Courtesy of lululemon
<急速な少子高齢化と人口減によって消費市場が縮小する日本だが、ウェルビーイングに着目すれば、新しいニーズも生まれている...。「ルルレモン ジャパン」社長に聞く>
ウェルネスブームの波と日本の課題
急速な少子高齢化が進む日本において、労働人口の減少と社会構造による経済の停滞は大きな課題になっている。その一方で、健康寿命を延ばし、生活の質を向上させる「ウェルネス市場」は急成長している。
2025年に約38兆円が見込まれるウェルネス市場は、2030年には約47兆円に達するという予測もある。高齢化が進む中、個人の健康志向が高まり、企業や自治体が積極的にウェルネスに関するプログラムを推進し、コミュニティレベルでの取り組みが進んでいるためだ。
このような社会的変化が日本のウェルネス市場の可能性を広げているが、同時に課題もある。それは多様な消費者ニーズに応えるための新たなイノベーションである。
そんな中、カナダ発のアスレチックブランド「ルルレモン(lululemon)」が日本市場での存在感を高めている。長年、ヨガウェアブランドとして知られてきた同社が、日本の社会的文脈にどう適応し、どのように挑んでいくのか。
ルルレモンが見る「日本型ウェルネス」の可能性
「日本は急速な少子高齢化に直面していますが、それは同時に、ウェルネスに関する市場の可能性が広がっていることを意味します。私たちは、ただ商品を売るのではなく、人々がより良い生活を送るための『プラットフォーム』を提供したいと考えています」
このように語るのは、スチュアート・テューダー(Stewart Tudor)日本法人社長だ。ルルレモンは、日本市場を単なる商品販売の場とはとらえていない。強調するのは、「ライフスタイル」と「コミュニティ」である。
日本では従来、健康に対する取り組みは医療やスポーツといった身体の文脈で語られることが多かった。しかし、ルルレモンが注目するのは、身体だけでなく精神的な幸福をも含む「ウェルビーイング(well-being)」の概念だ。
同社が発行する「2024グローバル・ウェルビーイング・レポート(2024 Global Wellbeing Report)」によると、「ウェルビーイング」とは、「身体的(Physical)」、「精神的(Mental)」、そして「社会的(Social)」に健康であることを指すという。
しかし、「ウェルビーイングでなくてはならない」という社会的なプレッシャーとSNSなどデジタル上でのつながりが逆に孤独感を生んでいることも、調査結果から判明したという。その解決策の1つとして、リアルなコミュニティで一緒に体を動かすことを挙げる。
「オリンピック選手のように競う必要はないのですから、汗をかいて、ただ一緒に楽しく体を動かせばいいのです。そのためのハブ(拠点)としての機能をルルレモンはこれからも果たしていくつもりです」と、テューダー氏。
少子高齢化が生む市場の変化と課題
日本では急速な少子高齢化と人口減によって消費市場が縮小する一方で、新しいニーズも生まれている。たとえば、働く高齢者の増加に伴い、動きやすく機能的でありながらもスタイリッシュなウェアへの需要が高まっている。
また、コロナ禍を経て、リモートワークやオンライン会議も定着。パソコンを日々持ち帰るためにリュックサックで通勤する光景は日常のものとなり、それに伴い動きやすい服装とそれに合う靴など、仕事におけるファッションにも変化が起きた。
そのため、アスレジャー(Athleisure)と呼ばれる機能性とファッション性を兼ね備えた、日常着に進化したスポーツウェアが人気で、スポーツブランド各社はアスレジャー製品に注力。近年、その市場は拡大を続けている。
中でも目覚ましいのはルルレモンで、2023年には前年同期比で20%近くの成長を遂げている。これまで「女性向けヨガウェア」としてのイメージが強かった同社が急成長を遂げているのは、ビジネスシーンでも着ることのできる男性向けウェアラインで、近年は男性顧客の増加が顕著だという。
多数の国内外ブランドがひしめく、アスレジャー分野での競争は激しいが、品質に厳しく、環境意識の高い消費者が多い日本は、むしろ同社にとっては強みになるとテューダー氏は自信をみせる。
「製品のクオリティには絶対的な自信があります。見た目が美しいだけでなく、長持ちするように製品を作っており、その結果、10年前、15年前の製品を今も着続けている人が少なくありません。この点は、環境意識が非常に高く、大量消費社会を見直し、1つのものをより長く使おうという機運が急速に高まっている日本社会で共感していただけるものと思っています」
日本のウェルネス市場に大きな可能性を見据え、日本社会におけるウェルビーイングの普及と向上を目指す同社だが、真の意味で「ウェルネス先進国」になれるかは日本社会のほうも同時に問われている。
企業と社会が協力して、持続可能なコミュニティを市民とともに築き上げていく――。グローバルな視点から社会的責任を果たしていく同社の姿勢は、今後、日本のウェルネス市場の発展と拡大にとって大きな参考となり、「日本型ウェルネス」の世界への発信にも重要な役割を果たしていくだろう。
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