ANAと豊田自動織機は空港で貨物をけん引するトーイングトラクタについて、国内空港で初めてとなる無人運行を羽田空港で試験運用すると発表した。

 空港の地上支援業務(グランドハンドリング)の人手不足などから、国土交通省も省力化・自動化を推進しているが、今回の無人運行は「実運用に限りなく近い形式」とのことで、2025年にも無人搬送の実用開始を目指している。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/株式会社豊田自動織機・国土交通省

羽田空港に国内初の自動運転トーイングトラクタ

開発中の無人運転トーイングトラクタ

 全日本空輸株式会社(以下、ANA)と株式会社豊田自動織機(以下、豊田自動織機)は、これまでの自動運転トーイングトラクタの「レベル3」自動運転の実証実験を踏まえ、2024年7月1日から19日の間、東京国際空港(羽田空港)で、完全無人運転となる「レベル4」の自動運転による貨物搬送の試験運用を実施している。

 トーイングトラクタは空港内で手荷物・貨物を収容した荷車・コンテナ等をけん引する車両だ。また、自動運転のSAEレベル3は、システムが全ての運転タスクを実施するが、一部の条件下で運転者による適切な対応が必要となるもの。同レベル4は特定条件下における完全自動運転を指す。

 豊田自動織機が開発中の自動運転トーイングトラクタは、2024年4月に国土交通省航空局の立ち会いの下で行なわれた模擬フィールド走行試験において安全性が確認され、羽田空港制限区域内でレベル4の試験走行を行なうことができるようになった。

 両社は今回の試験運用を通じて、実用化に向けた技術面、運用面などの課題を洗い出し、経済性などの検証を踏まえ2025年中の羽田空港での無人搬送の実用開始を目指す。

「グラハン」の人手不足で2025年の実運用開始?

自動運転で運行するルート

 ANAと豊田自動織機が羽田空港で実施する、国内貨物搬送を想定したレベル4自動運転トーイングトラクタの試験運用は、国内で初めて制限区域(滑走路や離着陸区域、誘導路、エプロン、管制塔その他、立ち入りが制限されたエリア)で行なわれている。

 自動運転トーイングトラクタの実用化に向けて両社は、2019年2月から九州佐賀国際空港、中部国際空港、羽田空港において、実際の手荷物や貨物が搭載されたコンテナを搬送する自動運転レベル3での実証実験を重ねてきた。

 今回の試験運用では、多くの航空機や複数種の空港支援車両が混在する国内最大規模の羽田空港において、自動運転トーイングトラクタが貨物コンテナを牽引した状態で、安全かつスムーズにレベル4自動走行が可能かどうかの検証や、駐機場内や貨物上屋(かもつうわや)前でのオペレーション上の課題の抽出等を行なう。

 走行ルートは、国内線第2ターミナルの63・64・65番スポットと東貨物上屋を結ぶ片道約2kmのルートになる。

 今回使用する自動運転トーイングトラクタは、空港内全域における様々な環境・条件変化に対応できるよう、自己位置推定や障害物検知システムを高性能化・冗長化した。

 運用面では、効率的なオペレーションの実現を図るため、車両の運行管理に加え、駐機場や貨物エリアへの車両搬送指示、現場スタッフの作業項目などの情報を一元化する「Fleet Management System(以下、FMS)」を新たに開発した。

 また、より高い安全性が求められるレベル4の自動走行において、異常時にも迅速に対応できるよう車両の周囲の状況を把握する遠隔監視機能を搭載している。今回、FMSと車両1台を連携した試験運用を通じて、将来的に多数の自動運転トーイングトラクタを導入することを見据えた運用面および経済性の観点での課題抽出も進めていく。

 国土交通省航空局は、生産年齢人口の減少に伴うグランドハンドリング(空港地上支援業務)の労働力不足に対応するため、トーイングトラクタや乗客・乗員輸送用のバスなど自動運転の導入に向けた実証実験を推進している。

 今回は国内空港で初めて運転者を乗車させず、実運用に限りなく近い形式で試験運用を実施し、年内に共通インフラのガイドラインの策定や運用ルールの改正等を行なうとともに、2025年中の実運用に向けてインフラ整備・中長期的な課題の検討を行なうことにしている。

 自動運転トーイングトラクタは最大時速15kmで、自動運転時のけん引重量は最大13トン。

 カメラで撮影した路面画像と事前に作成した路面画像マップデータをマッチングすることで車両の位置・姿勢情報を取得する「路面パターンマッチング」や、「GNSS」(高精度衛星測位)、レーザー光を照射し対象物との距離を正確に測定する「3D LiDAR」などの制御技術を搭載している。

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