「厳しさって、本当の厳しさって、皆さん、何ですかね?」

スポーツ界のハラスメント問題を長年取材するジャーナリストの島沢優子さん。先月、スポーツ指導を担う教員らを集め行われた「スポーツハラスメント防止研修会」に登壇した。

▽講演で島沢優子さん
「叱って “走れ、これをやるんだ、何しているんだ” と、ガッと一瞬強度を高く追求すると、子どもたちはスッと伸びる」「ですがそれは “一発学習” とか “恐怖学習” と言われ、プレッシャーを、恐怖を与えることで子どもたちがしょうがなくやるわけですよね。そこに主体性とか自立はない」

島沢さんは、大阪の桜宮高校で顧問からの体罰を苦にバスケット部員が自殺した事件(2012年)など、スポーツ界に蔓延するハラスメント問題を長年取材してきた。

スポーツを指導する教員らを相手に講演した島沢優子さん(11月・沖縄市)

▽島沢優子さん
「2021年明けの1月に、コザ高校のお子さんが(部活動顧問の叱責を苦に)亡くなって、 “まだ届いていないんだ” と。ショックだったですね」


沖縄県立コザ高校の空手部員が顧問からの叱責を苦に自殺した問題を受け県が設置した、部活動改革推進委員会の委員も務める島沢さん。同じ委員の一人、沖縄大学の石原端子准教授のゼミ生(大学3、4年)とのディスカッションに臨んだ。参加するのは、亡くなった生徒と同世代の学生たちだ。

▽男子学生 
「コザ高校の自死のことを学んでいけばいくほど、楽しくやっていた部活でこうなるのは良くないと、めちゃくちゃ思います」

学生とのディスカッション 一番手前が島沢さん

▽別の男子学生
「自分はチームスポーツをやってきたけど、監督の押し付けというか自分がやりたいことをさせてもらえなかったというか… 監督の型にはめたチームプレーをやっていけという感じで、好きなことができなかった」

▽島沢優子さん
「 “なんちゃって押し付けていませんよ大人” もいるんですよ、本当は押し付けているのに」

それでも子どもがそうした指導に応え、大人に合わせていく理由を、島沢さんはこう表現する。「なんちゃって主体性」。


「子どもたちってみんな優しいし、大人はこうしたら喜ぶって思うわけです。あと、 “こうしたら怒られない” 、とかね」
「(子どもでも)リップサービスが多いんだよ、そこになかなか大人が気付けなくて、 “なんちゃって主体性” になっている」

子どもの優しさや、演じている “主体性” に大人はなかなか気付けていないという

スポーツをしている学生たちの中には、すでに子どもたちの指導を担っている学生もいた。ディスカッションのさなかに、ハッとした様子だ。

▽ダンスを教えている女子学生
「近々あるコンテストに向けて気合入れるぞ! と選抜メンバーを固めて、今までやっていなかった筋トレもやったりとか、自分の中で気合が入っているんです。今の話を聞いて、ちょっと危ないなと。自分の主観を入れすぎたらこれ危ないかも(と感じた)」

▽島沢優子さん
「そこで問いかけてあげたらいいだろうね。 “コンテストがあるけど、みんなどんな気分?どういうことしたい? ” と。子どもたちがこうしたいと、そのためには何をするか考えようか、という感じで伴走すればそこは主体的じゃん」

自分の指導は危ないのかも… 自分事として考えた学生

社会におけるスポーツの課題を自分事として考えた学生たち。島沢さんは社会課題の改善には共感する力が必要だと語りかけた。

「何かを変革、改革するとき、変えていくときというのは、その課題に対して共感することが源泉だと思うんです。僕もそういう経験あったよ、嫌だったよ、だからこれは変えていかなければ、と」
「適切な情報が与えられていけば、共感が芽生えていく、ということは今日(のディスカッションで感じた)一つの希望だと思いました」

模索が続く県内の部活動改革。島沢さんは指導者たちに、部活動 “から” 変わっていくことの意義を訴えている。

「学校の中で運動部活動はすごく注目をされる。そこが変わっていけば、生徒や他の教員の方々への良い影響は必ずあると思うんです。トップランナーになるというような気概を持ち、一緒に走り始めていただければ嬉しい」

スポーツを指導する教員に「部活が変われば、他他への良い影響がある」と呼び掛けた

<取材MEMO>
島沢さんは県の部活動改革委員の一員として、新たなプロジェクトを立ち上げる。

「野球・バスケット・サッカー・バレーボール・ハンドボール・空手」の6競技の県内団体が協力し、ハラスメント問題について学びを深めるという。競技団体の垣根を越えてスポーツハラスメントの根絶をめざす取り組みは全国的にも初めてのケースとみられ、このプロジェクトにも注目が集まっている。(取材 下地麗子)

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