【阪神-中日】14日の中日戦で打順が大きく入れ替わった阪神の先発メンバー=14日、バンテリン(松永渉平撮影)

沈黙の将・岡田彰布監督(66)が決断した打線の大シャッフルの先にあるのは、さらなる若手の積極起用でしょう。阪神は14日の中日戦で打順を総入れ替えする荒療治が実り、2-1の辛勝。これで5球団と一巡し、6勝8敗1分けの借金2。波に乗れない理由は12球団ワーストとなるチーム打率2割6厘の貧打線です。では打開策は-。筒香嘉智内野手(32)=前ジャイアンツ3A=の争奪戦に目もくれず、新外国人野手の獲得もない中で、主力の低迷が今後も続くならば選択肢は若手の抜擢(ばってき)しか残されていません。指揮官はチームの大きな目標達成に向けて腹をくくっているはずです。

監督10シーズン目で初

長い、長い沈黙が続いています。岡田監督が報道陣の囲み取材から背を向けて1週間以上が経過しました。5日を境に口をつぐみ、14日の中日戦(バンテリン)で2-1と辛勝した試合後も全くの無言。なので虎党愛読の岡田語録はスポーツ紙にもサッパリ載りませんね。

「お~ん」「そらそうよ」「ハッキリ言うて」-などなど、独特の表現で阪神ファンのみならず、全国の野球ファンを楽しませてくれた岡田節が聞けないのは寂しい限りです。

開幕カードの巨人3連戦(東京D)で1勝2敗。続くDeNA3連戦(京セラ)でも1勝2敗。開幕2カード連続の負け越しは、オリックス監督時代も含めて監督10シーズン目で初めてのことでした。

不機嫌になった要因

DeNAに負け越した4日、指揮官は試合後の囲み会見で「いやいや、まあちょっと想定外やな。ちょっとやな。別にまだ2カードやから。まだ当たってない3球団あるから。そこまでやな」などと話しました。各社虎番は当然ながら指揮官の「想定外」のフレーズに飛びついたのですが、どうも岡田監督は「想定内や」と言ったつもり?らしく、翌日のスポーツ各紙の報道で「想定内」が「想定外」になっていたことに激怒。それから取材拒否を続けているのです。

【阪神-中日】勝ち投手となった才木浩人(35)とタッチを交わす阪神の岡田彰布監督=14日、バンテリン(渡辺大樹撮影)

虎番との行き違いの背景にはさまざまな要因があるので、それは横に置いておくとして、そもそも指揮官が不機嫌になった最大の原因は、チームが開幕から波に乗れないことに尽きるでしょう。開幕から順調に勝っていれば周囲にツンケンすることもなく、眉間にシワを寄せることもなかったのですから、やはりチームの滑り出しが悪かったことと現状のベンチ裏には因果関係があると言っても間違いないですね。

チーム打率2割6厘

14日の中日戦で、岡田監督は打線を大きくいじりました。1番から木浪-梅野-近本-佐藤輝-大山-前川-森下-中野-才木。前日までは1番・近本、2番・中野に始まり、18年ぶりのリーグ優勝を勝ち取った昨季のような見慣れた打順でしたが、一気にシャッフルしました。それが功を奏して辛勝したのですが、岡田監督の打順変更策はあくまでも一種のカンフル剤でしょう。

ここまで6勝8敗1分けの成績はどこに問題があるかといえば、もう数字が歴然と示しています。15試合消化してチーム打率2割6厘は両リーグワースト。チーム防御率2・60は悪い数字ではないので、勝てていないのは打線に問題があるからです。主力打者の打率もひどい。佐藤輝は1割9分6厘、大山は1割6分7厘、森下は1割5分7厘。あの近本でさえ打率2割5分です。

【阪神-中日】14日の中日戦で、七回に適時打を放つ阪神の中野拓夢。普段の2番から8番に打順を下げ、結果を残した=14日、バンテリン(松永渉平撮影)

「昨季は打席の中で粘り強くボールを見極めて四球を奪い、それを得点に結びつけた。しかし、今季は他球団も阪神打線を研究している。強いボールをストライクゾーンに投げて勝負してくる。その強いボールを打ち損じているから、各打者の数字が悪いんだ」とは阪神OBの分析です。

昨季、阪神打線にやられた他球団は新たな策を練ってきています。阪神の各打者も相手バッテリーの攻め方を研究し、新たな対策を講じる必要があるのかもしれません。やられたら、やり返す-。厳しいプロ野球の世界はその繰り返しでもあるのです。

残る選択肢は若手登用か

14日の中日戦では1番から8番まで役割を全部変えました。各打者の脳ミソにも刺激が加わったでしょう。それが今後、どう生きてくるのか…。カンフル剤は何度も打つものではありません。やはり最後は各打者が自身の調子を上げて、昨季のようなつながりのある攻撃に変えていかないとチームの上位浮上もないでしょうね。沈黙の指揮官も今は我慢に我慢を重ねている過程なのでしょう。それが功を奏すればいいのですが、もし打線の低迷が今後も長期化した場合はどうするのか。

一つの手段は緊急補強です。しかし、岡田阪神にはその発想はありません。この1週間、プロ野球を騒がしたのは日本球界復帰を決断した筒香をめぐる争奪戦でした。筒香の代理人はプロ野球12球団に獲得の意思を確認するメールを送りました。古巣のDeNAや巨人、パ・リーグの複数球団が名乗りを上げ、争奪戦を続けた中で、岡田監督は見向きもしなかった。筒香を獲得すれば若手外野手の出場機会が減り、成長を促すための経験が積めなくなるからです。

ヤクルトとのオープン戦で適時打を放つ阪神の井上広大。1軍抜擢があるか=3月8日、甲子園(松永渉平撮影)

阪神の外国人野手も低調です。ミエセスは2軍だし、ノイジーもスタメンで出たり控えに回ったりで、本来の助っ人としての活躍はほとんど見られません。それでも阪神は新たな外国人野手の獲得には動いていません。理由は筒香争奪戦に見向きもしなかったことと同様でしょう。

なので、もし主力選手がダメなままならば、残された選択肢は2軍にいる若手野手のさらなる登用しかありません。島田や高寺、井上らが候補になるのでしょう。頼りない…と言うなかれ。阪神に限らず、どこの球団でも実績のない若手は最初は頼りなく見え、結果を残すにつれて、頼もしくなっていくのです。

監督復帰時に掲げたテーマ

岡田監督が監督に復帰した1年半前、大きなテーマに掲げたのは「指導者も選手も若手を育てて、常勝チームを築く」というものでした。順風満帆の時だけではありませんね。苦しい時、つらい時はどうしても外からの戦力補強に目を向けがちですよ。しかし、どんな苦しい状況に陥っても、最初に掲げた大きなテーマを見失わないことが大事になってくるのでしょう。

初志貫徹-。今の岡田阪神にはそこが問われているのかもしれません。沈黙の将が再び雄弁になったとき、阪神打線は見違えるほど機能していると思います。

【プロフィル】植村徹也(うえむら・てつや) サンケイスポーツ運動部記者として阪神を中心に取材。運動部長、編集局長、サンスポ代表補佐兼特別記者、産経新聞特別記者を経て特別客員記者。岡田彰布氏の15年ぶり阪神監督復帰をはじめ、阪神・野村克也監督招聘(しょうへい)、星野仙一監督招聘を連続スクープ。

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