これまでにない程の熱狂ぶりをみせる日本男子110mハードル。世界陸上で5位に入り既にパリ五輪代表に内定済の泉谷駿介(24、住友電工)をはじめ、その泉谷と同じ過去の五輪でも金メダル相当の日本記録を持つ村竹ラシッド(22、JAL)など、そのレベルは世界トップも狙える位置にまで成長を遂げている。

パリ五輪代表を決する日本選手権では、残り2枠の代表権をかけ、これまでにない熾烈な戦いが予想される。そんな大一番まで3週間と迫る中、日本ハードル界に新星が誕生した。

2日に鳥取で「布勢スプリント」が行われ、注目の村竹は直前のウォーミングアップ中に脚の違和感が起こり、日本選手権を見据え大事をとって棄権。その村竹のいない舞台で輝いたのが、順天堂大学3年の阿部竜希(20)だ。

予選では、昨年のアジア大会で金メダルに輝き東京五輪代表の高山峻野(29、ゼンリン)と同組になったが、スタートで飛び出すとそのまま高山を寄せ付けず1着でフィニッシュ。13秒44の自己ベストで決勝に駒を進めた。レース後、高山は「安部選手のスタートが早くて、焦って自分のレースが崩れてしまった。完敗です」と世界陸上に3大会も出場してきた歴戦の高山でさえ、阿部のスピードに舌を巻いた。

約3時間半後に行われた決勝では、1台目のハードルで脚をぶつけると、そのまま4台目まで足を引っかけた。決してベストパフォーマンスではなかったものの、またしても自己ベストの13秒35をマーク。この記録は、パリ五輪参加標準にあと100分の8秒に迫る好タイム。日本人トップの3位ながら「参加標準を狙いに来たので、正直悔しい気持ちが大きい。3台目あたりまでぶつけていなかったら、タイムも出ていたと思う」と悔やんだ。

実は阿部、泉谷と村竹の大学の後輩にあたり、村竹とは2学年の差。偉大な先輩たちの背中を間近で見て、日頃トレーニングを積んでいる。泉谷と村竹の指導者で、阿部も順天堂大学で教えている山崎一彦氏(日本陸連強化委員長)は、「泉谷や村竹の背中を見て、いい目標になっていると思う。191㎝と高身長な割にスプリント力があるところが武器。スプリントは昨年から地道に練習してきた成果だと思う。今日は、13秒2台あたりまで出せると思っていた分、前半ハードルに脚をかけたのは痛かったが、まだまだ成長途上。ハードリング技術は、いま直している最中で試合に向けて仕上げる練習はしていない。性格は謙虚で、高校時代で活躍した選手ではない分、貪欲さがある。本当にこれからが楽しみな選手です」と評価する。

「最初は憧れでしかなかったが、最近は泉谷さんと村竹さんが目標になった。先輩二人が日の丸をつけて、僕がつけない訳にはいかない。残る枠は僕が勝ち取りたい」

6月末に迫る日本選手権、弱冠二十歳のハードラーが世界に羽ばたく―。

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