一時1ドル=157円台を付けた円相場を示すモニター(19日午後、東京都港区の外為どっとコム)=共同

米連邦準備理事会(FRB)が2025年の利下げペースを鈍化させる見通しを示し、19日の外国為替市場でドルが主要通貨に対して2年ぶりの水準まで上昇した。一方、日銀の植田和男総裁の発言から日米間の金利差はすぐには縮小しないとの見方が出て円相場は一時、1ドル=157円台と5カ月ぶりの安値水準に下落した。

【関連記事】

  • ・日銀総裁、追加利上げへ賃上げ情報「もう1段ほしい」
  • ・FRB、金利0.25%下げ決定 来年利下げは2回に半減

「新たな段階に入った」。FRBのパウエル議長は記者会見で金融政策運営についてこう述べた。「経済と労働市場が堅調である限り、さらなる利下げについては慎重に検討する」と説明した。

利下げを急がない理由の一つに「トランプ・リスク」がある。米議会予算局(CBO)は18日、トランプ次期米大統領が公約に掲げた中国製品への60%の関税と、そのほかの国・地域への一律10%の関税が実現した場合の試算を公表した。

FRBがもっとも重視する米個人消費支出(PCE)物価指数の前年比上昇率は26年までに1.0%押し上げられるという。

FOMC参加者は今回の経済見通しで25年10〜12月の前年同期比上昇率を2.5%とした。前回見通しから上方修正した。トランプ関税が現実になれば、物価高が長期化するリスクが高まる。

パウエル氏は「米国経済は世界の主要国よりもはるかに良好な状態だ」と発言したほか、「景気後退が通常よりも起こりやすいと考える理由はないと思う」とも言及した。

主要通貨に対するドルの強さを示す「ドル指数」は108台と22年11月以来およそ2年ぶりの高水準を付けた。19日の外国為替市場では幅広い通貨に対してドルが買われた。韓国ウォンは一時、リーマン・ショック直後の09年以来の安値を付けた。

日銀の植田総裁が午後3時半からの記者会見で「利上げ判断に至るには、もう1ノッチ(段階)ほしい」と発言し、利上げにまだハードルが残っているとの見方から円安が進行した。

米利下げペースが市場が見込んでいたよりも遅くなるのに加え、日銀の利上げ開始が遅れれば金利差の縮小ペースも遅くなる。このため、引き続き円売り・ドル買いで金利差収益を狙いやすい環境は続くとの声が多い。

日銀は経済・物価が想定通りに推移すればそれだけで利上げできるとの考えを持っている。25年も24年のように年2回のペースで利上げを進め、利上げ幅を1回あたり0.25%と仮定すると、25年中に0.75%に達することになる。過去30年にわたって政策金利の最高水準は0.5%だった。

植田総裁は19日の会見で「0.5%という水準に意識は持っていない」と言明しつつ、「(景気を熱しも冷ましもしない)中立金利に近づくほど影響をいっそう注意深く見ていかなくてはならない段階に入る」とも述べた。

市場では25年もおおむね1ドル=150円を中心とした水準が続くとの見方が多い。みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストは「25年度は日米金利差の縮小に伴う円高・ドル安という展開は見込みづらくなる」と話す。

25年末に1ドル=143円程度を予想する三井住友銀行の鈴木浩史チーフ・為替ストラテジストも「130円台まで円高・ドル安が進むには、日銀の利上げペース加速など一段の円買い要因が必要になる」とみる。

日銀が24年7月に追加利上げを判断した際には、それまでの円安に伴って物価の上振れリスクが高まっていることが理由の一つだった。為替が日銀の判断に及ぼす影響は25年も続きそうだ。

(ワシントン=高見浩輔、新井惇太郎、生田弦己)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。