これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。
当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、時代を先取りして新しい乗用車のカタチを模索した、ナディアを取り上げる。
文/フォッケウルフ、写真/トヨタ
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■21世紀を見据えて近未来のあるべき乗用車像を追求
1998年8月に登場したナディアは、「多様なライフシーンに応える、ユーティリティが特徴的な次世代乗用車」という謳い文句を掲げ、デイリーユースはもとよりカジュアルからフォーマルまで、多様なライフシーンに応えられるクルマに仕上げられていた。
コンパクトミニバンとして人気を博していたイプサムをベースとしているが、外観デザインは「次世代乗用車」に相応しい新しさと合理性が追求されたものとなっている。クリアランスランプと大型ヘッドランプを上下2段に配置し、メッシュベースのメッキバーグリルやワイド&ローの安定感を強調したバンパーで構成されるフロントまわりの造形で車格以上の存在感を主張。
アーチ型キャビン形状とウェッジ強調のサイドボディや、ラウンディッシュで張りのあるバックパネルと特徴的なリアコンビランプが、クリーンで未来感あるスタイルの創出に貢献している。こうした外形フォルムが、セダンでもワゴンでもなく、ミニバンでもない、新しい乗用車のカタチを印象付けていた。
運転席まわりのデザインにも新しさが実感できる。メーターをセンターに配置したシンメトリーな立体造形とすることで、新世代インストルメントパネルを創造。センタークラスター上部にはワイドマルチAVステーションを備え、操作機能を集中配置して優れた視認性と操作性を実現する斬新なデザインとしていたことも新しさを実感させるポイントだった。
ボディサイズは全長4425mm、全幅1695mmというコンパクトな部類となるが、2735mmのロングホイールベースとショートオーバーハングおよび、1625mmという高めの車高とすることで、車内には外観から想像する以上のゆとりが確保されている。
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■コンパクトなボディサイズながら優れた居住性と実用性を実現
室内長は当時のクラウンに匹敵する1960mmとし、室内高も1245mmと十分に確保されているが、この広さを生かしながら独自の機能を付加することで、コンセプトに掲げた「多様なライフシーンに応える、ユーティリティ」を実現している。
後席は50対50の分割機構を備えたダブルフラットシートを採用。クッションおよびシートバックが可倒式のシートは、フルフラットで扱いやすい大容量の荷室とすることが可能なうえに、深さ180mm、容量120Lの大型デッキアンダートレイを活用することで多彩な用途に対応できる収納スペースが確保できた。
上級グレードには停車時に前席を回転させて対座レイアウトにできる機構が備わっていた。車内で休憩するときや、アウトドアシーンで室内をフレンドリーなコミュニケーションスペースにできることで、ワンボックスワゴンやキャンピングカーのような遊びのベース基地することができた。こうした機能を備えていたのも、従来のセダンやワゴン、ミニバンとは違うユーティリティを持った次世代乗用車らしい特徴と言っていい。
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■先進的なメカニズムを搭載して走りでも次世代乗用車をアピール
見た目や機能以外の面でも次世代乗用車を目指した作り込みがなされている。パワーユニットはBEAMS 3S-FSEエンジンを搭載。燃料をシリンダー内に直接噴射することで空燃比50:1の超希薄燃焼を可能としたうえで、VVT-i、ロングデュアルシータエキゾーストパイプを採用することで、レギュラーガソリン仕様ながら145ps/20.0kgmという高出力と大トルクを確保。
応答性のいい燃料供給も相まって、ハイレスポンスを実現している。特に街なかで多用する低中回転域のトルク特性に優れていたことから、扱いやすく滑らかな走りを持ち味としながら、排出ガスレベルは規制値に対して8万km走行後でも70%以上の低減を可能にする地球環境に優しいという特徴も有していた。
サスペンションは、フロントにマクファーソンストラット式独立懸架、リアはトーションビーム式を採用。ジオメトリーの最適化を図るとともに、高剛性ボディと相まって優れた操縦安定性と乗り心地を両立した。
また、ステアリングギヤ部にローラー式のラックガイドと高精度ピニオンギヤを備えてステリング剛性を高めたことが功を奏し、ナチュラルな操舵フィーリングを実現していたことも気持ちのいい走りをもたらす要因となっていた。
駆動方式はFFを主体としていたが、行動派のユーザーに対応するべくアクティブトルクコントロール式の4WD仕様をラインナップ。リアディファレンシャルに電子制御カップリングを搭載した4WDシステムは、各種センサーからの入力信号によって通常状態では燃費のいいFFに近い駆動力配分としながら、雪道など滑りやすい路面になると前後輪を最適な駆動力配分を行う当時としては先進的なもの。これにより、路面状況を問わず優れた安定性が確保し、つねに安心してドライブできた。
デザイン、機能、走行性能など、あらゆる部分において次世代乗用車として意欲的な作りがなされていたが、ナディアに対する市場の反応はやや醒めたものだったことは否めない。
当時市場に流通していた一般的なセダンと比較しても居住性ではひけをとらなかったし、実用面でもワゴンとミニバンのいいところをうまく採り入れて幅広い用途に柔軟に対応できる能力を持っていた。
クロスオーバーが一般化し、1台でいろいろなことができるクルマが支持されるようになった現代ならウケたかもしれないが、当時はセダンやワゴンの選択肢が数多く存在し、ミニバンには3列シートという強みがあった。
セダンでもワゴンでも、ミニバンでもなかったナディアが、そんな既存の枠組みを打破するにいたらなかったというのが、次世代乗用車として魅力的なクルマだったにもかかわらず販売が振るわなかった理由だろう。
しかし、ナディアは局所的に見ればいいクルマであり、なにより「次世代のクルマはこうなる」という部分を明確に示し、クロスオーバーモデルの誕生と土壌の醸成に寄与したといっても過言ではない。
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