事前に「歴史的な接戦」と伝えられていた割には、「トランプ大勝」と言って良い、選挙結果でした。民主党のハリス候補は、激戦州と言われた7つの州を1つも取ることができず、選挙人の数では大差がつきました。総得票数でも、今回はトランプ氏がハリス氏を上回ることが確実です。事前には開票後の混乱を心配する声すらありましたが、票を数え直す必要などない、明白な結果でした。

まずは、株高・金利高・ドル高

開票結果を受けた6日の金融市場では、トランプトレードが進行、ドル高、株高が進みました。中でもダウ平均株価は1508ドル高と4年ぶりの上げ幅を記録、4万3729ドルと過去最高値を更新しました。ハイテク株中心のナスダックや多くの投資家が運用の指標とするS&P500指数も最高値を更新しました。

また債券市場では、第2期トランプ政権で大規模減税の恒久化など財政が拡張的になるとの見方から、10年債の利回りが一時4.4%台をつけ、これを受けて為替市場ではドル高が一段と進みました。円相場は、一時1ドル=154円台まで円安が進みました。

株高の恩恵は米市場だけ?

ただ、株高とは言ってもアメリカ市場に限っての話で、欧州市場では株価はマイナスとなりました。7日の東京市場も日経平均株価は、寄り付きこそ高かったものの、その後はずるずると値を下げ、終値は99円安の3万9381円でした。トランプ当選を機に「再び4万円台に」という期待には、手が届きませんでした。

第2期トランプ政権、いわゆる「トランプ2.0」が、世界経済にはむしろ先行き不透明感を与えているばかりか、同盟国にも関税引き上げを躊躇わない姿勢が、株価での「アメリカ一人勝ち」を導いたとも言えなくもありません。

「トリプルレッド」で「トランプ2.0」が実現

大統領選挙だけでなく同時に行われた議会選挙でも共和党が勝利したことも、今回の選挙で特筆すべきことです。上院ではすでに共和党が過半数を占めることが確定し、開票作業が遅れている下院でも共和党が大きくリードしており、過半数獲得が確実視されています。大統領、上院、下院と3つがすべて共和党、すなわち「トリプルレッド」となれば、トランプ大統領のやりたい政策は、簡単に議会を通ることになります。

税制を始め法案は、上下両院で可決されなければ成立しません。仮に久々に議会との「ねじれ」が解消すれば、時の政権に大きな力を与えることになるのです。

財政拡張で高まるインフレ圧力

超党派の委員会は、トランプ氏の公約をすべて実現すれば、2026年会計度からの10年間で合計7.5兆ドルの財政支出増加につながると試算しています。単純に10で割ると、要は1年に100兆円以上財政支出が増える勘定です。これだけ支出が増えれば、そうでなくても心配なインフレに、再び火をつけかねないと心配する向きもあります。

また財政赤字の増大は、それ自体が金利上昇圧力になるので、インフレと相まって、金利上昇を促すことになりかねません。中央銀行であるFRBが短期金利の利下げを進めているのに、長期金利が上昇しているのは、そうした懸念の表れです。実際にインフレが再燃するにはそれなりに時間もかかるでしょうが、市場が株高・金利高・ドル高で反応していることは、そうした「市場の読み」を示しています。

中国に60%など高関税政策

一方、通商政策での「トランプ2.0」の目玉は、高関税政策です。中国からの輸入品に60%もの追加関税をかけるほか、他の国からの輸入品にも10~20%の関税を付加するとしています。日本からの自動車に10%の付加関税がかけられたら、いくら円安が進んだと言っても、大変な打撃です。欧州や日本の株価が下がったのはそうした不安の代弁です。ただ中国への60%関税はともかくとしても、同盟国にどこまでそうした措置をとるかは、今後の交渉次第と見る向きもあります。

しかし、仮にトランプ政権と取引が成立して、直接的に日本に付加関税がかけられなくても、影響は必至です。中国製品に60%もの関税が課せられれば、中国から対米輸出は激減し、中国に部品や資本財を輸出している日本はじめ、アジア各国の企業には大打撃です。

また、中国に進出している日系企業は対米輸出が事実上できなくなるわけですから、生産拠点の移転などサプライチェーンの世界的な組み換えを迫られることにつながります。

通商政策での注目は、メキシコの扱い

さらに大きな焦点がメキシコの扱いです。メキシコは北米3国の自由貿易協定(現USMCA、旧NAFTA)によって、一定の要件を満たせば関税ゼロでアメリカに輸出ができ、それを利用して、すでに多くの中国製品がメキシコを迂回してアメリカに入っていると言われています。「トランプ2.0」は、ここに目を光らせており、仮にメキシコからアメリカへの輸出条件が変更されれば、すでにメキシコに進出した企業にとっては大きな影響が避けられません。日本からは自動車メーカーや部品会社など300社以上の関連企業がすでにメキシコに進出しているのです。

大きな推進力をもって始まった「トランプ2.0」では、不透明なマクロ環境に対応しつつ、各国が対米で、どううまく立ち回れるかが、問われることになりそうです。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)

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