21年の東京五輪のシンボリックな施設を使用して形として残るレースを続けていくことや、市民のスポーツ参加を促進することなどを目的に、22年に始められた東京レガシーハーフマラソン。20日に行われる大会の前々日会見が、スタート地点の国立競技場で18日に行われた。
エリート男子の部の会見には前回優勝のエバンス・ケイタニー(24、トヨタ紡織)、同2位のベナード・キメリ(29、富士通)、先月58分47秒の快記録で走ったアモス・クルガト(32、中電工)のケニア勢3選手と、西山雄介(29、トヨタ自動車)の4人が出席。日本勢では旭化成の大六野秀畝(31)、市田孝(32)も上位争いに加わる力がある。
ケニア勢が会見でコースレコードに意欲
今大会男子の大会記録は1時間00分10秒。出場してきた選手たちの力を考えると、少し物足りなさが感じられる。始まって間もない大会ということもあるが、最初の2km が少しの上りであることと、終盤にも約3km の上り坂があることが原因だろう。
会見でも最初は、誰も記録的な目標を口にしなかった。だが同席した大嶋康弘レースディレクターのコメントが雰囲気を変えた。「昨年は雨の中でのレースとなりましたが、日曜日は長距離種目に適した天候になりそうです。昨年の1、2位選手のどちらがタイトルを取るか楽しみです。そこに、9月にコペンハーゲン(デンマーク)で58分台を出したクルガト選手が加わり、3人が中心になって60分を切るようなレースを期待します」。
それを受けて選手たちからも積極的な発言が続いた。
「60分切り、59分40秒がターゲットタイムです」(ケイタニー)
「調子が良いですし、コースレコードを更新したい」(クルガト)
ケイタニーは会見の冒頭で「タイトルを守りたい」と宣言。キメリは一昨年が3位、昨年が2位なので、優勝への思いは強いだろう。
だがハイペースになればクルガトに分があるか。キメリも59分07秒の自己記録を持つが、昨年、今年と1時間を切ることができていない。それに対してクルガトは、9月の58分47秒を筆頭に今年3レースで1時間を切っているのだ。
ハーフマラソン(21.0975km)を1時間ちょうどで走るには、1km平均2分50秒64のスピードが必要になる。今大会は最初の2kmに上り下りがあり、その後5kmまでは下りが続く。最後の5kmはその逆になる。テレビ中継では上り下りがわかりにくいが、2分50秒を切るスピードが出ていたら平地か下りを走っていると考えていいし、1時間を切る可能性もある。
外国勢ではビダン・カロキ(34、トヨタ自動車)が58分42秒と、参加選手中最高タイムを持つ。その記録を出したのは18年だが、昨年も59分37秒と健在ぶりを示している。クレオファス・カンディエ(24、三菱重工)も59分18秒、ロロット・アンドリュー(26、YKK)も59分54秒と、1時間未満の自己記録を持つ。
外国勢が先頭集団の大半を占める形で進むと予測されるが、終盤の上り坂に気後れせず、2分50秒を切るペースを期待したい。
大会日本人最高記録更新も期待できる顔ぶれ
日本勢では森井勇磨(34、京都陸協)が、こちらの記事で紹介したように、序盤の下りで2分40秒台半ば、あるいは2分40秒台前半のハイペースで入る可能性がある。そのときに誰が追うか。
1人で追うよりも2人以上で追った方が、オーバーペースの不安なく追うことができる。会見に出席したケニア3選手は「お互いによく知っているし、ケニアで一緒にトレーニングをすることもある。高め合うレースをしたい」(キメリ)と話していた。一緒に森井を追う展開も期待できる。
日本勢では西山雄介(29、トヨタ自動車)が 、以前の記事で紹介したように、少しくらい速いペースでも付いて行く心づもりだ。会見では目標記録について「2年前の自分が62分15秒だったので、そこを最低目標として、それよりも速ければ、どれだけでも出したい」と話した。2年前は終盤に追い上げて日本人トップ争いを演じた(全体11位で日本人3位)。
日本選手では大六野と市田の旭化成勢にも注目したい。「2人とも自己記録(市田1時間00分19秒=日本歴代6位、大六野1時間01分32秒)を狙うわけではなく、冬のマラソンに向けての流れ」(岩井勇輝コーチ)の中で出場する。西山と同じ位置づけだ。
今季、レースで安定しているのは市田の方だが、9月の全日本実業団陸上10000mレース中に右足首を捻挫して、9100m付近で途中棄権した。「10月に入って少しずつ練習を再開した」(岩井コーチ)ばかり。本来なら日本人トップ候補だが、「1時間02分前後」が現実的な目標となる。
一方の大六野は、3月の東京マラソン(32位・2時間12分09秒)後はトラックを2レースを走っただけ。タイムもそれほどよくなかった。「本人がレースに合わせるために練習量を落とすのがイヤで、練習を積んでいくことを優先した結果です。ピークを合わせれば(10000mで)27分台はいつでも出せる」と岩井コーチ。
今回のハーフマラソンに向けても「練習のタイムも上がっているし、その中でも余裕をもってこなしている。夏には長い距離を走り込むこともできました」と、すごい記録を狙わずとも、良い状態で臨めるのは間違いない。
坂に苦手意識があるわけではないが、東京マラソンでは25kmで集団から遅れ始め、上りの35~40kmは17分28秒もかかった。「脚作りができていなかったことや、坂が課題と認識して、普段のジョグから起伏を多く走るようにしてきました。その成果を東京レガシーハーフで確認するのも目的の1つです」(岩井コーチ)
先行型の森井、第1回大会では終盤で追い上げた西山、坂の走りに注目したい大六野。昨年の第2回大会で近藤幸太郎(SGホールディングス)が出した1時間01分26秒が、今大会の日本人最高記録。どの選手も地力がアップしたことの証明として、できれば日本人最高記録を更新してほしい。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。