下記の記事は,GAMEVU(→リンク)に掲載された記事を,許可を得て翻訳したものです。可能な限りオリジナルのまま翻訳することに注力していますが,一部日本の読者の理解を深めるために,注釈を入れたり,本文や画面写真を追加したり変更したりしている箇所もあります。(→元記事)

 韓国のゲーム利用者を保護するための「確率型アイテム情報公開義務化制度」が,施行から1か月を迎えた。

 韓国政府は,ゲーム産業振興に関する法律第33条第2項及び同法施行令第19条第2項による,確率型アイテム情報公開義務化制度を,2024年3月22日から施行させている。
 実は過去にも,このような内容を盛り込んだ法案が発議されたことはあった。以前から,確率型アイテムに対する利用者の不信感は以前からずっとあったからだ。「確率」は得てして勘違いされがちだが(ぜひ以下の記事をお読みいただきたい),だからといって本当にメーカーが不正をしていないのかという疑惑は拭えないし,良くも悪くも,誰もそれを証明できない。

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[2016/03/10 00:00]
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  • ライター:宮里圭介

公開内容やその様式などを細かく定め,2024年2月に文化体育観光部より「確率型アイテムの確率情報公開に関するガイドライン」が配布されている。かなりキチンとしたルールになっているので一見の価値あり


 最初の試みは第19代国会時代の2015年のことだったが,法案に一部問題があり,国会の会期終了により自動廃棄された。第20代国会が開かれた2016年にも関連法案が提出されたが,施行まで至らず,やはり国会終了で自動廃棄された。

韓国ゲーム政策自律機構(GSOK)
 しかし業界の自発的な確率情報公開は,この頃から始まっている。2015年,韓国ゲーム産業協会と韓国ゲーム政策自律機構(GSOK)は「確率型アイテム自律規制」を新設し,確率の公開と遵守の有無を監視してきた。その後も,既存の内容を強化した自律規制規範を作って施行してきたが,違反に対する処罰基準がないことが問題だとずっと指摘されていた。

 しかし2018年には公正取引委員会が,確率型アイテムに関連して電子商取引法違反で過料および課徴金を課し,その後も業界には様々な確率型アイテムの問題が発生した。それもあってか,確率公開義務化に向けた雰囲気が自然と高まっていき,2020年12月には関連内容を盛り込んだ改正案が発議された。その後2年間の補完を経て,2023年2月に国会本会議を通過,そして1年後の3月から施行されたという次第だ。

GSOKは,ゲームの確率公開の有無について巡回調査し,規定事項を3回以上遵守していないゲーム名の公表を行っている。画像は2024年1月に公表の,2023年12月の未遵守ゲームリスト(GSOKより) 見ると分かるのだが,罰則がないため「APEX Legend」や「Dota2」はひたすらスルーを決め込んでおり,23回もその名を挙げられている

※編注:2018年4月に韓国公正取引委員会は,ネクソンコリア,ネットマーブルゲームズ,NHN Entertainmentの3社に,合計10億ウォン(約1.1億円)を超える過怠料と課徴金を賦課した(韓国公正取引委員会関連発表)

 法の施行によりゲームサービス事業者は,確率型アイテムを取り扱うゲームがある場合,必ずユーザーが分かりやすいようにゲーム内またはホームページに具体的な情報を表示しなければならず,広告にも確率型アイテムが含まれているという文言を挿入しなければならない。「確率型アイテム」の対象は,有料で購入するアイテムのうち,具体的な種類と効果,性能などが偶然の要素で決定されるものすべてである。

英語版の資料も発見したのでキャプチャを掲載しておくが,まるで攻略本のアイテム紹介ページのような詳細データ。ここまで詳細を公開しなくてはならず,透明化が徹底されている

 もしそれを遵守しない場合,1次摘発時にゲーム物管理委員会から是正要請を受けることになり,その後,文化体育観光部が是正勧告や是正命令を行う。それでも是正されない場合,ゲーム産業法第45条により,2年以下の懲役または2千万ウォン(約222万円)以下の罰金刑に処せられる。

※編注:ゲーム物管理委員会(Game Rating and Administration Committee,GRAC)は,韓国国内のゲームコンテンツの審査,分類を行う政府機関。レーティング業務の部分については日本のCEROに相当するものだが,GRACは韓国2013年「ゲーム産業振興に関する法律」に基いており,ゲーム事業者はGRACの決定に従う義務があるため,CEROとは違ってキチンと法的拘束力がある

 施行後の調査で,韓国の事業者は積極的に法律を遵守していることが分かった。中でもNexonは,確率公開において最も模範的な行いを見せているとされている。

すべてのデータ数値の公表に加え,「公表値」と「実際の確率」のダッシュボードもある(1時間に1回更新とのこと)。どこかのデータアナリティクスシステムに入ったかと思わせる充実ぶりの「Nexon Now」。むろん若干のブレはあるが,公表値にちゃんと近づいて収束していく様子は大変興味深い。日本のメーカーさんも,ぜひ同じものを公表してほしい
 実はNexonは,自律的確率公開の施行前である2010年から2021年まで発生した確率問題で,つい先日の2024年1月,公正取引委員会から115億ウォン(約12億8千万円)の課徴金処分を受けている。
 そこでNexonは,2021年にリアルタイム確率モニタリングシステムである「Nexon Now」を一部のゲームに導入したが,その適用ゲームをさらに拡大していく予定だ。ゲームの核心的な収益源であるゲーム内マネーの販売を中止したり,Pay to Winシステムや確率型アイテム,確率型強化がないビジネスモデルを新作に適用したりして,信頼をキチンと回復している。


 Netmarbleも,サービス中のゲームの公式ホームページを通じて,実際のゲームサーバーに保存されている確率に連動して情報を公開している。さらに,一部のゲームは以前の確率情報も公開し,変化を確認できるようにした。 またほとんどのゲーム会社は,ゲーム内の別のページや公式ホームページを通じて,確率情報をいつでも確認できるようにしている。

 しかし逆に,一部の企業では問題が発生することもある。事前に自主的に公開していた確率を,法施行前後で独自に検討する過程で,誤って告知されたことが把握されたからだ。


グラビティ「ラグナロクオンライン」


 グラビティ(Gravity)のMMORPG 「ラグナロクオンライン」は,法施行前だった3月20日の告知を通じて,ゲーム内の情報とホームページの情報で,一部のアイテムの獲得確率が一致しない部分を発見したと明らかにした。しかし,その“一致しない部分”は約200件に達しており,確率差は最大8倍にもなっていたのだ。
 これに対してグラビティ側は,4月8日の告知を通じて「期間内に関連アイテムを購入した利用者に対してキャッシュを支給することにした」という補償案を公開した(被害補償は大変素早く,4月11日に行われている)。

0.8%と公表されていた一部のアイテムだが,実際の排出確率が0.1%だったのだ


Webzen「MU:アークエンジェル」


 WebzenのモバイルMMORPG「MU:アークエンジェル」は,コンテンツ内の特定のアイテムの獲得可能及び確定獲得回数に対する確率が,案内されたものと実際のゲーム内の確率で異なっていることが,3月21日に明らかにされた。特に特定アイテムの場合においては,確率が公表値の0.25%ではなく,「最初の149回の確率が0だった」という衝撃的な内容が公開された。
 Webzenは,該当アイテムを購入した利用者を対象に,購入した商品の回収作業をすることなく,払い戻し基準に基づいてゲーム内キャッシュおよび現金の支給を行うと明らかにした。さらに,全ユーザーを対象に別途補償を行う計画だ。

「MU:アークエンジェル」の場合は,ガチャを引いた回数に連れて確率が変わっていることが分かった


Wemade「NIGHT CROWS」


 WemadeのMMORPG「NIGHT CROWS」は,特定のアイテム1種について,案内された確率と実際のゲーム内の確率に差があることを確認し,3月29日のお知らせを通じて関連内容を公開した。確率型アイテムに対するウェブサイト内の確率情報登録時のミスによるもので,一部のアイテムは,既存の案内より高くあるいは低く表記されたと明らかにし,謝罪して修正した。補償案は執筆時点でまだ公開されていない。「実際は公表値より高いものもあった」という珍しいパターンだ。



KRAFTON「PUBG:BATTLEGROUNDS」


 KRAFTONの「PUBG:BATTLEGROUNDS」でも,アイテム告知にミスが確認された事例があった。このゲームでは,購入またはプレイで獲得したスキンアイテムを,製作所内の加工システムを通じて合成することによって,ほかのスキンアイテムを得ることができる。その内容と確率が,3月22日にお知らせとして登録された。
 しかしデータ抽出過程の設定ミスにより,加工システムで獲得できないアイテム31種が含まれ,それらが「お知らせ」に登録されていたことが4月9日に確認され,修正された(その結果,実際のアイテム獲得確率は上昇することになった)。

 またKRAFTON側は,告知から修正前までの加工システム利用者を対象に使用図案を再配布し,追加報酬の支給とともに獲得アイテムの回収も行わなかった。今後は,確率やアイテムリストの自動公開システムを適用する計画である。


 KRAFTONのように「告知でミスをした」というのは,厳密に言えば会社の責任でしかないが,だからといって会社だけに責任を押しつけることはできないという業界内の意見もある。情報公開義務化の基準となる具体的なガイドラインは,2024年2月19日に発表された。そして猶予期間もなく1か月ですぐ施行されたので,企業は超突貫で関連業務を進めなければならなかったという事情があるのだ。

 しかし結局のところ,肝心なのは「確率に対する信頼」だ。会社が作ったゲームの確率に対する信頼があってこそ,利用者はゲームをプレイし,商品を購入してガチャを回すからだ。例え単純なミスであっても,利用者の信頼を損なう状況が発生すれば,会社はこれまで以上に積極的に信頼回復に取り組まなければならない状況になったといえる。
 そしてそれとともに,韓国ゲーム市場のビジネスモデルの変化も,自然に行われていくことになるだろう。(著者:パク・サンボム,ザン・ヨングォン)

昔からのオンラインゲーム大国であり,確実な進化と進歩を重ねている韓国ゲーム業界が,今度どのような方向に進んでいくのか興味深い

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