日本企業は、「消えない問題」を消そうと無理な努力をしていないでしょうか?(写真:Luce/PIXTA)「うちの会社はどうしてこうなのか」「弊社にはイノベーションがない」「グローバルスタンダードに後れを取るわけにはいかない」これらは、組織で働く人であれば、何度も見聞きし、解決を図ろうとする問いではないでしょうか。この問いに正しく向き合い、解くためには、「実戦で使える」戦略論が必要だと、神戸大学の三品教授は述べます。30年以上にわたり、日本企業の戦略を考えてきた三品教授が、これから日本企業の舵取りをするビジネスパーソンに伝えたかったこととは。700ページに及ぶ著書『実戦のための経営戦略論』から紹介します。

組織論では組織の問題は解けない

働く人の関心は、組織論に向かいがちです。

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起きている時間の過半を職場で過ごし、そこで喜怒哀楽を味わい、懐具合まで決まるとなれば、無理もありません。

しかし、マネジメントの原義は「かろうじて何とかする」、意訳すれば「だましだまし、その場を繕う」ですから、職場に問題が山積することは前提となっています。

解くべき問題が絶えないので組織論は栄えますが、解くべき問題がいつまでも残るのは、半永久的に解けないからです。

戦略論は真逆です。2.0の視力で見ているかのように職場の内側で起きていることが見えている人も、職場の外側で起きていることとなると、0.2の視力程度にしか見えていない。

となると社員は戦略を身近に感じることもなければ、関心すら抱かないのではないでしょうか。しかし、戦略の問題は解くことが可能です。

そして、ヒトの働きを効率よく稼ぎに換えると、組織論やモチベーションの問題が雲散霧消することも珍しくありません。

(出所)三品和広『実戦のための経営戦略論』

欲しいのはイノベーション?

戦略論は、リーディングエッジに引きずられがちです。

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本書執筆時の2023年で言えば、さしずめ猫も杓子もイノベーション、プラットフォーム、サブスクリプションといったところでしょうか。

こうした情景は、「いったん金槌を手にすると、目に飛び込んでくるものは何でも釘に見えてしまい、思わず打ち付けたくなる」という笑い話を彷彿とさせます。

たとえばイノベーションは、再現性に乏しいうえ、売上高を一時的に引き上げて終わりです。他社による模倣が相次ぐなかで成長を長らえ、利益を確保するには、何か他の手段がいります。

端的に言うなら、それが戦略です。この本は、リーディングエッジとは何の縁もない凡庸な事業や企業に役立つオーソドックスな戦略論を展開していきます。

倣うべきはグローバルスタンダード?

 ベルリンの壁が1989年秋に崩壊して以来、世界経済の一体化が大きく進展しました。そこから、何でもグローバルスタンダードに倣えという掛け声が飛び交うようになっています。

マネジメントのプラクティスも、経営の戦略も、例外ではありません。

スタンダードを主導するのは、アメリカ、EU、そして中国です。ほかはいざ知らず、経営戦略で彼らに追随すると、日本のような小国には自殺行為となってしまいます。

規模を背景とする強者の戦略に対して、弱者の戦略は区別して考える必要があるのです。そこに、「グローバルスタンダード」とは異なる新たな戦略論を興すスペースが横たわっています。

戦略のための独習のすすめ

本書は、自社の問題を解きたいと願う実務家に向けた独習用の教科書です。

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戦略の教科書は何冊も出ていますが、20代の学生に向けたものばかりなので、類書は1冊たりと見当たりません。

経営者の経験談は面白くても体系的ではないため、応用が利かないところに難があります。

コンサルタントの指南書もテーマ別に断片を切り出してくるので、「これも戦略、あれも戦略」となりがちです。

全体を効率よく俯瞰しようと思えば、体系的な座学に勝るものはありません。

この本は、将棋用語で言うところの「手(選択肢)」の広さに戦略の難しさがあることを認識したうえで、「これが戦略」という全体像を論じ切ります。

独習を勧めるのは、1 人で考え抜く習慣を身につけるためです。

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経営者になると、自分の思考の一部を漏らすだけで周囲が右往左往するため、安易に相談などできません。経営者の候補生は、1人で考える癖を身につけるべきでしょう。

 

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