「2024年問題」やドライバー不足など、トラック運送業界にとって厳しい状況が続いています。そうした中で「長く勤められる会社」は、ドライバーにとっても会社にとっても非常に気になるところ。

 ドライバーの立場、会社の立場、それぞれあると思いますが、一人で両方の立場で語ることのできる人がいます。

 米国でトラックに乗っているオーナーオペレーターのPUNKさんです。オーナーオペレーターとは、自身でトラック(トラクタ&トレーラ)を保有する個人事業主のこと。

 彼女に「どんな運送会社だったら長く勤められるか?」を聞いてみました。

文・写真/なでしこトラッカーPUNK
*2023年9月発行トラックマガジン「フルロード」第50号より

自分のプライオリティを考えよう

オーナーオペレーターのPUNKさんが所有するフレイトライナー「カスケディア・エボリューション」

 新しい職場を探す時、どんな条件が自分にとってプライオリティ(優先順位)か? どんな人でも真っ先に考えると思います。

 給料なのか、仕事内容なのか、人間関係なのか……。人それぞれ優先順位は違うと思いますが、他社と比べて条件のよい職場を選ぶのではないかと思います。ただそれは、会社側が自分を雇ってくれたらの話ですが……。

 「これくらいの条件ならいいかなぁ?」と、どんどん妥協していって、結局自分が思っていた理想とは違った会社に入社する場合もあったりします。

 この業界で全く労働経験がない場合は、何がよくて何が不利なのか全然想像がつかないから、周りの人に聞いたり相談したりしながら判断すると思います。でも、ぶっちゃけ自分に合うか合わないかはその会社に入ってみないとわかりません。

 どんな会社も大なり小なり理想と現実が違うので、多少の妥協はあるし、許容範囲内だったり、「こんなはずじゃなかった!」なーんて、後悔する人もいるかも知れないし……。
 
 ここからは私自身が経験して感じてきたことをお話したいと思います。日本の運送会社で働いていた頃は当たり前だと思っていた「基本給」。夏と冬に出るボーナスやお正月休み、夏休み、ゴールデンウイークなどの連休、アメリカで初めて就職した小さな運送会社では、それが一切ありませんでした。

入社当時は「やっと就職できた!」がすべて

以前勤めた会社で乗っていた真紅の愛車、ピータービルト「389」

 しかし外国で就職するというハードルが高すぎて、「やっと就職できた!」という高いモチベーションがあったので、それほど気にもしていませんでした。
 
 給料は、荷物を運んだら売上の20%をくれるという歩合制でした。乗せられたトラックは、当時の年式から20年以上前という骨董品で、出かけるたびに故障ばかり……。

 近くのメンテナンスショップにレスキューを頼むと出張サービス費がかかるので、その都度会社のメカニックが何時間もかけて故障現場に来るということがたびたびありました。時間給ではないので、トラックが動かなければ報酬はゼロです。
 
 そうかと思えば、出勤したら朝の点検で異常が見つかり、代車がないので直るまで会社で待機ということも幾度となくありました。3カ月の間に何回も同じことが繰り返され、最初は我慢していましたが、さすがに「コリャ~ダメだ!」と思ってスパッと転職しました。

 次の会社は、日本でキャリアカーの乗務経験があるということで、すぐに雇ってくれたのですが、そこもかなりのオンボロ会社でした(笑)。なぜそういうところしかなかったのかというと、私の会社選びのプライオリティが、(1)毎日帰れて、(2)家から近いところ、だったからでした。

「毎日帰れる」「家から近い」が私の優先順位

 その当時はアメリカでの運転経験がなかった(少なかった)ので、毎日帰れるローカル(地場)の仕事で、トラックが新しくて給料も良い会社は、アメリカで2~3年、クラスA(大型トレーラ)の運転経験がないと雇ってくれないからです。

 未経験でも入れる大手運送会社もありますが、その多くはまず1~2週間家を離れてトレーナーに教わったあとで(同乗教育)、OTR(長距離)をソロで働くという感じ。ですので大手には入らず、小さくても毎日家に帰れる地元の仕事を希望しました。

 私の場合は転職を繰り返し、やっと納得がいく会社を見つけました。ローカルで毎日家に帰れて、賃金を時給で貰えて、荷物も毎日かならずあるという会社です。そこはカンパニードライバーで働いた最後の会社でしたが、故障や待機時間もすべて時給で支払われ、ディスパッチ(配車)も24時間体制。

 家から20~30分と近く、アットホームで人間関係も良く、繁忙期以外は長期休暇もOK。カリフォルニアのド田舎に住んでいて、条件がここまで揃う会社はなかなか見つからないと思うので、本当にラッキーだったと思います。

12年在籍した会社に別れを告げオーナーオペレーターに

オーナーオペレーターになる前に長年勤めた七面鳥ファームでのお仕事の一面。バルクトレーラで飼料をサイロに流し込んでいるところ

 その会社には結局12年くらい居ましたが、コツコツためたお金で自分のトラック&トレーラを買ってオーナーオペレーター(O/O)を始めるために退社しました。それがなかったら一生働いても良いと思える会社でした。

 そこでの12年間は、7種類の違ったトレーラを引っ張って、それぞれの荷物の扱い方を学ぶことができて、他の会社では経験できない貴重な時間となりました。

 あくまでも私の場合ですが、「長く勤められる会社」は、数年の経験がないと見つけることができなかったと思います。
 
 余談ですが、O/Oになって初めて経営者側の立場もわかりました。今までいろいろありましたが、こんな自分を雇ってくれたすべての会社に感謝したい気持ちです。「経験」というどんなものにも代えがたい時を与えてくれたから……。

 いま振り返ると、O/Oを始めるまで、悩んだり迷ったり、とても大きな不安がありました。「最低でも10年続けよう!」と決心してスタートを切って、気が付いたら7年目になります。

 事業主なのでトラックが故障したときや荷物がなかなか見つからずに待機しなければならない時など、時々わき起こる挫折感も味わいながら、なんとかここまで来たので、目標を達成できるようにこれからも「この運送会社を長く続けよう!」という思いでがんばっていきたいと思います!(笑)

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