サッカー男子のU-23(23歳以下)アジア・カップで日本代表がパリ五輪出場権を懸けて戦う中、選手を送り出したJリーグのクラブが苦しい台所事情ながら奮闘している。派遣した選手にはチームに不可欠な戦力も少なくなく、不在時の戦いは不安が付きまとう。ただ、注目度が高い五輪での日本代表の活躍は競技普及や人気向上に直結し、サッカー界の長期的な発展にも影響する。負担を受け入れたクラブは、こうしたサッカー界の未来も考慮した上で、代表とJリーグの相乗効果に期待する。
25日、カタール・ドーハで行われたアジア・カップ準々決勝で、日本はカタールを延長の末に4―2で下し、8大会連続の五輪出場にあと1勝と迫った。29日(現地時間)の準決勝ではイラクと対戦し、勝てば五輪出場が決まる。
25日の試合で、日本は前半に山田楓喜(ふうき)(東京V)が先制。その後、カタールに1―2とリードされたが、後半に木村誠二(鳥栖)の得点で追い付き、延長前半に細谷真大(柏)が勝ち越しゴールを決めた。
代表戦でJリーグ勢が活躍する一方、代表へ選手を輩出したJリーグのクラブは難しい戦いを強いられている。最も大きな影響を受けたクラブの一つがFC東京だ。主将で中盤を支える松木玖生(くりゅう)、J1でチームトップの5得点を挙げている荒木遼太郎、A代表経験もあるGK野沢大志ブランドンと最多3選手が招集された。A代表経験者のバングーナガンデ佳史扶(かしーふ)も招集有力だったが、日本サッカー協会側がFC東京に配慮して見送ったとみられる。
また、J1初挑戦の町田は攻撃陣を引っ張る平河悠と藤尾翔太、柏はエースの細谷と大型サイドバックの関根大輝のそれぞれ2人のレギュラーを派遣。ほかにも、東京Vは高精度の左足が魅力の山田楓、湘南は中盤で攻守の要である田中聡、川崎が故障者続出のセンターバックの穴を埋めてきた高井幸大を派遣するなど、影響は多数のクラブに及んでいる。
7日の代表活動参加前で最後となる試合では東京Vと柏が対戦し、東京Vの山田楓が先制点を奪い、柏の細谷と関根も先発して存在感を示した。それだけに代表勢の離脱による戦力ダウンは必至だが、細谷は「五輪予選に出られない選手の分まで責任感を持って戦う」、山田楓は「頭を切り替えて五輪出場権を取れるように準備する」と後ろ髪を引かれる思いを断ち切って五輪予選へと向かった。
クラブ側からも「泣き言」は聞かれない。柏の井原正巳監督は細谷に対し「代表でゴールを挙げて五輪出場に貢献し、チームに戻ってポジティブな効果をもたらしてほしい」とエールを送った。町田の黒田剛監督は1-2で敗れた13日の神戸戦後、「平河と藤尾がいないから勝てないといわれるかもしれないが、奮起の材料してほしい」と現有戦力の活躍に期待した。
日本協会側も各クラブの協力に謝意を示す。4日の代表発表会見で山本昌邦ナショナルチームダイレクター、大岩剛監督はともに、選手派遣に応じたクラブに感謝の言葉を繰り返した。クラブは戦力ダウンによる成績低迷のリスクを負うだけでなく、低迷に伴うスタッフや選手の解雇などにもつながりかねない。2人の感謝の言葉は、五輪の好成績で報いるという決意表明でもあった。
代表チームとクラブが戦う土俵は異なり、短期的な利害は一致しない。しかし、注目を集める五輪が日本サッカー界の発展に与える影響は大きく、代表の活躍が日本サッカー界を活性化すればクラブも活気付く。実際、日本サッカー界には、代表とJリーグが相乗効果を生み出しながら成長してきた歴史がある。五輪での好成績が双方の利益となるのは確かなだけに、代表は8大会連続の五輪出場権を手にし、選手を派遣したクラブは踏ん張ることで、喜びを分かち合ってもらいたい。(奥山次郎)
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