金栗記念選抜中長距離熊本大会(4月13日、熊本)は、金栗四三の名前を冠した長距離種目だけが行われる大会。熊本県出身の金栗は1912年ストックホルム五輪マラソン代表(20年アントワープ大会、24年パリ大会にも出場)で、短距離の三島弥彦とともに日本人として初の五輪代表となった伝説的な選手。

その金栗以来、熊本県出身者としては100年ぶりの男子マラソン代表となった赤﨑暁(26、九電工)が5000mに出場。13分30秒62と自己記録に約3秒と迫るタイムで日本人3位と好走した。男子3000m障害で21年の東京五輪7位、昨年の世界陸上オレゴン6位入賞の三浦龍司(22、SUBARU)は、実業団初戦として1500mに出場。3分39秒28と自己2番目の好記録で日本人トップの2位に入り、本職の3000m障害に向けて好感触を得た。

赤﨑暁、パリ五輪へ地元の熊本で手応えを得る

スピードを確認できたことが、赤﨑にとって一番の収穫だった。

男子5000m最終4組は外国勢が上位を占めたが、日本勢では終盤でペースアップした塩尻和也(27、富士通)が13分24秒57で日本人トップの7位。日本人2位争いを赤﨑が制した(3組の米井翔也=JR東日本=が約1秒、赤﨑を上回ったため総合順位では米井が日本人2位、赤﨑が3位)。

赤﨑は昨年10月のMGCで、小山直城(27、Honda)に続いて2位に入りパリ五輪代表入りを決めた。そのMGCに向けて重要な要素となったのが、トラックのスピードを生かしたマラソン練習を行ったことだった。

7月8日のホクレンDistance Challenge網走大会で13分27秒79と、自己記録を約20秒更新。その4日後のホクレンDistance Challenge北見大会でも13分28秒70で走った。マラソンに向けた練習の流れで、完全にピークを合わせたわけではなかった。長距離指導者間で、MGCの有力候補に赤﨑の名前が挙がり始めた。2月にはパリ五輪の起伏が激しいコースを想定した青梅マラソンに優勝(1時間29分49秒)し、坂の走りに自信を持てた。

そして金栗記念で好走した。レース後には「今日の走りはスピードもある程度戻って来たと感じられました。ここからもう一段階上げて、より良い状態に仕上げていきたい」と話した。今後は5月3日の日本選手権10000mに出場し、マラソンを意識しながらスピードを出す走りの精度をさらに上げていく。その後は長野県東御市など、MGC前にも使った高地トレーニング拠点で仕上げていく。そのプロセスを進めていくための確かな手応えを、赤﨑は地元の熊本で得た。

三浦龍司が予定通りの走り、織田記念でパリ五輪代表内定の可能性も

三浦龍司にとって「感覚と実際の走り」が一致したことが収穫だった。三浦が金栗記念でトラックシーズンをスタートさせるのは、順天堂大の学生だった昨年までと同じパターンだ。

「ここの1500mは毎年ルーティーンにしていますが、社会人1年目の1レース目なので、気合が入っていました。まずまずの走りだったと思います」

昨年は3分41秒82で2位。3月28日のSUBARU入社会見時には「それより少し速いくらいのタイムになればいいかな」とコメントしていたが、3分39秒28とその言葉通りのタイムで走って見せた。

着順は2年続けての2位だったが、館澤亨次(26、DeNA)に敗れた昨年と違い、日本人間ではしっかり勝ちきった。3000m障害で世界と戦う武器となっているラストの強さも、しっかりと確認した。

「去年は少し動きのところで悪かったり、噛み合わないところがあったりしたのですが、それに比べると良かったと思います。動かすこともできましたし、タイムも目標はしっかりクリアできた。感覚と実際の走りが噛み合ってる状態なのかな、と思います」

もちろん金栗記念が良かったから、今シーズンが上手く行くと決まったわけではない。昨シーズンは金栗記念の感覚がいまひとつで、6月の日本選手権までは噛み合わない部分があった。しかし日本選手権直後のダイヤモンドリーグ・パリ大会で一気に日本記録(8分09秒91)までタイムを伸ばし、8月の世界陸上ブダペスト大会で6位に入賞した。

「この大会が良かったからといって、今シーズンの出来がどうなるか、まだ分かりません。そこは自分の今年の調整次第かなと思います」

次戦は4月29日の織田記念。例年は5000mに出場していた大会だが、今年は本職の3000m障害に出場する。三浦は世界陸上入賞者なので、今年に入ってからのパリ五輪標準記録(8分15秒00)突破で五輪代表に内定する。標準記録にこだわって出場するわけではないが、金栗記念の走りを見ると、三浦が織田記念で代表を決める可能性は7割程度あると感じられた。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

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