田中希実(24、New Balance)が陸上競技の日本選手権(6月27~30日、新潟)で“異例の挑戦”を行う。2種目でも難しいと言われる同一大会での複数種目出場だが、田中は4日間で女子800m、1500m、5000mの中・長距離3種目に21年、22年大会に続き出場する。
5000mではすでにパリ五輪代表に内定済み。1500mは日本選手権でパリ五輪標準記録(4分02秒50)を突破して優勝すれば、代表に内定する。800mでは今季絶好調の高校生、久保凛(16、東大阪大敬愛高2年)との対決も注目される。
田中にとっては走りやすいタイムテーブル
日本選手権は各種目の実施日時も、予選・決勝などのラウンドの数も毎年固定されているわけではない。田中が今年出場する3種目は以下のタイムテーブルで行われる。
【2024年(6月27~30日@新潟)】
1日目 18:45~1500m予選
2日目 19:45~1500m決勝
3日目 15:25~800m予選、17:55~5000m決勝
4日目 16:55~800m決勝
田中にとっては“走りやすい”スケジュールになった。1500mの予選と決勝が1日目と2日目に1本ずつ行われ、最初に五輪代表を決めたい種目に集中できる。3日目は2本を走るが、5000mはすでに代表が内定している種目なのでストレスは感じないだろう。最終日の800m決勝は4日レース連続で疲労の蓄積が心配されるが、田中の過去の日本選手権を見ればそこまでハードなことではない。
21年の日本選手権も3種目に挑戦し、最終4日目に800m決勝で3位(2分04秒47)になった30数分後に、5000m決勝で3位(15分18秒25)と粘った。22年の日本選手権も3種目に出場。やはり最終4日目に800m決勝と5000m決勝を1時間10数分間隔で走り、800m2位(2分04秒51)と5000m1位(15分05秒61)の結果を残した。
3種目で異なる走る目的
各種目にどんな期待が持てるのだろうか。
1500mはパリ五輪代表を内定させることが目標になる。父親の田中健智コーチは6月初旬の取材で次のように話した。
「外国勢が周りにいる状況なら、ダイヤモンドリーグ(以下DL)ストックホルム大会(6月2日 4分02秒98、9位)のように4分2秒台で走れるところに来ています。日本選手権は1着を取るのを前提に、標準記録を破って堂々と代表権を取ることが目標です」
田中コーチが「堂々と」という言葉を使ったのは、7月上旬に確定するRoad to Paris 2024(標準記録突破者と世界ランキング上位者を1国3人でカウントした世界陸連作成のリスト)の順位が出場選手枠に入ることは確実で、標準記録が突破できなかった場合でも、日本選手権で3位以内になれば代表入りは確実になるからだ。
5000mは昨年の世界陸上ブダペスト8位入賞と、今年に入ってのパリ五輪標準記録突破(5月27日に14分47秒69)で、すでに五輪代表に内定済み。自身の持つ14分29秒18の日本記録を国内レースで更新することは難しいが、昨年に続く1500m&5000mの2冠はノルマと考えているだろう。勝つことに加えて田中のこれまでのレース出場と同様に、何かしらのテーマを持って臨むはずだ。
800mは「(日本人初の)1分台を意識したレース」(田中コーチ)をしたいと考えている。代表入りまでは狙っていないが、1分59秒30の五輪標準記録の可能性がゼロというわけではない。
「着をとるための練習」の進み具合をチェックする大会
1500mと5000mは優勝の確率がかなり高い。しかし800mは、今季1レースに出場しているが高校生の久保に敗れた。残り300mから田中が先頭に立ったが久保を引き離せず、ラスト50m付近で逆転を許した。久保が2分05秒35、田中は2分06秒08だった(田中の自己記録は2分02秒36)。
5月25日のDLユージーン大会で14分47秒69、パリ五輪代表を決めた。5月30日のDLオスロ3000mで8分34秒09の日本新、6月2日のDLストックホルム1500mで4分02秒98と好タイムを連発した。だが着順はユージーンが11位、オスロ10位、ストックホルム9位と、そこまでよくなかった。
田中コーチは「着をとるための練習にまだ取り組んでいない」ことを理由に挙げた。DL3連戦後はパリ五輪に向けて、そのための練習にも取り組んでいく。
着順をとる練習と言えば、ラストの競り合いを制するためのスピード練習をイメージする。だが田中の場合はスピード練習ではない、と田中コーチは言う。
「400mのタイムは800mの選手たちに劣ります。200mだけを走っても27~28秒なのですが、田中はスタミナを上げられれば、レースの最後200mを同じくらいのタイムで走ることができるんです。ストックホルムは色んな衝突に巻き込まれて焦りが出て、余裕を失ってラストに備えられなくなってしまいました。心身のスタミナを手に入れられたら最大限のスピードを出せる」
DLストックホルム大会翌日にはケニアに移動して約2週間の高地練習を積んだ。田中にとってはケニアで行う「泥くさい練習」が着順をとるためのトレーニングになる。帰国後も岐阜・御嶽に移動して約1週間、合計約3週間の高地練習を経て日本選手権に臨む。
昨年も世界陸上ブダペストで一気に調子を上げ、5000m予選で当時の日本記録をマークし、決勝では8位に入賞した。日本選手権はまだ本番に向かう途中の段階だが、DLよりもラストの強さは示したい。
5000mならロングスパートで後続をどこまで引き離せるか。800mならスピードがある久保らにラストで競り勝てるか。日本選手権は1500mの代表を内定させることと、「着を取る練習」の進み具合を確認する大会になる。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
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