激戦州ペンシルベニアの選挙集会で演説するマスク(10月26日) SAMUEL CORUM/GETTY IMAGES
<トランプの宣伝通りにホワイトハウス入りして連邦政府の刷新を任されることになれば、事業の妨げになる規制も役人もイーロン・マスクの思いのままだ>
イーロン・マスクは移民なので、憲法上は米大統領選の出馬資格がない。だが生粋のイノベーター(革新者)であるマスクは、巧みにこれを回避する方法を見つけたようだ。
報道によれば、マスクがトランプ次期大統領の選挙運動に支出した寄付などの総額は1億3000万ドル。世界一の大富豪にとっては比較的少額だ。マスクはこのカネで、スキャンダルまみれで破産経験者の老いた前大統領の「経営支配権」を購入した。
そして、もう1つの投資先であるX(旧ツイッター)と、マスクのベンチャー事業に共通する型破りな突破力を武器に、予想外のトランプ復活を実現してみせた。
問題はこの先だ。マスクは投資の見返りに何を求めるのか。トランプ勝利が確実になった11月6日、マスクはツイッター買収時と同じように、大統領執務室に洗面台を運ぶ自身の写真をXに投稿した。このマスクの思い描く執務室に、トランプの赤ら顔の肖像は見当たらない。それに気付いた私は、トランプの勝利以上に背筋がぞっとした。
"Let that sink in."(よく考えろ)と「(洗面台)シンク」を掛けたジョーク。ツイッター買収時にも同じことをしたLet that sink in pic.twitter.com/XvYFtDrhRm
— Elon Musk (@elonmusk) November 6, 2024
思想的にも経済的にも、マスクがホワイトハウスとの結び付きから得るものは多い。マスクは労働組合に反対し、さらなる減税を求め、企業に対する政府機関の権限を弱めるべきとする立場だ。多くのビジネスは連邦政府の補助金で多大な恩恵を受ける一方、多くの規制の対象でもある。
トランプは選挙戦で、連邦政府の刷新についてはマスクに白紙委任されると示唆してきた。歳出削減を任務とする政府効率化省(DOGE)の新設と運営もそこに含まれる。
マスクは既に政府支出を年間2兆ドル、つまり3分の1近く削減すると発言している。社会保障やメディケア(高齢者医療保険制度)などの福祉予算、さらには国防費にも大ナタを振らなければ達成できそうにない数字だ。
一方で、マスクの政治的右傾化は顧客離れを生む可能性がある。私が住むサンフランシスコ周辺は、ハリス副大統領が大差で勝った民主党の牙城だ。テスラの主要顧客でもある私の隣人たちは、車を買い替えるときにどうするだろうか。
トランプの政策目標とマスクのビジネス上の利害との衝突もある。トランプは電気自動車(EV)を軟弱で非アメリカ的と見なし、EVの製造・購入に対する補助金や環境規制の廃止を口にしている。
そして常に注目の的でいたいトランプのエゴの問題もある。もしマスク人気がトランプの脅威になれば、両者の関係がおかしくなるケースも考えられなくはない。
マスクが政府機関の手綱を握った場合、最も恐ろしいのは、その手段を選ばないブルドーザー的スタイルがしばしば成果を上げていることだ。
例えば旧ツイッターの買収劇。マスクが同社を買収して従業員をほぼ全員解雇したとき、サービスの継続は不可能だという予測が多かった。
マスクがXでのヘイト規制を拒否し、広告主に「くたばれ」と発言してから、広告ビジネスは大不振に陥った。マスクと共同投資家は買収に440億ドルを投じたが、金融大手フィデリティによれば、同社の最近の資産価値は100億ドルを下回っている。
それでもXは今回の選挙で、2020年や2016年と同じく政治的話題に欠かせない存在となった。Xの経営状況がどうなろうとも、マスクがそれを利用して大統領と長期的な政治運動の支配権を手に入れた今、この投資は誤りだったと誰が言えるだろう?
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