原子力発電所から出た高レベルの放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」。いま北海道の自治体で最終処分場の候補地選定に向けたプロセスが進んでいる。この問題と向き合っているのが福島出身の学生たち。きっかけの一つになったのが50年前の校内新聞だった。

<福島出身の大学生が最終処分場候補地を訪問>
2人の大学生がこの日北海道を訪れた。福島県の大熊町出身の坂本拓海さんと郡山市出身の武田隼輔さん。向かったのは新千歳空港から車で約2時間30分、北海道西部に位置する神恵内村だ。
大熊町出身の大学生・坂本拓海さんは「地元住民の方々の視点が知れたらなっていうふうに思います」と話す。
人口約740人の小さい村と福島出身の大学生を結びつけたのは50年前の“新聞”だった。郡山市出身の大学生・武田隼輔さんは「昔からここに書いてある通り、放射性廃棄物の問題や、今も通じる問題が問われているところで、改めて50年後、高校生と大学生がこの問題に取り組んで、自分たちでこういう問題を発信していこうと、いま新聞づくりに取り組んでいます」と話す。

<きっかけは50年前の校内新聞>
2023年10月、見つかった昭和48年の「双高新聞」。福島第一原発が立地する双葉町の高校生が制作した双葉高校の校内新聞だ。
新聞記事の『原子力発電の安全性を問う』という原発の安全性に疑問を投げかける紙面には、原発から出た高レベルの放射性廃棄物いわゆる「核のごみ」の行き場に注目した記事もある。
『いかにして安全が確保され、安全に人間環境から隔離して処分を行うか』という記事、それは50年後を生きる私たちにも問われている未解決の課題だ。核のごみの最終処分場について、国は地下300メートル以上の深い場所に「地層処分」することを法律で定めているが、まだ設置場所が決まっていないためだ。

<最終処分場選定の調査>
2024年11月、報告書が原子力発電環境整備機構(NUMO)から手渡された。「文献調査」だ。
核のごみの最終処分場選定に向けた“第一段階”にあたるもので、全国で初めて神恵内村と北海道の寿都町で実施。4年間の調査の結果、神恵内村は南側の一部、寿都町は全域が、地質のボーリングなどを行う“第二段階”にあたる「概要調査」に進むことができる候補地とされた。

<覚悟が必要>
神恵内村・高橋昌幸村長は「首長ってさ、市町村長ってさ、こういう問題ね、本当に首を懸けてやらないといけない。進退をかけて。それくらいの覚悟でやらないとね」と話す。高橋村長は福島出身の大学生、坂本さんと武田さんの疑問に応えてくれた。

武田隼輔さん:「なぜ最終的に文献調査を実施するという判断に至ったのか」
神恵内村・高橋昌幸村長:「商工会から出た請願が議会で採択された、これは大きいですよね。議会の意思が示されたこと。首長としては、それを重く受け止めなければならないですよね。だけど僕も賛成だったから。やるべきだと思ってたから。何も戸惑いはなかったですね。反対する人ももちろん神恵内村にいるんだけど、少数だね、今のところ」

<「理解すること」が大切>
「核のごみ」の受け入れについて、神恵内村の住民からも話を聞いた。
民宿きのえ荘女将の池本美紀さんは「その中で神恵内もってなったから『え!神恵内も!?』って最初は思ったし。だけど一番最初に思ったのは、神恵内は絶対分断させないって思った」と話す。村内で民宿を営む池本美紀さん。これまで20回にわたって開催されてきた「対話の場」などを通じ、「賛成」「反対」の前に、「理解すること」の大切さを感じた一人だ。
池本さんは「地層処分が一番好ましいっていう国際ルールが決まってる、そこが覆らないんだったら、みんな覚悟して調査するべきって思ってる。もう『決断』と『覚悟』最後は。それ言ったら『お前は賛成なのか』とかってなるけど、でもそうじゃないんだよ。賛成・反対とかそういう考えじゃないんだよ。そこを超えていかなきゃ、みんな、って思う」

<選定プロセスは問題を考え続ける時間>
第一段階の文献調査から「20年程度」かかるとされる最終処分地を決める選定プロセス。それは50年前の校内新聞も投げかけていた「核のごみ」の問題をこれからも考え続ける時間でもある。

大学生の坂本拓海さんは「『覚悟』というのが今回のキーワードだなとすごい思いました。課題を解決する中で、先駆けていくんだという強い意志を持って、村民の分断を起こさないようにっていうところを考えて行動していたなというふうに感じました」と話した。
武田隼輔さんは「これからもうちょっと全国で理解が広がって、関心が広がってより多くの自治体が興味を持ってもらえる、多くの国民が興味を持ってもらえる環境をつくっていくっていうことが、この問題の解決を進めていく上で必須だなっていう」と話した。

2人は今後、仲間たちと一緒に神恵内村で聞いた話や感じたことなどを新聞にまとめ、核のごみの問題を福島から広く発信していく。

<国の新エネルギー基本計画素案>
12月18日、国のエネルギー政策の方向性を示す「基本計画」の新たな案が示されたが、2011年の原発事故後、一貫して盛り込まれてきた「原発への依存度を可能な限り低減する」との文言が削除された。
福島県民は原発事故を経験したからこそ、原発のリスクを身にしみて感じているわけだが一方で、電力の安定供給が私たちの日常に欠かせないことも痛いほど感じている。
「賛成」「反対」だけではなく「問題自体を理解しようとすること」が大切かもしれない。

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