5月26日に千秋楽を迎えた大相撲夏場所(東京・国技館)は、新小結の大の里が12勝3敗で初優勝した。ちょうど1年前の昨年夏場所の初土俵以来、所要7場所での賜杯獲得。学生相撲などの実績のある幕下付け出し資格者では、同じ石川県出身の元横綱輪島の15場所を更新した最短記録になる。優勝制度が出来た1909年以来、もちろん前相撲から取る力士を含めて最速だった。
 
大の里の地力、将来性は申し分ない。けがさえなければ、早ければ年内にも大関、来年には綱まで締めているかもしれない。3月の春場所で110年ぶりの新入幕優勝を果たした尊富士らを含めて、新しいスターの誕生はファンにはたまらない喜びだ。
 
だが、まだ大イチョウも結えない「ちょんまげ力士」の2場所連続優勝は、これまで角界を支えてきた番付社会の崩壊でもある。今場所は横綱照ノ富士を始め、大関は貴景勝と霧島の2人、役力士では若元春も途中休場(若元春は3休、1不戦敗で再出場)。3年ぶりに三役に復帰した朝乃山は全休。地力のある元大関の高安も途中で6日間(5休、1不戦敗)休んだ。皆勤した琴桜、豊翔龍の両大関も単独首位には一度もなれなかった。 千秋楽に大の里の優勝が決まる前の段階で、象徴的な出来事があった。

昼間、恒例の三賞選考委員会が国技館内で開かれたが、その席上、日本相撲協会から提案された殊勲賞の候補者は、「三役以下で優勝した力士」だった。夏場所は14日目を終えて大の里以外に優勝の可能性を残していたのが大関の琴桜、豊昇龍と関脇・阿炎、前頭筆頭の大栄翔。このうち2大関を除く3人が対象になった。
 
しかし、通常ならば、殊勲賞は横綱を倒し、勝ち越した力士が対象となることが多い。夏場所は初日に大の里が照ノ富士を破っている。大の里1人を候補者にしてすんなり決まっていてもなんら不思議はない。以前は横綱を倒すと「殊勲の勝ち星」と言われてきたが、休場続きの照ノ富士ではそれに値しないことを相撲協会自体が認めてしまっていたのだ。

結果的には優勝した大の里が、元々決まっていた技能賞と合わせて二つを受賞したから、形は整った。場所中、古参の親方が耳打ちしてくれた。「若い力が出てきたのは嬉しいが、ちょっとは番付の力を見せないと格好がつかない。照ノ富士も昇進して17場所目で10度目の休場か。横綱としてそれでよいのか。霧島は名古屋場所では大関から転落するが、貴景勝も番付を下げた方が気持ちは楽かもしれない」
 
大の里に尊富士、昨年から入って熱海富士も力をつけてきている。若い力に看板力士が敗れても、もう「番狂わせ」という言葉は当てはまらないかもしれない。世代交代の波は確実に迫ってきている。(竹園隆浩/スポーツライター)

※写真は大相撲夏場所で初優勝し、賜杯を手に万歳する大の里(東京・両国国技館)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。