2月のキャンプでキャッチボールする阪神ドラフト1位の下村=具志川野球場(松永渉平撮影)

近年、通称「トミー・ジョン手術」と呼ばれる肘の内側側副靱帯(じんたい)再建術を受ける投手が増えている。2月に中日のドラフト1位右腕、草加勝(しょう)が手術を受けたのに続き、4月も阪神の1位右腕、下村海翔(かいと)がメスを入れたと発表があった。

両球団とも、即戦力の期待が大きかったルーキーの手術はショックが大きかったに違いない。以前のパフォーマンスができるか不安もあるだろう。復帰までに1年以上かかることも覚悟しないといけない。ただ、症例が増え、プロの世界でも生きた教材となる選手の話が聞ける安心感もある。早期決断は良かったのではないかと思う。

僕が現役引退して間もない頃の話。米国のトレーナーの現場を学ぶセミナーに参加し、手術の生みの親であるフランク・ジョーブ博士の講義を聴く機会に恵まれた。なるほどと思ったのは「術後、90%のパフォーマンスだったら成功といわない。100%あるいはそれ以上のパフォーマンスができるようになることが成功」と語ったことだった。

日本のプロ野球で僕が思い出すのは、ジョーブ博士の手術を受け、復活を遂げた元ロッテの村田兆治さんだ。僕の現役時代はリハビリ環境がまだ十分に整っていなかったこともあって、肘や肩にメスを入れたらおしまいという考えだった。ただ、村田さんとは術前と術後のいずれも対戦し、術後もきっちりと投げ切っていたことに驚かされた。

今では手術に踏み切った多くの投手が現場復帰できるようになった。阪神の現役でも才木浩人、島本浩也、高橋遥人らがいる。高橋は現在は育成選手として調整中だが、ブルペンを見た評論家から「遥人の球はすごい」との言葉を聞いた。ジョーブ博士が言った「100%以上」の球になっているのかもしれない。

5年前の夏の高校野球で、岩手・大船渡高の佐々木朗希(ろうき)(ロッテ)が肘の違和感で県大会決勝に出場せず、チームは敗退し、賛否両論を巻き起こしたことがあった。ただ、プロに入って大きな故障もなく、今につながっている。

私事だが、歯科医の長男から、治療する以前に、治療を受けない歯にするにはどうするかが大切なのだと聞いたことがある。球界もまずは故障しないためにどうしたらいいかを考えないといけない。アマチュアも含め、そうした環境づくりにどんどん注力すべきだろう。(野球評論家)

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