが多くなっていって、交雑種(お手頃な国産牛)とか、昔作ってたものが減っていってる。交雑種の脂身がちょっと少ない部分の方が好まれてるので、そっち側が注目されて(値段が上がる)というのも背景としてはあるかな」

■海外に和牛を販売 新しいマーケットの開拓

日本人の“牛肉離れ”を受け、海外に目を向ける企業も増えています。

【銀閣寺大西 大西英毅常務】「こちらは外もも肉を使っています。外もも肉でも、和牛であれば、きれいな霜降りなんですよ」

京都市内にある和牛専門店「銀閣寺大西」を訪れたのは、スイス人のシェフ。

日本式の和牛の食べ方や目利きの仕方などを学びます。

【銀閣寺大西 大西英毅常務】「すね肉は例えばヨーロッパでは、煮込んだり、シチューなどに使うことが多いです。(日本では)すね肉を焼き肉に使うことがあります」

【スイス人シェフ】「これを焼き肉に使うというのは面白いですね。スイスではこの部分は使いません」

銀閣寺大西では、世界34カ国で和牛を販売し、海外での売上げは、わずか6年で100倍になるほど“WAGYU”は大人気に。

今では、廃棄されることが多い、出産した「経産牛」を育てなおしたオリジナルブランドも販売しています。

【銀閣寺大西 大西英毅常務】「環境にいいお肉、食べることで環境に貢献できるお肉が、海外だと購買意欲につながってあたり前になってきている。日本のマーケットが小さくなっていくと、縮小していくとなったとき、(生産者に)新しいマーケットを見つけてあげたいなという思いがあった」

変わりつつある牛肉をとりまく現状。手ごろな価格で牛肉を買えるときはくるのでしょうか。

(関西テレビ「newsランナー」2024年10月23日放送)

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