損害保険各社が中途採用を急いでいる。東京海上日動火災保険と損害保険ジャパンは2025年度の中途採用人数を24年度の2倍以上に拡大する。三井住友海上火災保険は7割を中途が占める。新卒を一括採用する方式を転換し、組織風土の改革を図ろうとしている。
一つは営業部門や保険金支払部門など現場の強化だ。
東京海上日動は25年度の採用計画に占める中途の割合を3割まで引き上げる。24年度は1割程度(80人)にとどまっているが、200人規模へ一気に拡大する。
中途採用する200人は営業や保険金支払部門に配属する。同社は本人の同意がない転居を伴う転勤を撤廃し、26年度から本人の同意を得て異動を決める方式に変える。地方の社員が不足する恐れがあり、中でも地域限定で働く職種の中途採用を積極的に増やす。
損保ジャパンの25年度計画も4割にあたる200人を中途で採用する予定だ。24年度計画は70人で、3倍近くに増える計算だ。中でも地域限定職は前年度比2〜3倍をめざす。介護など家庭の事情でその地域を離れられない人や特定地域での勤務を希望する人のハードルを下げる。
あいおいニッセイ同和損害保険は25年度、営業などに配属する基幹系の職員を200人をめどに中途採用する計画だ。8割を営業などの現場に配属する。
中途採用で先行しているのは三井住友海上だ。
総合職の中途採用の実績によれば、21年度(9人)、22年度(102人)、23年度(312人)と3年で急増した。23年度の中途採用比率は7割と業界でも高水準とみられる。中途採用者の半数が保険金支払い、2割が営業に配属されている。
中途で入社した営業社員の4割は、メガバンクや証券など他の金融機関出身者だ。パートナーの地方転勤に帯同する人や、最近では地方の金融機関出身者からの応募も多いという。
もう一つの潮流は専門枠の増強だ。
東京海上日動は別枠でデジタルや新規事業開発などに知見を持つ人材の採用を強化している。損保ジャパンも2倍程度の採用増を掲げ、アナログな仕組みが多い保険業務の刷新を進める。
あいおいニッセイはデータサイエンティストやサイバーセキュリティーなどの専門人材の採用に力をいれる。採用全体に占める中途の割合を21年度の17%から23年度の60%まで引き上げてきたことに伴い、専門人材の採用も増やしてきた。
3つ目は一度、退職したり内定を辞退したりした人の再入社だ。
損保ジャパンは24年1月に社内規定を見直し、退職理由を問わず誰でも戻れるようにした。再入社時の処遇は退職時の役職や離職期間により異なる。たとえば離職してから3年未満の場合、退職時と同水準で復職できるようになった。
三井住友海上は事前に同意を得た上で過去に選考に残ったり内定を辞退したりした人の情報をプールしている。定期的にメールを送って接点を持ち続けており、6月から始めた本格的な採用活動では5人を採用した。
損害保険業界は昨年度、営業優先の企業風土の問題点が噴出した。その背景には新卒一括採用で構築された同質的な組織カルチャーが一因といわれている。中途採用者への期待は外部で経験を積んだ人材がソトの目線で業務改革を進めることができる点だ。社員の紹介による「リファラル採用」を通じて人材争奪に動いているが、他業界との人材の獲得競争も激しさを増しており、計画通りに人材を採用できるかも焦点になりそうだ。
(岩田夏実)
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