パリ五輪代表選考大会が迫る中、「年パス」を保有する2人(手前)が練習を間近で見学した=6日、鎌倉市の徳洲会体操クラブ体育館(宝田将志撮影)

徳洲会体操クラブの体育館(神奈川鎌倉市)に掛けられたホワイトボードには、こんな文字が躍っていた。

「完全燃焼 全てを出しきる!」「残りあと3日」

「3日」とは、パリ五輪の代表選考会となる全日本個人総合選手権(群馬・高崎アリーナ)に出発する4月9日までの日数だ。

五輪競技では、大会直前は選手を練習に集中させるため、取材や見学を断るケースがほとんどだが、この日、体育館には一般の女性2人が見学に訪れ、カメラを構えていた。彼女たちは、徳洲会が発行する「練習見学年間パスポート(年パス)」の保有者である。

監督の米田功(46)は「新規のファン獲得ばかりでなく、今、体操を好きな人に、もっと熱狂してもらいたい。練習している姿とか〝裏側〟も見てもらうことによって、選手が活躍したときに感動してもらえるのではないか」と狙いを語る。

徳洲会はファンとのつながりを深めようと、約1年半前からインターネットサイト「フィナンシェ」を活用し始めた。仕組みは、こうだ。サイト内で、徳洲会はデジタルの「トークン」を発行。ファンは現金をポイントに換え、好きな数量だけトークンを購入する。トークンは株式のように価格が変動し、買うだけでなく、売ることもできる。

トークンの保有数に応じて、ファンにはさまざまな特典が付与される。選手と対面で交流できる大会報告会など各種イベントへの応募▽選手らクラブ側とネット上でメッセージのやり取りができる「トークルーム」への参加▽クラブ情報の音声配信が聴取可能-などだ。「年パス」はフィナンシェを通じて実施した資金調達「クラウドファンディング」のリターン(返礼品)で、年間40回予定する練習公開日に参加できる。

クラブの広報担当である来島(くるしま)歩(28)によると、徳洲会のトークン保有者は275人(6日時点)。過去2度の発行で計約460万円が集まり、イベントの運営やグッズ製作、カメラなど撮影機材購入の費用に充てられている。来島は「オープンなSNS(交流サイト)は誰が見ているか分からず、残念なことに、中には批判ばかりしたがる人もいる。資金集めが目的というよりは、同じ熱量を持って、気持ち良く応援したい人たちが集まれるコミュニティーを作りたかった」と説明する。トークンでクラブと結び付き、愛着を持ってもらい、感想や写真などを発信してもらえれる人を増やせれば、と構想している。

練習を見学した埼玉県在住の50代女性は「こんな間近で選手を見られることは他ではなかなかない。試合では6種目通して観戦するけど、(各種目で)部分的にこういう練習をしているんだと分かる」。東京都の30代女性は「元々、好きな選手が徳洲会に多かった。餅つきイベントでは実行委員としてクラブと意見交換して、選手のTシャツなどプレゼント企画を実現できた」という。

副主将の高橋一矢(27)は「最初は練習を見られることに抵抗があったけど、今はそんなに気にならない。ファンの方と直接会って話すと、自分たちの演技から何かを感じてもらえていることが伝わってくる。それは新しい発見で、不思議な感覚だった」と、励みになっている様子だ。

ただ、クラウドファンディングのリターンの中には必要な金額が万単位のものもあり、関係者によると、若者などからは「払えるお金でファンに優劣を付けるのか」といった声も寄せられたという。

選手と競技の価値をどう創出し、提供していくか-。来島は「まだ〝正解〟が分からないけど、(フィナンシェを通じて)ファンの皆さんを近く感じられるようになったし、『こうしてほしい』といった要望がわれわれに届く環境はできたかなと思う。これからもっと盛り上げていけるのでは」と、クラブとして試行錯誤を続けていく考えだ。=敬称略

(宝田将志)

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