1972年のミュンヘン五輪で金メダルを獲得して以降、メダルはおろか出場さえもできないほど低迷していた日本男子バレー。それが今や世界トップ16チームによる「ネーションズリーグ」で初の銀メダルを獲得!世界ランキングは過去最高の2位!いったいいつから強くなったのか…?

“最強”日本男子バレー2人のキーマン

「急速に強くなっている」と話すのは、日本代表を長年取材してきた『月刊バレーボール』の編集長、豊野堯さん。その強さの裏には、2人のキーマンがいるといいます。

1人目は、キャプテン石川祐希選手(28)。ネーションズリーグ決勝ではチーム最多の17得点をあげ、「ベスト・アウトサイドヒッター賞」を受賞しました。

姉の影響でバレーボールを始めた石川選手。中学入学時は身長160cmほどと小柄で、セッターなど様々なポジションをしながら基礎を磨いたといいます。そして星城高校(愛知県)に進学するとメキメキと頭角を現し始め…

『月刊バレーボール』豊野編集長:
「高校2年になってからは公式戦で全然負けなかった」

インターハイ、国体、春高バレーで優勝し、史上初の「2年連続3冠」を成し遂げます。

2014年に中央大学に進学すると、半年後の10月、イタリアの名門「モデナ」からオファーを受け、日本人で初めて、10代での海外挑戦へ。

「レベルの高いところでバレーができるというのも経験できないことが多いし、覚悟は揃っていると思うので、あとは自分が頑張るだけ」と18歳で乗り込んだイタリアでしたが、そこでは多くの壁に直面しました。

まずは「高さの壁」。

身長192cmの石川選手は、2m超えの選手であふれる海外リーグでは小さいほう。日本で通用したスパイクが、やすやすとブロックに阻まれ決まらない…。

さらに大きかったのが「言葉の壁」。
練習も試合も全てイタリア語で、通訳もいない状況。事前のミーティングでは何を話しているのか全くわからず、ただうつろな目で座っている石川選手の姿が…。

監督から「ユウキ聞いてる?大丈夫?」と聞かれても、笑ってごまかすことしかできませんでした。

意思疎通が出来なければ当然、味方とのタイミングがあわずミスを連発。自分の考えを主張することすらできない状況に、石川選手は空き時間には自室にこもり、イタリア語の参考書を手に猛勉強を始めました。
「しゃべれるようになりたい。バレーの中でもだいぶ変わってくると思うので」

大学3年生の時には、スパイカーであるにもかかわらず、守備専門のポジション「リベロ」を命じられたこともありましたが、どんな経験も成長に変えていきました。

石川選手:
「現地に行ったら大変でしたけど、海外が怖いものではなくなりましたね。精神的に」

日本に帰国すれば、順調にキャリアを重ねられるはず。それでもあえて厳しい環境に身を置き続けたのは「世界のトッププレーヤーになる」という目標があったからからこそ。「努力をすれば日本人でもできることを証明したい」と、“世界の高さ”に負けないジャンプ力とテクニックを磨き上げたのです。

そして「モデナ」以降も▼「ラティーナ」(2016~18)▼「シエナ」(2018~19)▼「パドヴァ」(2019~20)▼「ミラノ」(2020~24)と強豪チームを渡り歩き、「ミラノ」では、試合中の円陣で監督から「良いボールが来たらすべてユウキに集めろ!」と指示が飛ぶほどに。海外リーグ日本人初のキャプテンとしてチームを率い、今シーズンセリエAで初の3位に入りました。

その実力は、世界最高のセッター、ブラジル代表のブルーノ選手も認めています。「もうユウキについて言う事は何もない。彼は今、世界で一番強いスパイカーだからね」

そして来シーズンは、“世界最強クラブ”「ペルージャ」へ。今シーズンセリエAで優勝し、世界クラブ選手権2連覇の超名門チームに、エースとして招かれたのです。

エース石川が起こした日本代表選手の“地殻変動”

一方、日本男子バレーは、石川選手を擁しても2016年のリオ五輪は出場すらできませんでした。「今のままでは絶対に勝てないと思うので、何かアクションを起こしていかないと変わっていかない」と、石川選手は自分の行動で示すことを決意。海外で活躍し続けることで、日本代表選手に“地殻変動”が起きたといいます。

『月刊バレーボール』豊野編集長:
「個人として“世界トップを目指してなれる”という事を石川選手が示してくれたと思うし、西田有志選手や髙橋藍選手がイタリアに行ったり、他の日本人選手の意識が変化した

「常に僕が個人で強くあり続けることによって、まわりも僕を見て『強くならないと』と思ってくれる。行動で示すことが必要」との石川選手の言葉通り、チーム全体のレベルが上がり、日本男子バレー躍進につながったのです。

“日本の国民性を活かした”もう1人のキーマン

日本男子バレーを急成長させたもう1人のキーマンはフィリップ・ブラン監督。

『月刊バレーボール』豊野編集長:
「2017年にコーチとして日本に来て指導を始め、日本代表は順調に強くなった」

フランス人のブラン監督には“独特の指導方針”があったと話すのは元日本代表の福澤達哉さん(38)です。
「悪い言い方をすればすごくうるさい人。練習でも試合でも、1プレーごとに『そのポジションじゃない!』って声を荒らげて怒る」

ブラン監督は、ブロックやレシーブも、飛ぶ位置、入る位置を決めて徹底。この細かい指導、実は“日本文化を理解した上での戦略”でした。

フィリップ・ブラン監督:
「日本人は注意深くひとつひとつの決定を下していく。何かを決めたらそれを変えることはないという前提で物事を決めているような気がします」

福澤さんは、「欧米の選手は個が強く、監督と意見が合わないと歯車が狂う」とし、「日本は比較的和を尊重する国なので、まず一生懸命やるということが日本の国民性にうまくハマった」とブラン監督の指導を振り返ります。

こうしたブラン監督の指導が実り、2021年の東京オリンピックでは、必殺技「フェイクセット」がさく裂。スパイクを打つふりをしてトスをあげ、別の選手がスパイク!という技で相手をほんろうし、バルセロナ五輪以来、29年ぶりのベスト8進出を果たしました。

さらに2023年のネーションズリーグでは、国際大会では46年ぶりのメダルとなった銅メダル!今年のパリ五輪出場権も獲得し、現在世界ランキング2位となった日本代表が52年ぶりのメダルに挑みます。

男子バレー元日本代表 福澤達哉さん:
「この前、ブラン監督と話した時にメダルを取るのが夢だと言っていた。自国開催のオリンピックに対する思いは非常に強いものがあるのではと感じている」

“恒例の儀式”仲間へ安住アナがエール

石川選手は過去に数回『THE TIME,』に生出演し、スタジオで手加減ナシの強烈スパイクを打ち込み、それを安住紳一郎アナが体を張って受けるという“恒例の儀式”も話題に。

そんな石川選手に安住アナは「コート上でプレーしていても、やっぱりなんか気持ちがぐっと一緒になる感覚がある」と話し、五輪での活躍を期待した。

パリ五輪では、予選ラウンドの組み合わせが発表され、日本はドイツ(世界ランク11位/7月27日)、アルゼンチン(8位/7月31日)、アメリカ(5位/8月3日)と対戦する。

(THE TIME, 2024年7月3日放送より)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。