柔道60kg級永山竜樹(28)に立ちはだかっていたのが3学年上の先輩で東京五輪金メダリストの髙藤直寿(30、パーク24)だった。勝負所では、いつも髙藤選手だった中、永山選手は昨年12月のグランドスラム東京で運命的とも言える一騎打ちを制し、パリ五輪の切符をついに勝ち取った。実に7度目の直接対決だった。二人の取材コメント取材を振り返ると熱きライバルストーリーが鮮やかに浮かび上がってきた。
大きな壁となったライバル髙藤直寿
永山選手は15年世界ジュニア選手権優勝に始まり世界舞台で輝き始める。かたや東海大学時代からの先輩・高藤選手は16年リオ五輪で銅メダルを獲得。60kg級のエースへと成長した先輩は越えるべき存在となった。初対戦は16年、当時20歳の永山が高藤選手から大金星を挙げ、壮絶なライバルストーリーが始まった。
髙藤直寿(たかとう・なおひさ):
負けないだろうって僕は思ってたんですけどその時に投げられて、これまずいなって思ったのがやっぱ一番印象的ですね。はい。恐怖感を与える。一発の技の威力っていうのが、恐怖感ではあります。
その後も両者は一進一退、永山が勝ち越したまま、東京オリンピック代表争いは佳境を迎え、6度目の対決となる19年11月グランドスラム大阪が事実上の決定戦となった。永山は僅差で代表の座を逃した。
永山竜樹(ながやま・りゅうじゅ):
くやしかったっすけど、仕方ない。仕方ない自分の実力不足。だと、受け止めて。
迎えた21年東京オリンピックでは高藤が日本勢金メダル第1号に。栄冠を掴んだライバルを見て永山は壁を越えて悲願のオリンピック出場への強い想いが湧き上がった。
永山:
ずっと2番手でやってきてそこにすごい壁を感じてたんですけどでもやっぱ実力とか、技術パワーは負けてない自信もありました。
髙藤:
僕は“世界一”負けないと思うんですけど、彼は“世界一”強いと思うのでそこでどういう勝負になるかなとは思うんです。ファンはみんな見たいと思うけど、僕はやりたくないです。
パリ五輪切符を掛けた7度目のライバル対決
パリ五輪へ向け、再び熾烈な代表争いが始まった。共に一歩抜け出せず2人の争いは混迷を極めた。下馬評では実績で勝る高藤が圧倒的に有利とされる中、打開すべく永山は1人フランスへおよそ1ヶ月間の武者修行で徹底的に自分と向き合った。
永山:
リフレッシュできた期間になったかなと思います。今までのものも全部捨てて、フランスに行って心機一転した。
学んだのは心のコントロール。ここ一番で勝つには闘志を出し過ぎるのではなく、気持ちを抑える冷静さも大事だと知った。そして去年12月グランドスラム東京でパリ五輪代表をかけた7度目のライバル対決を迎えた。
髙藤:
直接やって、はっきりさせたいっていう気持ちもありましたし、周りもそれを望んでましたし、そこが一番すっきりするんじゃないのかなとは思ってた。
息詰まる攻防を繰り返す中、2人は不思議な感覚を覚えていた。
永山:
今までやってきた細かい技術とかも、全部が詰め込まれた試合だったんですけど、これを超えるような試合はないんじゃないかな。
髙藤:
他の階級と違ってやっぱ僕がいて僕を越さなくちゃいけないっていう厳しい中だったんですけど彼は諦めなかったので本当にすごいなと思いますね。
決着、そして…
延長戦の末、パリへの切符を掴んだのは永山選手だった。激闘の後、先輩の声が耳に届いた。
髙藤:
頑張ったなっていうのと、オリンピック頑張れよっていうのを声かけて…やっぱり戦った僕らにしかわからない感情っていうのがあるので、本当によくあそこから巻き返して、どんだけの気持ちで望んできたんだろうって、もうそこに対して本当すごいなっていうのと、本当に頑張ってほしいっていう、そういう気持ちで声はかけれました。永山選手だったからこそです。
永山:
やっぱり高藤選手がいたから自分はここまで成長できましたし、ずっと自分の壁であり続けてくれたので、自分の柔道人生にとってかけがえのない存在だなと思います。自分の柔道人生の中の一番のベストバウトになるんじゃないかなってすごい思えました。60キロ級を背負ってきた先輩からバトンを渡されたという、必ず金メダルを獲らないといけないと思ってます。
壁を越えてたどり着いた夢の舞台への切符。それは周りにも大きな変化となる。真冬の北海道・美唄市、故郷は初の五輪選手誕生に沸いていた。競技人生の出発点となった場所で柔道教室を開けば、目を輝かせた子供たちが駆け寄ってきた。
永山:
やっぱりこの生まれ育った美唄の地にパリ五輪で自分らしい一本を取る柔道をして、金メダルを美唄の地に持ち帰っていきたいと思います。
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