パリ五輪陸上競技5日目の8月5日、東京五輪7位の三浦龍司(22、SUBARU)が男子3000m障害を2組4位、8分12秒41で通過した。
1000mの通過は2分41秒8、2000mが5分28秒9と、自身の持つ8分09秒91の日本記録更新も可能なハイペースだったが、三浦の走りには余裕も感じられた。
大学時代から三浦を指導する長門俊介コーチ(順天堂大駅伝監督)は、東京五輪のときと類似の練習スケジュールを組んだが、その中にも3年間の成長が表れていた。
アフリカ勢を中心に上位選手の壁は厚いが、7日の決勝ではメダルに迫る走りを期待したい。

レース前のコミュニケーションでレース展開を予測していた三浦

予選は1~3組行われたが、2組だけが速いレース展開になった。三浦は「2分45秒くらいでケニア選手が行くと言っていたので、その流れに乗らせてもらいました」とレース後に明かした。2分45秒はそれなりに速いペースで、最後にペースが上がれば日本記録に近いタイムになる。

1組と3組はスローな展開になった。そうなるとレース終盤のペースの上げ下げや、スパートするタイミング、レース中の位置取りなどの“駆け引き”が重要になる。ペースメーカーが付いて記録を狙うダイヤモンドリーグ(単日開催では世界最高レベルの大会)では、その展開にはならない。五輪や世界陸上など、勝負最優先の大会で見られる現象だ。

スローな展開になることが事前の情報で予想できれば、そのときはまた対応策を考えられるが、今回は速いペースになることが予想できた。DLの転戦で有力選手たちと顔なじみになっていたことが生きたケースだった。

ならばそのペースに合わせるだけで良いし、今の三浦がそのペースに乗れば、力のない選手や自重する選手を引き離しやすい。1000mでは3人の先頭集団から4mほど後方の好位置を走り、2000mでは5人の集団の4番手を走った。

最後は5位の選手を10m以上引き離し、それほど力を使わずに4位で予選通過を果たした。3年前の東京五輪は8分09秒92と日本記録を大きく更新したが、今回の方が力を温存しながら通過している。

東京五輪と同じ練習の流れでも三浦自身が微調整

長門コーチも「経験を積んできたことで、落ち着いたレースができていた」と話す。

「レース前に情報を得ていたこともそうです。スローな展開になると少し心配でしたが、コミュニケーションをとって対応していました。速いペースでしたがDLを経験しているので、割と得意な展開です」

予選の走りを見た長門コーチは、走り全体に余裕があったと感じられた。三浦自身も話していたが、ピーキングに成功していることを示していた。

「スケジューリングを三浦も納得する形でできています。今回はDLパリ大会(7月7日。8分10秒52)後に、パリ五輪までどうしていくかを打ち合わせました。東京五輪のときにピークが合ったので、3年前と類似した流れにすることを決めたんです。ホクレンDistance Challenge深川大会5000m(7月17日。13分31秒61)に出場しましたが、東京五輪前と同じパターンです。DLパリの少し前に決めましたが、三浦も安心感を持てたと思います」

3年前と同じ流れにしても、全てを同じにしたわけではない。3年経って変化している部分、経験を積んで自身への理解度が深くなっている部分もある。

「トラックで(負荷の高い)ポイント練習を入れていましたが、三浦がクロスカントリーのスピード練習も入れたいと言ってきました。練習のタイムも、東京のときはイケイケドンドンの時期で速かったのですが、今は余力度を本人が考えて判断しています」

前回五輪の成功体験と、3年間の成長を上手く融合させたトレーニングで世界に挑む。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

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