記者団の取材に応じる鈴木俊一財務相(中央)=11日午前、東京都千代田区(今仲信博撮影)

円売りの流れに歯止めがかからない。日本時間10日夜に発表された3月の米消費者物価指数(CPI)が引き金となり、円相場は当局の「防衛ライン」と見なされてきた1ドル=152円を軽々と飛び越え、11日早朝に一時153円台に突入した。今後の値動きによっては2022年9月に続き、岸田文雄首相訪米中に為替介入が実施される可能性もある。

11日正午時点の円相場は前日夕から1円程度下落し、1ドル=152円台後半で推移している。市場では為替介入への警戒感が一段と増している。

この日朝、鈴木俊一財務相は記者団に「過度な変動は好ましくない」との認識を示した上で、「行き過ぎた動きに対してはあらゆるオプション(選択肢)を排除することなく、適切に対応していきたい」と語った。神田真人財務官も「年初からの動きはかなりの変動幅だ」と述べ、市場を牽制(けんせい)した。

CPIショック再び

1ドル=153円台と円相場を約34年ぶりの安値水準に押し下げたのは、米CPIだ。米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策の行方を見極めるために投資家が最も重要視する経済指標の一つで、発表のたびに市場を動かすことが常態化している。

3月のCPIは市場予想を上回り、FRBが景気を温める効果のある利下げを始める時期が後ずれするとの見方が広がった。一方、日本銀行はマイナス金利政策を解除したものの、当面は緩和的な金融環境を保つ構えだ。「日米金利差はまだ縮小しない」と考える投資家が円を売ってドルを買っている。

11日夜には、3月の米生産者物価指数(PCE)が発表される。個人消費の実態をより反映する指標と言われており、米国経済の強さを示すデータが出てくれば、円が一段安となる可能性もある。

異例の介入再現?

とはいえ、「首相訪米中の為替介入は難しい」との見方が根強い。強固な日米同盟関係を世界に発信する舞台に水を差す恐れがあるからだ。

ソニーフィナンシャルグループの尾河真樹チーフアナリストは鈴木氏や神田氏が繰り返す「準備はできている」「断固たる措置」といった口先介入の文言に注目する。

尾河氏は「米国当局と調整していないと言えない最上級の警戒感を示す言葉だ。それをオフィシャル(公式)に発言しているということは、米国からすでに一定の理解を得ているはずだ」と指摘し、首相訪米とは切り離して考えるべきとの見方を示す。

実際、22年9月の円買い介入を行った際も首相の訪米中の出来事だった。14日の首相帰国までに介入に踏み切れば、異例の介入が再現される形になる。(米沢文)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。