4年前の2020年、コロナ禍で大会開催が困難な社会状況も考慮し、ゴールデングランプリ(以下GGP)はドリームレーン枠として、有望高校生選手に出場機会を設けた。その時に出場した高校生2選手が成長し、今大会の男子100mと男子400mハードルに優勝した。
GGPはワールドアスレティックスコンチネンタルツアーの中でも、14大会のみに与えられた「ゴールド」ランクの競技会。今年は東京五輪会場だった国立競技場で5月19日に開催された。
男子400mハードルは豊田兼(21、慶大4年)が48秒36の日本歴代5位の好タイムで優勝。パリ五輪でも決勝進出を狙えるレベルに成長した。

日本人初のハードル2種目代表を目指す豊田

400mハードル優勝者の豊田兼は、GGP初出場は110mハードルだった。栁田が4年前のGGPを機に種目を絞ったのに対し、豊田は種目を絞らなかった。絞ることができなかった。慶大の高野大樹コーチは、「本人は絞りたいと言ったり、2種目やりたいと言ったりでした」と大学入学後の時期を振り返る。

高野コーチの方が、2種目で世界を目指すことに積極的だった。9月の日本インカレは400mハードルと400m、あるいは4×400mリレーの組み合わせで出場したが、5月の関東インカレは1、2年時は両ハードルに出場。1年時は2種目とも6位、2年時は110mハードル2位&400mハードル5位だった。対校得点上の理由もあったが、2種目で世界を目指すために積極的に出場した。

【豊田兼のハードル2種目のシーズンベスト。そのシーズンの日本リスト順位】
19年(高2)
14秒67(-3.0) 52秒34

20年(高3)
14秒09(+0.4) 52秒00

21年(大1)
13秒88(-0.8) 50秒19

22年(大2)
13秒44(+0.6)  49秒76

23年(大3)
13秒29(+1.1)  48秒47

24年(大4)
           48秒36

関東インカレのように2種目に出る大会もあったが、どちらかの種目に重点的に取り組む期間を設定することが多かった。「分けて練習した方が本人の感覚がスッキリする」と高野コーチ。特に昨年から期分けを徹底するようになった。6月の日本選手権までは400mハードル(&400m)中心のスケジュールを組んだ。ただ、4月の日本学生個人選手権だけは110mハードルで出場し、優勝して8月のワールドユニバーシティゲームズ代表入りを決めておいた。日本選手権後は110mハードル中心のスケジュールに変え、ワールドユニバーシティゲームズでも優勝。予選では13秒29と、パリ五輪標準記録(13秒27)に0.02秒と迫るタイムを出した。

そして昨年9月以降は再度400mハードル中心にして、10月のAthletics Challenge Cupで48秒47とシーズン日本1位タイムをマーク。パリ五輪標準記録を突破した。

今季は3月にシドニーで110mハードルに出場した。そのため2月に60mハードルに出たり、沖縄でスピードを上げる練習に取り組んだりした。だがシドニーでは転倒して失格。Road to Paris 2024(標準記録突破者と世界ランキング上位者を1国3人でカウントした世界陸連作成のリスト)で出場選手枠の40人に入るためには、5レースのポイントが必要だが、豊田はまだ期間内のポイント平均では世界陸連サイトに載らないくらいに低い。パリ五輪参加資格を得るためには標準記録突破が必要になるかもしれない。

110mハードルの失敗は引きずらず、4~5月は400mハードル(&400m)に専念し、GGPで五輪&世界陸上でも準決勝を戦えるまでにレベルアップした。

400mハードルは前半型と後半型の試行錯誤から日本歴代5位が誕生

昨年もGGPには400mハードルでエントリーしたが、故障の影響で欠場せざるを得なかった。4年ぶり出場となった今年は日本歴代5位のタイムだけでなく、レースパターンを増やす収穫があった。

豊田の特徴は長身を生かし、前半のハードル間の13歩を楽に走ること。日本選手だけのレースなら、黒川和樹(22、住友電工)以外にリードされることはない。
だが今回は、前半を気持ち抑えた。7台目までは5レーンの筒江海斗(25、ST-WAKO)が少しリードしていた。5月3日の静岡国際では逆で、8台目までを豊田がリードしていた(筒江48秒92、豊田48秒96)。筒江の正確なデータは不詳だが、豊田はGGPの5台目を約0.5秒、静岡国際より遅く通過した。そして8台目で筒江に並ぶと9台目で逆転した。

「前半抑えた分、後半体力を残した状態で走ることができ、このタイムにつながったと思います。静岡、関東インカレと連戦で脚に不安な部分もあったのですが、静岡で前半突っ込むレースをして現時点では後半耐えられる脚じゃないとわかりました」

前半で余力を残せたのは関東インカレの400mで、45秒82の自己新を出したことも一因だという。「最大スピードが上がり、バックストレートのスピードを調整しやすくなりました」。

豊田が前半型と後半型を試しているのは、今回が初めてではない。昨年5月の木南記念の5台目通過は、今年の静岡国際とほぼ同じくらい速く入って49秒95(3位)だった。昨年10月に48秒47を出したレースでは、GGPと同じように前半を抑え気味に入っている。110mハードルと400mハードルも、400mハードルの前半型と後半型も、交互に行うことで記録をアップさせてきた。そのプロセスが形として現れたのが、4年ぶりのGGPだった。

次のレース出場は6月末の日本選手権。パリ五輪最重要選考会で、日本人初のハードル2種目代表入りを目指す。4日間の会期で1日目に400mハードル予選、2日目に400mハードル決勝、3日目が110mハードルの予選と決勝、4日目が110mハードル決勝という競技スケジュールが決まっている。

代表に近い400mハードルで先にパリ五輪代表を決めれば、気持ちを上手く切り換えて110mハードルに挑戦できる。2種目同一大会出場は久しぶりだが、高野コーチはここまで綿密な計算をして強化を進めてきた。日本選手権で2種目とも結果を出す練習方法を考えているという。

「久しぶりの2種目ですが、腕の見せどころです」

ドリームレーンでの出場から4年後のGGPの戦いは、日本選手権、そしてパリ五輪へとつながっていく。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

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