世界中のゲーマーの中で高い知名度を誇るBethesda SoftworksのRPGシリーズを実写ドラマ化した,「フォールアウト」がAmazonプライム会員向けに4月11日から公開され,人気を博している。すでに第2シーズンについても言及されており,今後はフランチャイズの大きな柱の1つとなっていきそうな気配だ。今回は,そんなドラマシリーズについてまとめておきたい。


高い評価を得た人気ゲームのドラマ版


 本連載の読者なら「Fallout」の名を知らない人はいないだろうが,4月11日からAmazonプライム会員向けに配信されている実写ドラマシリーズ「フォールアウト」で,その設定などを知ったという人はいるかもしれない。核戦争後に地下生活を送っていた“ヴォルト33”の居住者である“ルーシー”の地上での旅路に,“ブラザーフッド・オブ・スティール”(BoS)の下級兵士マキシマス,そして元映画俳優ながらも“グール”と化して生き永らえている賞金稼ぎのクーパーの人生が交差していくというストーリーで,Falloutフランチャイズの設定やイースターエッグを織り交ぜながら,南カリフォルニア海岸部を舞台にしたオリジナルストーリーが描かれている。


 現在,アメリカのドラマ/映画評価サイトであるRotten Tomatoesで,「フォールアウト」は93%の高評価を得ており,ファイナルエピソード公開後も99%(視聴者評価91%)を維持している「SHOGUN 将軍」には及ばないものの,視聴者評価も89%という高さを誇る。ドラマ「フォールアウト」は,2021年のアニメドラマ「Arcane: League of Legends」(100%/96%),2023年の「THE LAST OF US」(96%/89%)に続き,ゲームIPをドラマ化したコンテンツとしては大成功の部類に入るだろう。

 ドラマの公開に合わせて,ゲームのプレイヤー数は跳ね上がり,Steam DBの情報によるとドラマ配信前は2万人程度だった平均プレイヤー数が5倍となる10万人を突破。4月15日には「Fallout 76」のピークアクセス者数が4万人に達しただけでなく,「Fallout Shelter」もドラマとのタイアップによりプレイヤー数を増加させているという。

 「Fallout」シリーズの世界観は,現実とかなり似ているものの,パラレルワールドとして続いている仮想の地球史をベースにしている。大きな事件としては1969年にアメリカが13の“コモンウェルス”に分断されたアメリカ連邦(USSA)に政治体制を変化させたことがあげられ,そこから歴史は大きくずれていくことになった。ドラマにも出てくるように,ブラウン管のディスプレイで映像技術の進化が止まっている一方,レーザーやロボット技術が発展しているのも,こうした歴史の分岐が影響しているのだ。

まだまだ根強い人気を誇る「Fallout 4」だが,ドラマを見たあとで久々に起動してみようと考えたファンも多いようだ。ドラマ中のさまざまなイースターエッグや,ゲーム中で詳しく語られないプロットへのこだわりも感じるだろうが,新生ドッグミート(CX404)も隠れた主役の一人(一匹)である

 そんな歴史の流れについては,「Fallout 4」が発売される直前となる2015年11月9日に掲載した「第478回:『Fallout 4』発売記念。Fallout版『世界の歴史』」で年表風に詳しく紹介したことがあるが,ドラマシリーズにも登場する数々の専門用語や組織の成り立ちなどについては,今も参考になるかもしれない。

 ドラマ「フォールアウト」の時代設定は,2077年に発生した核戦争から219年後,2296年を背景にしたものだ。これは,2281年のラスベガスを舞台にした「Fallout: New Vegas」や,2287年のアメリカ北東部を舞台にした「Fallout 4」よりもさらに未来を描いている。南カリフォルニアで地域レベルの政治力を発揮しつつあった“新カリフォルニア共和国”(NCR)は,2186年の建国から100年以上を経ているが,ゲームのファンであればドラマでは最初の首都“シェイディサンズ”がどのように描かれているのかが気になるところだろう。

 さらにはマーケット(Super Duper Mart)やガソリンスタンド(Red Rocket),フュージョンコアに二頭牛の“ブラーミン”,ヴォルトボーイやスーパーミュータントの起源,そしてクーパーの回想シーンで「家政夫ロボットのために声の使用権を売ったけどな」と会話している友人役が実際にMr.ハンディの声優であることまで,ドラマの描写にはゲームシリーズとのつながりがあることにニヤリと感じるゲーマーは多いのではないだろうか。

日本語吹き替え版では沢城みゆきさんが演じているルーシー・マクレーン役を務めるエラ・パーネルさんといえば,ゲーマーにとっては「League of Legends」のジンクスの声優としても知られる。ヴォルトスーツが高級な質感だが,北イタリアの工房で少量生産される特殊素材を使っているらしい


ドラマ版の作られる過程と今後,そしてゲームの新作は?


 ドラマ「フォールアウト」の企画は,「Fallout 3」がリリースされた2008年以降,何度も持ち上がったが,エクゼクティブ・プロデューサーのトッド・ハワード(Todd Howard)氏らBethesda Softworksの幹部たちは,その都度拒絶してきたという。ゲームを原作とする映画やドラマのクオリティが上がってきたのは最近のことであり,彼らも気軽にライセンスを与えてB級レベルの映画やドラマになってしまえば,フランチャイズの価値を落とす結果になると憂慮したわけだ。

「Fallout 4」がリリースされてからはや8年半。「Fallout 76」からも5年半ほどが経過する。そろそろスピンオフ作品でも出してほしいというファンの心は報われるだろうか……。画像は「Fallout: New Vegas」のアートワーク。新カリフォルニア共和国の旗が翻る

ドラマではそれほど多くのシーンがなかったが,BoSの要塞セットはかなりの規模だったようだ。写真右はBethesda Softworksのトッド・ハワード氏(公式Xより転載)
 その潮目が変わったのが,プロデューサーであり脚本家や映画監督としても活動するジョナサン・ノーラン(Jonathan Nolan)氏が,2016年ごろにBethesda Softworksにアプローチしてきたことだ。海外メディアGameSpotの記事によると,ノーラン氏は「TVドラマシリーズは実質的な“Fallout第5弾”として,次のステップのための穴を埋めるためのもの」と諭したという。

 ちなみにノーラン氏は,世界的にも著名なクリストファー・ノーラン氏の弟であり,共に「ダークナイト」シリーズなどを手掛けている。ジョナサン・ノーラン氏はゲームにも詳しいそうで,最初の電話でみせた彼の知識にトッド・ハワード氏は感銘を受けたらしい。ジョナサン・ノーラン氏は,盟友であるリサ・ジョイ(Lisa Joy)氏とともに製作するドラマシリーズ「ウエストワールド」が好評となっており,ハワード氏も注目していたと上記の記事で語られている。

 そうしてAmazon Studios(後にAmazon MGM Studiosに改称)がドラマ制作をアナウンスしたのが2020年7月のことだ。2022年1月には実質的なクリエイティブとビジネスの双方を束ねるための,アメリカのTV界では“ショーランナー”と呼ばれるエクゼクティブ・プロデューサーとして,ジェニヴァ・ロバートソン・ドゥウォレット(Geneva Robertson-Dworet)氏グラハム・ワグナー(Graham Wagner)氏が加えられることが発表された。

 さらに2月にはクーパー役にウォルトン・ゴギンズ(Walton Goggins)さんが,3月にはルーシー役のエラ・パーネル(Ella Purnell)さん,そして6月にはマキシマスを演じるアーロン・モーテン(Aaron Moten)さんが選ばれたことがアナウンスされてクランクインし,ユタ州やニューヨーク州などで撮影開始。シェイディサンズ周辺の背景シーンは,ナミビア南部の“砂漠に飲まれたゴーストタウン”として知られるコールマンスコップで撮影が行われている。

 そうして2024年4月11日に全8エピソードが一機にリリースされた「フォールアウト」だが,AmazonのPrime Video部門は配信の1週間後に公式Xでシーズン2の契約更新をアナウンスしている。

ルート66の看板が思わせぶりなシーズン 2のアートワーク。シリーズファンなら,ニューベガスを牛耳るMr.ハウスがドラマに登場していたのに気づいたかもしれない

 その撮影にあたっては,カリフォルニア州との2500万ドルの租税免除を調印しており,例えばロサンゼルスとラスベガスの中間地点にある砂漠地帯などで撮影が行われるのかも知れない。公開されている新シーズンのアートワークには,ロサンゼルス(サンタモニカ)からイリノイ州のシカゴまで全長3755?を結ぶ旧国道「ルート66」の看板が添えられていることからも,シーズン1で解決していない問題を追っての3人の主人公によるロードムービー的な内容になることは想像できそうだ。

 Bethesda Softworksにとっては,2018年にアナウンスした「The Elder Scrolls IV」が次のパイプラインにあるため,「Fallout 5」の開発が始まるのはまだまだ先のことと思われる。しかし,同社の親会社となったMicrosoft Game Studiosといえば,2010年に「Fallout: New Vegas」を開発したObsidian Entertainmentも買収しており,そのゲームディレクターだったジョシュ・ソイヤー(Josh Sawyer)氏は,2022年に「Pentiment」をリリースして以降,現在どんな新作に取り掛かっているのかはっきりしない。

 という背景からも,「Fallout: New Vegas 2がドラマの第2シーズンの舞台と絡んで開発中なのでは?」という期待やウワサも再燃しているようだが,果たしてどうなるのだろうか。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。

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