「年金制度で英国経済に活気を与えたい」。労働党政権で財務相に就いたレイチェル・リーブス氏は年金改革に意気込む。エマ・レイノルズ年金大臣と共に、制度の見直しに向けて各地の年金基金などからの意見募集に着手した。
リーブス財務相が取り組むのが、地方自治体の年金制度(LGPS)の統合だ。
LGPSは地方自治体の職員向けの年金制度で80を超す基金がある。労働党政権は各基金を統合し、運用規模の大きい「メガ年金ファンド」8つに再編することを目指す。英国株だけでなく未公開株への投資拡大も狙う。
LGPS全体の加入者数は約650万人に上り、3500億ポンド(約67兆円)を超える資金を運用している。問題はそれぞれの基金が個別に運用されている点で、資金が10億ポンドに満たない小規模な基金も混在する。各基金がそれぞれ管理費や運営費を支払っているため、かねて効率的な運営ができていないとの指摘があった。「小粒年金」とも言える基金を含めた再編は不可避だ。
LGPS全体の運用額は米カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)などに匹敵する。年金基金の巨大化で費用削減が期待できるほか、英政府は基金の統合で800億ポンドの資金を経済に還元できると試算する。インフラや非公開株への投資もしやすくなるとみる。
金融界からの評価も上々だ。「年金改革は機関投資家の成長株への投資を解き放つために重要だ」(英銀バークレイズのC・S・ベンカタクリシュナンCEO)。「ファンドの大規模化が貯蓄者に幅広い資産へのアクセスを提供し、長期的な利益を最大化できることを経験から知っている」(運用大手M&Gのアンドレア・ロッシCEO)
年金制度の見直しは保守党政権時代からの課題でもあった。保守党は2023年に「マンションハウス改革」と呼ぶ年金改革に着手。加入者の指定がない場合、30年までに大手運用会社の確定拠出年金での未公開株への投資比率を5%に高めるとした。保守党はマンションハウス改革で、500億ポンドの資金を英国企業を含む非上場の成長企業に投資することを目指した。
英国で企業のアーリーステージ(初期)における投資家の国内比率は4割にとどまり、金額が1億ドルを超える案件では3割を下回る。国内投資家の不在は新興企業が海外に上場先を求める遠因にもなっている。年金基金が長期資金の出し手として果たす役割は大きい。
一方で各基金の特色が失われるといった懸念から、統合には慎重な意見もある。過去には保守党のキャメロン政権も年金改革に乗り出したが、十分な成果が得られなかったという経緯がある。
だがこれ以上の遅れは許されない。英シンクタンクのニューフィナンシャルの分析によると、英年金資産に占める英国株の割合は4%程度で、約25年前の50%超から低下した。年金が持つ長期資金を成長企業に回す仕組みをどう構築するか。金融立国を標榜してきた英国の浮沈を左右する。
日本でも年金などアセットオーナーの改革が資産運用立国の柱として掲げられている。企業価値向上においてアセットオーナーが果たす役割は大きいためだ。英国とは単純に比較できないが、日本では一部の企業年金で運用効率の低さや人材不足が課題となっている。
(ロンドン=日高大、山下晃が担当しました)
【英国 迷走の金融立国】
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