11月20日から22日までの3日間、パシフィコ横浜で開催される「オートモーティブ ソフトウエア エキスポ 2024」。同展は昨年、組込み/エッジテクノロジーの総合展である「EdgeTech+(エッジテックプラス)」の枠組みの中で、初のジョイント開催を実施した新しい展示会だ。しかしながらSDVやCASE、コネクテッドカーが次世代自動車のキーといわれる今、自動車関連のソフトウェアに焦点を当てた催しとして、大きな注目を集めた。自動車の開発と、組込みテクノロジーやIoT関連のプログラミングやサービス、それぞれのプロフェッショナルたちが、モビリティ領域のソフトウェア技術の動向を持ちよって、一堂に会する機会と捉えられているのだ。

開催を前に、同展の企画運営を手がけるナノオプト・メディア 代表取締役社長 大嶋康彰氏と、レスポンス編集長の三浦和也が、日本におけるオートモーティブ・ソフトウェアの最新事情から見通し、エキスポ必見のポイントや今後の動向を、惜しみなく語り尽くす。

自動車産業とソフトウェア、双方の人が集まるエキスポを

三浦和也 : 今回が第2回となりますが、あらためて「オートモーティブ ソフトウエア エキスポ 2024」を開催する目的・意義を教えてもらえますか。

大嶋康彰氏(以下敬称略) : もともとハードウェア組込みのソフトウェア技術は、日本の製造業の根幹にある技術なんです。自動車業界がスマホ化していくといわれている中で、非常にポテンシャルが高い。CESでソニー・ホンダモビリティの『AFEELA(アフィーラ)』の発表が注目されているのは、日本のハードウェアとソフトウェアの高次元の融合です。これからのクルマの競争力の源泉となる部分です。

三浦:日本のハードの優秀さは自他ともに認める部分ではありますが、組み込みソフトウェアの世界では何が起きているのでしょうか。

大嶋:例えば電子機器はガラケー以降、スマホになって汎用ソフトウェアの拡大で、日本のシェアがどんどん減っています。マーケット自体が痩せるとその中で活躍する人たちが働く場も減ってきます。電子機器や家電の領域で細る一方、随分前から自動車分野は拡大しています。

三浦:なるほど。SDV以前からクルマのソフトウェア化は進行していたと。

大嶋:そうです。これまで自動車関連というとハードに特化したものが多かったと思うんですが、今は自動運転やコネクテッドといったトピックがあり、スマホ化・コンピューター化する車が大きな潮流として動いています。これから自動車の開発にソフトウェアが重きをなして、どんどん入ってくる中で、自動車産業とソフトウェア、双方に関わる方々が集まるエキスポを開催していこう、この発想がEdgeTech+「オートモーティブ ソフトウエア エキスポ」のベースになっています。

ナノオプト・メディア 代表取締役社長 大嶋康彰氏

三浦:これまでも毎年、“ET”と名のつくイベントが秋口に開催されているイメージはありました。ET=エッジテック、さらにその前にはエンベデッド・テクノロジーでしたよね。いわば第1回以前から、組込みやオンラインのソフトウェアの展示会を開催されていたそうですね。

大嶋:元の組込みソフトウェアの業界としては、もう30~40年ぐらい続いている展示会でして、マイコンの関連から組込みテクノロジーやIoT関連を経て、開催名も時宜に応じて変えてきました。「Embedded Technology Expo」ですとか「ET & IoT Technology」ですとか。ただし組込みだけだと、キーワードとしては古く見られかねないという懸念がありました。

三浦: IoTやET関連の展示会の中で、“オートモーティブ”というトピックが徐々に重きをなしていて、その分節点がまさに今、現れているということですね。

大嶋:ええ、やはりもうセンサーで色々なデータを収集して、クラウドに繋いでそこで解析してデータを活用するような話は、どんどん常識化しています。ですからエッジテック+(プラス)という枠組みで新しく広がる領域をカバーしてきました。トピックとしてクラウドやデータ活用もあれば、最近では生成AIやエッジAIの活用もありました。

車載ソフトウェアが成すべき課題が見えてくる

「オートモーティブ ソフトウエア エキスポ 2024」は11月20日から22日にかけて、横浜パシフィコで開催される

三浦:ラスベガスで行われるCESはもともと家電の展示会でしたが、今は自動車関連の出展も多い。また先日、CEATECとJapan Mobility Show Bizweekが併催されて、それぞれの業界のマッチングが最近のイベントのキーのような気がします。今回、併催されるEdgeTech+ 2024や他業界との関連から、今後オートモーティブ領域にも関係してきそうなテクノロジーやブースを教えてください。

大嶋:イベント自体がかなり大きく、IoT方面からもかなり出展がありますし、半導体メーカーもいらっしゃるので、ソフトウェアにもオートモーティブでも関係すると思います。組込みの技術ってそもそも機密性が高くて、ネットワークに繋いでクラウドに上げて情報をリスクにさらすことをしないために、オープンな規格に則るよりは自社ノウハウのところが多い。ですからセンシングとそれに関わるセキュリティ、通信や近距離無線ですとか。双方の業界にとって親和性の高い部分だと思います。

三浦:確かに、通信コミュニケーションとかインターネットの世界ではオープンな規格がスタンダードですが、組み込みとなると閉じている印象です。

大嶋:ええ、ベンダーに特化したところが多々あるのですが、最近はやはりオープン化の波も入ってきており、そこはこれから広がる部分なのかと。あとセンシングはもちろん、画像エッジAIやAIカメラが、自動運転領域あるいは安全確保の点で重要な分野になっていると思います。

三浦:チップメーカーも出展するとのことですが、やはりクラウドに頼らないAI、エッジAIも注目ですか。

大嶋:そうだと思います。今回、インテルやSTマイクロが出展しますし、車内に高性能な演算チップを入れることによる電力のマネジメントは注目ですね。

三浦:先日、ドイツでベルリンの家電ショーについて情報交換させていただいたとき、韓国のサムスンやLGが抜きん出ているというお話をしましたよね。彼らが卓越しているのは、家電にふんだんに使われるセンサーでセンシングしたデータをAIで加工して、スムーズでサプライズに満ちたユーザー体験で返す技術だと感想を述べさせてもらいました。

大嶋:センサー→データ→AI→体験。このエコシステムが心地よく回る製品群を持つブランドが、今のエクセレント・カンパニーなんじゃないかということでしたね。

三浦:その流れが、自動車の中でも起こりつつあるような気がします。そういえばソニーホンダの「アフィーラ」は45個のセンサーを搭載していると発表されています。センサーからのデータを、どういう体験に返していくかというところが重要になっている。センサー自体も、車自体もハードウェアではありますが…。

大嶋:ソフトウェアのためのハードであるという順番ですね。

三浦:ええ、体験作りともいえると思います。

大嶋:我々の展示会をきっかけに発達させていただきたいところです。

三浦:まさしく。エンジニアさんは特定の領域を見る専門家ですよね。しかしユーザー体験はトータル。全体をどうデザインしていくかは、こうした展示会でのコミュニケーションを含め、自分の領域以外のところの感性や、知見を持ち帰っていただくことが非常に重要かなと思います。

ナノオプト・メディア 代表取締役社長 大嶋康彰氏(左)と、レスポンス編集長の三浦和也(右)

“SDV前夜”の今だからこそ備えるべきこと

三浦:SDVといえば日本の自動車OEMでは、トヨタも取り組んでいるし、日産とホンダは連携をはじめました。今年から来年にかけては骨格、フレームワーク部分をキチンとやることに集中していく印象です。SDVが現実化し始めている分、そこから夢を広げて、だからこそエクスペリエンスやインフォテインメント系に着目する意味があるのではないでしょうか。

大嶋:はい、SDVによってソフトウェア・アップデートが可能になるクルマがどんどん増えるでしょう。インフォテインメントという部分でいうと、日本には長い歴史があるんですよね。何せ車載カーナビゲーションの時代からありました。ベースとなる技術や経験は豊富にあるわけです。

三浦:日本にはポテンシャルはある、と。

大嶋:DVDやハードディスクカーナビもあって、その時代まではとても強かったですよね。もうWindowsで動かしていましたから。わりと早い段階から車載データを入れて、クラウドに繋げたりもして、そういうのが当たり前になっていきました。今後は、ドライバーや同乗者を見守るセンサーなど車内空間のデータ活用は注目だと思います。

三浦:そうですね。デジタルヘルスとクルマの融合は、私もとても興味を持っています。

大嶋:そして実際、扱うデータ、センサーが多くなればなるほど、セキュリティもソフトウェア化して、外部インターネットとかクラウドで繋ぎ始めると、どうしても自動車以外の業界や業界団体とも切っても切れない関係になっています。

今年はJ-Auto-ISACとタッグを組み、3日間の会期の中日、11月21日に「自動車×セキュリティ」の話題を取り上げるセミナーを開催したり、ほかにも主催者の特別企画として「自動車サイバーセキュリティゾーン」や昨年に続き「生成AIゾーン」も同じ枠組みで企画しています。生成AIというとソフトウェア開発現場ではどちらかというと業務効率化、自動的に図面を生成させるケース、あるいはデバッキング作業に用いることが多いと思うのですが、自動車がネット社会化していく中での自動車サイバーセキュリティの実装、もしくは含まれていくところを実感いただくという。同じ文脈でテストプログラム生成ですとか、そういった展示もあります。

三浦:もうセンサーの使い方も、人間や実験が決めた閾値の上下でどうこうというロジックでなく、AIにデータを判断させてアウトプットまでさせて、人間にとっていい感じの幅を作りやすく、という方向ですね。最後の質問ですが、他のテック系のイベントとの最大の違いは何でしょうか?

大嶋:今ある他の展示会は、スタートアップの方も集まるオープンイノベーションの形、観点が多いと思うんですが、我々オートモーティブ ソフトウエア エキスポは、本当に開発の源流・現場に近いところに絞っています。ですから従来でいう組込みソフトウェアと自動車、それぞれの業界のエンジニア、人材が集まり、知り合う機会でもあります。もちろん異なるカルチャーがあるでしょうが、違うアイデア、違う感受性が交わることで、新たな協業や人材交流にも繋がっていくと考えています。

ちなみに異業種とイノベーションの観点ですと、横浜市と連携した取り組みも行います。横浜市は、モビリティ分野に特化したベルリンのスタートアップ支援機構「ザ・ドライヴリー」と提携の覚書を交わしていて、別会場になりますがEdgeTech+の期間中にイベントを開催するので、こちらにも注目してください。

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