残り10秒を切ってからの大逆転勝利。尾﨑野乃香(21、慶應義塾大)は22年62kg級世界女王にまで上り詰めながら、62kg級の代表選考大会に敗れていたが、階級を上げ、この時唯一決まっていなかった、68kg級での五輪出場を目指す。今年の1月、レスリング女子68kg級パリ五輪代表決定戦でその代表権を掴んだ。
決断の真意にシドニー五輪マラソン金メダリストの高橋尚子キャスターが迫った。
2年前確実視されていた“62kg級”代表の座
7歳でレスリングと出会った尾﨑選手。15歳で出場したユースオリンピックで優勝するなど、早くから注目される存在に。
62kg級の選手として22年の世界選手権を制し、女王の座まで上り詰め、パリ五輪代表を確実視されていた。ところが代表選考大会に敗れ、世界選手権に出場できず、パリ五輪代表を逃してしまう。
尾﨑野乃香:
全日本選手権で1度も負けたことがなくて、ずっとチャンピオンで、前年は世界チャンピオンにもなりましたし、オリンピックに向けて着々と進んで行けばいいと思っていました。自信をつけてオリンピックに進みたいって思った22年天皇杯(天皇杯全日本選手権)だったんですけど、自分の実力が相手よりも劣っていたっていうのはすごく思いましたし、「これが現実なのか」っていう思いがその時はすごい大きくて…ただ翌年(23年)の明治杯(明治杯全日本選抜選手権)で勝ってプレーオフで勝てば世界選手権代表なれるって思いでいたが、やはりメンタルに来たっていうのが大きくて、そこで、前向きにはなれたんですけど、その次の明治杯でも負けてしまって、その半年間の過程で相手よりも上に行くことができなかった。そして自分を立て直して、奮い立たせて練習することができなかったっていう風に今になって思いますね。
オリンピックに出たい
潰えた62kg級での五輪代表の座だったが、ある思いに突き動かされ、活路を見出しす。
尾﨑:
68kg級だけ(代表が決まっていない)という所で、私は幼い頃からオリンピックを1番に目標にしてきて「なんのためにレスリングやってるんだろう」っていったらやっぱりオリンピックに出るためだったので、「ここは挑戦するしかないんだ」と、自分でその時思ったというか、「6kgだからと言って体重だけで判断するものでない」「オリンピックはそんな舞台ではない」って思って決断しました。
“オリンピックに出たい”その夢を諦められなかった尾﨑選手は、階級を上げ、この時、唯一決まっていなかった、68kg級でのオリンピック出場を目指す事を決断する。
「一番練習した」努力の3か月6kg増量の階級変更
尾﨑:
食事からすべて変えて、食事だけ多く食べていても脂肪が増えてしまうのでその分筋力トレーニングもすごい量しましたし、レスリングの練習も増えましたし、多分今までの現役期間の中で一番練習したんじゃないかっていう3か月間だったんですけど、レスリングを1番に考えて、今までもそうだったんですけど、それ以上にレスリング漬けの生活を送っていったという所だと思います。
23年10月アジア大会には62kg級で出場。その後、3か月と短期間での階級変更。体を大きくするために、尾﨑選手は体作りを1から見直す。週4日、専属のトレーナーをつけての筋力トレーニング。始めた当初は1つ3kgのダンベルだったが、約4倍の1つ13.5kgまで持ち上げられるようになった。その手応えを自身も実感していた。
尾﨑:
私は結構上半身が強かったので、上半身でレスリングしているような感覚があったんですけど、足を凄くトレーニングして、意識して足をトレーニングすることで、凄く動きやすい、動きやすいというのは相手を崩す時にやっぱ使うので、その動きがしやすくなったりとかタックルにはいりやすかったりとか、そういうところで効果がでていたと思います…自分の68kg級での活かせるだろうというポイントが“スピード”だったんです。元々、タックルが得意で、“スピード”の選手って自分で思っているんですけど、組み手の中から片足タックルっていうタックル入って、手を取るっていうのが得意でそれは凄く階級上げても持ち味を活かせると思いましたし、逆に体重が重い選手の方が入りやすい。背も高かったり、構えも高かったり、動きがスローになる部分もあるので、戦いやすいとは思います。
より高い技術を追い求め、出稽古の練習が基本となる中、男子選手相手に磨き上げたパワーとスピードのあるタックルを決めてみせる。
ラスト3秒の大逆転劇で五輪切符
努力を咲かせた。23年12月の全日本選手権では68kg級で優勝と結果を残した。そして今年の1月、パリ五輪68kg級代表決定戦に挑んだ尾﨑。
1点ビハインドで迎えた終了間際。ラスト3秒でテイクダウンを奪い、土壇場での大逆転劇でパリ五輪への切符を掴んだ。
尾﨑:
すべてがあって今ここにいる。私は62kgで代表になれなかった、でも、それがあったから今私はここにいるんだって心から思える…初めてのオリンピックなんですけど、必ず優勝して金メダルっていう思いで一生懸命戦いたいと思ってます。
尾﨑野乃香(おざき・ののか)
2003年3月23日生 東京都出身 帝京高~慶応義塾大
7歳からレスリングと出逢い、ユースオリンピック優勝等、各ジュニア世代でナンバーワンに。JOCエリートアカデミー11期生(2018-21)。シニアの大会では62kg級で19年に国体優勝、20、21年全日本選手権連覇。22年世界選手権では金メダル。23年に68kg級での五輪出場を目指す事に。65kg級で世界選手権では金、68kg級で23年全日本選手権優勝。1月のプレーオフを制し68kg級で念願のパリ五輪代表の座を掴む。
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