特集は酪農に挑む30代の夫婦です。長野県平谷村に移住した夫婦が山あいの広大な土地で「山地酪農」に挑戦。ミルクの味を広めようとカフェも開きました。2人で支え合いトラブルを乗り切ってきた牧場の歩みをお伝えします。

■広大な土地でジャージー牛を飼育

牛たちの様子を見て回るのは林直秀さん(34)と、茜さん(32)の夫婦。日課の安全確認です。

ペアツリーファーム・林直秀さん:
「放牧ならではの事故やトラブルもあるので、それが起こっていないかどうかいつも心配していて、無事の姿で会えると安心します」

飼育しているのはジャージー牛。

妻・茜さん:
「(牛から)『なでろー』がすごいです。角の生え際とか首の下が好きで。人が来てうれしそうですね(笑)」

2人の牧場「ペアツリーファーム」があるのは平谷村。広さは、なんと東京ドーム2つ分にあたる約8.5ヘクタールです。4年前から自然の地形を生かした「山地酪農」に取り組んでいます。

この夏には牧場のミルクを使ったソフトクリームを販売するカフェもオープンさせました。

ペアツリーファーム・林直秀さん:
「何とか夫婦、力を合わせて製品化までいけたのでひとまず第一目標はクリアしたかな」

広大な土地で飼育する牛はまだ7頭。実は、全ての牛を失うトラブルを乗り越え、今があります。

■衝撃!きっかけは?

2人は共に横浜の出身。直秀さんは大学卒業後、不動産会社の営業職に就きましたが、体調を崩しました。その時、思い出されたのが学生時代にアルバイトをしていたカフェのミルクの味。カフェは岩手の牧場の直営店でした。

林直秀さん:
「(カフェのミルクは)市販されてる牛乳とは別物で衝撃を受けた。転職先として、そういえばあったなと連絡して入れてもらったのがきっかけ」

直秀さんは牧場に再就職。

後に妻の茜さんも新卒で就職しました。

妻・茜さん:
「何となく田舎暮らしに憧れがあって、乳製品加工の仕事を4年ぐらいして、1年ちょっとは牛の搾乳の仕事をしていました」

牧場はジャージー牛を山あいに放牧する「山地酪農」に取り組んでいました。

■自分たちの手で酪農を

お互いの第一印象は?

妻・茜さん:
「田舎にいなさそうな人だなと思いました。そんなに土とか触りたくなさそうな人かな(笑)」

林直秀さん:
「牧場の子にはあまり見えなかった(笑)」

同じ横浜出身で、気が合った2人は2019年に結婚。やがて「自分たちの手で酪農をやりたい」と考えるようになります。

妻・茜さん:
「製品作りをしていた時は製品しか見られない、せっかく近くに牛がいるのに全然触れない。分業みたいになってるのが寂しい、それだけをずっとやっていくのは大変だなと思って」

林直秀さん:
「そこで見た景色を自分たちでもつくりたいよねと。自分たちなりの規模感ややり方、製品のラインナップでやってみたいと思って独立を決意しました」

■「山地酪農」をスタート

移住先は平谷村に決定。移住フェアで知ったのがきっかけですが、決め手は、村が広大な土地を10年間、無料で貸し出してくれたことです。

土地は山林や荒廃した農地。

草刈りや電気柵の設置に1年ほどかかりました。

林直秀さん:
「いまだに大変ですが、スタートは特に大変だった」

2021年7月、群馬の牧場からメス牛4頭を入れ2人の「山地酪農」がスタートしました。山地酪農に取り組む酪農家は少なく国内では10カ所程度といわれています。

林直秀さん:
「山の自然な傾斜を利用して山に生える自然な植生を利用しながら牛を飼育する方法。牛が草を食べて排泄物出して、それが肥料になり、土に返って、また新しい草が生える循環が回るのが1ヘクタール2頭といわれてます」

飼育するのはジャージー牛。ミルクは乳脂肪分が高く甘味が強いのが特徴です。

■転落、逃げ出し…牛を全て失う

その後、子牛が生まれて8頭になった牧場。しかしアクシデントが次々とー。

牧場内での転落や牧場から逃げ出して車にひかれるなどのトラブルで、一時、全ての牛を失いました。

2人はスキー場や温泉でアルバイトをして生計を立ててきました。

妻・茜さん:
「計画ではトントン行くつもりだったけど予想外のこともたくさんあったし、簡単じゃないなと思った」

その後、新たに栃木や岩手の牧場から牛を入れ、現在は子牛も含め7頭に。

■人気の放牧ソフトクリーム

さらに、空き店舗を改装し2024年7月、直営カフェのオープンにこぎつけました。


牧場で搾ったミルクのソフトクリームはー

(記者リポート)
「非常に濃厚です。口当たりがなめらかでコクもしっかりあって、牧場直営ならではの味が楽しめて非常においしいです」

ソフトクリームにほろ苦いコーヒーをかけたアフォガートも人気です。

愛知・小牧市から:
「しっかりとした味があって落ち着いた甘さ、おいしいです」

根羽村から:
「苦いのと甘いのが一緒に混ざる感じが好きです」

林直秀さん:
「どっちかが牛の面倒を見ながら、どっちかが働きに行くことはできてたので、4年間で製品化まで行ったのは夫婦のお互いの助けがあったからこそ何とかできたのかな」

■牧場見学も受け入れ

2人の牧場は牛の生態や山地酪農に親しんでもらおうと見学も受け入れています。

この日は地域おこし協力隊員に付き添われて地元の児童が訪れました。

児童:
「柔らかい。ぬいぐるみの毛みたい」
「(子牛)初めてみたけど、なんかヤギみたいで小っちゃかった」


■目指す牧場の「カタチ」

移住から4年。

困難もありましたが、ようやく、目指す牧場の「カタチ」が見えてきた2人。少しずつ地域への貢献もできたらと話しています。


ペアツリーファーム・林直秀さん:
「山で牛がのんびり暮らしてる姿は日本でほとんど見ることができない景色なので、この景色をいろんな人に楽しんでもらって山地酪農を知ってもらうこともそうだし、牛ってこういう生き物なんだとか皆さんに感じてもらえるとより良いかな」

妻・茜さん:
「(村に)いろんな人が来てそれぞれ得意なこと、やりたいことをやって村として盛り上がっていったら楽しいな」

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