今夏のパリ五輪で連覇を目指す柔道男子66キロ級の阿部一二三(ひふみ)、女子52キロ級の詩(うた)=ともにパーク24=のきょうだいが、五輪前の最終調整の期間に入った。ともに五輪前の最後の実戦と位置付けて臨んだグランドスラム(GS)アンタルヤ大会で優勝し、2021年の東京五輪以降は2人そろって実戦では無敗のまま、再び五輪の畳に上がる。最強きょうだいの第2幕がいよいよ最終章を迎える。(大石豊佳)
ライバルは身内
今回も阿部きょうだいは当然のように2人で金メダルを首にかけ、五輪前の予行演習を最高の形で終えた。3月29日のGSアンタルヤ大会で、ともに全5試合を一本勝ちする圧倒的な強さを見せつけた。一二三が「自分らしい柔道ができたんじゃないかと思います」と充実感をにじませれば、詩も「しっかりと勝ち切れる気持ちの部分を経験できた。(五輪へ)いい弾みになった」とうなずいた。
試合後、一二三は詩へ「今回は俺のほうが技の切れ、すごかっただろ」と自慢気に語りかけたという。詩も決勝戦は10秒足らずで内股で一本を取ったが、一二三も決勝で相手を大内刈りで豪快にあおむけにして優勝。詩は「確かにすごかった。兄はいつも競ってきます。私はいつもすごいな、と思いながら見ているだけなんですけど…」と笑った。2人で出た大会の後は同じようなやり取りがよくあるという。負け知らずの兄にとって、同じく無敗を続ける妹は大きなモチベーション。もはや身内が最大のライバルのようだ。
妹は負傷も経験に
詩は東京五輪後、復帰戦だった22年の全日本選抜体重別選手権の準決勝を棄権して不戦敗となったが、畳に上がれば無敗だった。ただ、21年秋の両肩手術から始まり、昨年夏は肋軟骨を痛め、今も腰痛を抱えるなど、思うように練習を積めない不安は常に付きまとっていた。それでもパリ五輪で100%の状態には整えられないことを想定しながら戦い、すべて勝ってきた。「本番でどうあろうと、やるしかない状況になると思う。それが経験できたのはよかった」。前向きな経験と捉え、負傷ですらも力に変えてきた。
これだけ勝っても「試合に負けたくないという怖さとどう闘うか」と胸の内を明かす。常に不安と隣り合わせ。「オリンピックはその恐怖感がもっと強くなる。(残り)3カ月間、今よりも練習で自分にプレッシャーかけて稽古するしかない」と思い描いている。
兄は夢へ一直線
一方の一二三は極めて順調に、パリだけを見据えて一直線に進んできた。東京五輪の後、22年の全日本選抜体重別選手権以降は28連勝で、出場した6大会すべてで優勝。「東京(五輪)が終わってから負けなしで、こんなにいいことは多分ない」と振り返りながらも「パリで勝たないとここまでやってきたことは全然意味がなくなる。やっぱりオリンピックがすべてだと思っている」と、五輪への並々ならぬ思いをにじませている。
もはや世界でも敵なしの状態で「自分との闘いだと思う。自分の気持ちに今のところ隙は無い」と、自らに矢印を向けながら、研鑽(けんさん)を続ける。1996年アトランタ五輪から3連覇を達成した野村忠宏さんを上回り、柔道界で前人未到の五輪4連覇を達成することが最大の目標。常々「圧倒的に勝つ」と口にし、パリ五輪も通過点と捉えている。
そんな兄の姿が妹の指針になり、妹の勝ちっぷりが兄のパワーにも変わる。互いに高め合っていく2人の次なる〝競演〟は、パリ五輪本番となる7月28日だ。
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