レース用モデルと公道車は異なるものだが、実は市販車にもレースカーにルーツを持つものが存在し、圧倒的なパフォーマンスを発揮する。今回は、そんなレースカーベースの“ぶっちぎりカー”を見ていこう。

文/長谷川 敦、写真/アストンマーティン、スバル、三菱、CerWp.com

■公道といえばラリーでしょ! WRCが生んだ驚速ロードモデル

●三菱 ランサーエボリューションシリーズ

トミ・マキネン(フィンランド)が1996~1999年のWRCで4連覇を記録した記念に製作された三菱 ランサーエボリューションVIトミ・マキネンエディション

 世界ラリー選手権(WRC)の車両規定は時代に応じて変化するが、最も熱かったのが、グループA既規定のモデルが使用されていた時期。

 FIA(国際自動車連盟)が定めたグループAは、年間2500台以上生産されたロードカーをベースにするレースカーで、このグループAを使うラリーやロードレースに出場するメーカーはベース車両を製造して販売する必要があった。

 当時WRCに参戦していた三菱もこの規定に対応したロードカーを開発し、それをランサーエボリューションシリーズとして販売した。

 その名称どおり、三菱 ランサーのエボリューション進化モデルであり、エンジンや足回りが高度にチューンされ、駆動は4WDと、ラリーカーのDNAを色濃く残していた。

 “ランエボ”は初代から10代目まで作られ、そのどれもがロードカーとしては卓越したパフォーマンスを発揮した。

 厳密にはVI(6代目)以降はグループA公認用モデルではないものの、前の世代に劣らぬ高性能を誇り、2007年発売のランサーエボリューションXまで製造販売が継続された。

●スバル インプレッサWRXシリーズ

 スバルが1992年に販売を開始したインプレッサシリーズもまた、WRCと深い関わりを持っている。

 インプレッサは同社製レガシィの車格向上に伴い、従来のレガシィに相当する位置を担うモデルとして開発されたモデルで、4ドアセダンをはじめ、2ドアクーペやステーションワゴンなどをラインナップ。

 そのなかでもレガシィに代わってWRCに投入されるモデルのベース車には「WRX」の名称が与えられ、レガシィ用のパワフルなエンジンを搭載していた。

 さらにこのWRXには、スバルのレース活動を担うSTi(スバルテクニカインタナショナル)の名を冠したより高性能なモデルも用意された。

 実際にインプレッサは高い戦闘力を見せて1995~1997年のWRCではマニュファクチャラーズ(メーカー)タイトルを獲得し、3回のドライバーズタイトル奪取に成功している。

 スバル インプレッサWRXは3代目まで製造され、2014年からWRXは独立した車種になった。

 ランエボシリーズとインプレッサWRXシリーズは、WRCの舞台で、そしてストリートでも良きライバルとして切磋琢磨を続けた。

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■見た目からしてレーシングカーなふたつのモデル

●サリーン S7

 先に紹介した2台はラリー車がベースになっていたが、こちらのモデルはオンロードレースカーの市販車だ。

 サリーンはアメリカでフォードなどのチューニングを行っていたメーカーだが、そのサリーンがル・マン24時間レースへの参戦を目指してコンプリートカーを開発し、それを公道仕様に仕上げたのがS7。

 2000年にデビューしたS7のスタイルはまさにレーシングカーであり、中身もほぼレースモデルと変わらない構成で市販化されたのが特徴。

 エンジンは大排気量7リッターV8で、最高出力は558psを発生。

 OHCやDOHCではなくOHVスタイルのエンジンだったというのもアメリカらしい。

 S7(レース仕様はS7Rと呼ばれていた)は本来のフィールドであるレースで好成績をあげ、市販モデルは一時期あのキムタクの愛車だったことで日本では知られている。

●アストンマーティン ヴァルキリー

 イギリスの高級車メーカー・アストンマーティンが2021年からデリバリーを開始したヴァルキリーもまた、レースカーに出自を持つ。

 ル・マン24時間などの耐久レース用車両として2019年から新たに施行されたハイパーカー規定は、従来のLMプロトタイプよりも市販車に近く、そのために多くのメーカーがこれに属するモデルを製作した。

 ヴァルキリーもそうしたモデルの1台だが、特徴はF1の伝説的デザイナーであるエイドリアン・ニューエイが開発に関与していること。

 空力の鬼才といわれるニューエイの手腕がいかんなく発揮されたヴァルキリーのフォルムは美しく、F1の空力思想もふんだんに盛り込まれている。

 レースカーでは空気の力によって車体を路面に押し付けてタイヤのグリップを高めるダウンフォースが重要視されるが、ヴァルキリーが発生するダウンフォースは「公道用モデルとしてはかつてないほどのレベル」にあるという。

 ヴァルキリーによる耐久レース挑戦は一時休止していたが、2025年からプロジェクトが再開される。

 これでヴァルキリーも正式に「公道を走れるレースカー」の仲間入りをすることになる。

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■これはちょっと反則じゃないの? なロードカー

●ダウアー 962LM

ダウアー 962LM。どこからどう見てもグループC規定のレースカーだが、ちゃんとナンバーを取得して公道を走ることができる。ただし平坦な道に限る

 最後に登場するのは、レースカーにルーツを持つ公道車ではなく、生粋のレーサーを公道用にして市販してしまったクルマだ。

 ポルシェがル・マン24時間レースに代表される耐久レース用に開発した962は、そのル・マン制覇をはじめとする輝かしい成績を残すとともに、世界各国のプライベートチームにデリバリーされる“市販車”だった。

 つまり、一般的なレースモデルに比べて製造台数が多いのも962の特徴のひとつ。

 その962もやがて時代遅れになり、レース規定も変わったためにサーキットから姿を消すことになった。

 そんな962を入手して、なんと公道車両に仕立てて認可を取得してしまったメーカーがある。

 ドイツの元レーシングドライバー、ヨッヘン・ダウアーが設立したダウアー・シュポルトワーゲンがその会社で、公道仕様への変更は最小限にとどめ、耐久レースを戦ったほぼそのままの姿で1994年から市販を開始した。

 なお、この962LMは市販車ベースとなったル・マン新レギュレーションの裏をかいて1994年の同大会に出場し、ちゃっかり優勝を実現している。

 最終的には10台を超える962LMが製造され、各オーナーの元に旅立っている。

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