東海道新幹線で新大阪から東京に向かう車中、進行方向右側(太平洋側)の車窓に富士山が見えることに気付いた。掛川を通過して数分、その付近で線路が少し内陸に入るためらしい。2025年大阪・関西万博の取材で機会が増えた新幹線移動のささやかな楽しみになりそうだ。
「(万博は)これからさまざまな課題が具体化し、山登りに例えると急峻(きゅうしゅん)なコースに入ってくる」。富士の尾根に目をやりながら、日本国際博覧会協会(万博協会)の石毛博行事務総長が4月初旬に、弊紙のインタビューに語った言葉を思い出した。
石毛氏の言葉通りになりそうだとさっそく予感せざるを得なかったのは、4月13日に取材した東京での万博開幕1年前のメインイベントだった。万博の不人気がいわれる中、機運を醸成する絶好機とみられたが、その中身は正直なところ肩透かしだった。
「万博成功へ先頭に立つ」としていた岸田文雄首相は外遊のためビデオであいさつ。8人のプロデューサーが各パビリオンの構想をPR動画を中心に数分ずつ語り、そこで初めて示されたアイデアも多少あったようだが、直接の取材機会は設けられておらず確認しようがなかった。
イベント前には、パビリオンを出展する企業の間では「さすがに開幕1年前だし、万博協会はしっかり盛り上げるはず」との期待も出ていた。会場では、動画で公式キャラクター「ミャクミャク」が初めて声を披露したが、メディア関係者からは「1年前の最大のサプライズがこれか…」との声も漏れた。
多忙な各界のトップを集め、1時間半の駆け足だったので仕方がないのかもしれないが、東京と大阪以外で他に目立つイベントもなかった。万博に参画する広告会社の関係者は「万博協会の厳しい懐事情もあるようだ。イベントが『安かろう、悪かろう』になっている」と指摘する。
機運醸成だけでなく、関連費の増額、海外パビリオンの準備遅れ、運営オペレーションなど、万博を巡る課題は山積だ。カネも時間も限られる中で困難な歩みは続くだろうが、開催による経済や文化的な効果を考えたとき、代わるプロジェクトもそう見当たらない。万博成功という〝頂上〟を国民にみせてほしい。
■井上浩平
平成26年入社。神戸総局を経て社会部で大阪府警、大阪府市の行政を取材し、令和3年10月から経済部。2025年大阪・関西万博や大阪の財界、金融などの取材を担当している。
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