日銀は10月30-31日の金融政策決定会合にて、金融政策の現状維持を決めた。政策金利である無担保コールレート(オーバーナイト物)は「0.25%程度で推移」に維持した(全員一致)。

展望レポートでは、経済見通しは「前回の展望レポートにおける見通しから概ね不変である」とされた一方、物価見通しは「前回の展望レポートにおける見通しと比較すると、2025年度が、このところの原油等の資源価格下落の影響などから幾分下振れている」とされた。物価見通しについてはやや弱い表現となったが、後述するように26年度の見通しは変わっておらず、基本的には「オントラック」ということだろう。今回の決定会合は「オントラックなのに利上げをしなかった」というイレギュラーな会合だったと考えるべきである。今回は展望レポートにおける「経済のリスク要因」として、海外の「経済の減速ペースやそのもとでの各国中銀の政策運営を巡る思惑から、金融・為替市場の変動が大きくなるリスクもある」とされた。また、金融政策運営として「米国をはじめとする海外経済の今後の展開や金融資本市場の動向を十分注視し、わが国の経済・物価の見通しやリスク、見通しが実現する確度に及ぼす影響を見極めていく必要がある」と追記された。これらが今回は利上げに動かなかった根拠である。

日銀が、不確実性が低下したとする(低下したことにしたい)タイミングで利上げは可能

経済・物価見通しがオントラックだとすれば、利上げの判断をするために次回(25年1月)の展望レポートを待つ必要はない。日銀が金融市場の変動や海外経済に問題がないと判断する場合、24年12月の決定会合で利上げをすることは可能だろう。そもそも、金融市場の変動や海外経済の判断はブラックボックスであり、日銀の考え方次第である。例えば、急激に円安が進行し、それを食い止める必要があると判断される場合は躊躇なく利上げが実施されるだろう。むろん、12月は財務省が予算案を作成して内閣が閣議決定するタイミングであるため、日銀は無理に金利変動を起こしたくないという考えもあると言われている。しかし、現在のように1ドル150円を明確に上回り、市場で再び160円が意識されている状況が続いていれば、利上げを実施する可能性が高い。

景気現状判断は変化なし、物価見通しは25年度が下方修正だが、概ね「オントラック」か

景気の判断文では、「景気の現状判断」が「一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している」に維持された。その他、個別の項目についても判断文に変化はなかった。

経済見通しは、25年度の数字が小幅に上方修正(7月時点の+1.0%⇒+1.1%)されたが、ほとんど変化はなかった。物価見通しは、25年度のコアの数字が下方修正(7月時点の+2.1%⇒+1.9%)されたが、それ以外に変化はなった。25年度の物価見通しについては前述したように「このところの原油等の資源価格下落の影響」であるとみられ、日本経済の評価が変わったわけではないだろう。総じて、「オントラック」と言える。

もっとも、日銀が将来的に利上げを停止する場合、その理由を「海外経済の下振れ」などにする可能性が高いと、筆者はみている。今回のように海外経済や資源価格への言及が目立ってくる流れは、日銀が利上げ停止のタイミングを探り始めたシグナルであると言えるだろう。

植田総裁の記者会見は「想定通りタカ派」だったという印象で、12月利上げの公算

植田総裁は会合後の記者会見で①経済・物価見通しはオントラックであること、②米国など海外経済の不確実性はあるが状況は改善していること(時間的余裕という表現は不要)、③国内政治の不透明感があってもなくても日銀としてのスタンスを重視する、とした。いずれも想定の範囲内の発言だと思われるが、ハト派方向の質問に対してそれを植田総裁が否定していくような記者会見となり、タカ派的な印象が目立つ会見だった。筆者は記者会見前のレポートで「植田総裁の記者会見はタカ派的になりやすい」としていたが、想定通りタカ派だった(タカ派と市場に受け止められた)という印象である。

いずれにせよ、「時間的余裕」はなくなったことは事実であり、市場では12月利上げが織り込まれていくだろう。8月に市場が不安定化したことや、衆院選後に政治が混乱していることから、日銀は「無難」に立ち回る可能性が高い。市場では日銀が利上げに動きにくいという考察を目にすることがあるが、これまで利上げを続けてきたのに、いきなり動かなくなる方が不自然であり、円安進行で日銀が批判されたり、低金利維持で政治に配慮しているのではないかという疑念を持たれたりしやすい。筆者は、このような環境では日銀は「無難」に利上げをしていくことになると予想している。市場が「無難」と評価するのは、つまり市場予想通りの動きをしていくことである。今回の決定会合で市場が12月利上げを予想するようになれば、その通りに12月に利上げを決める可能性が高いだろう。

(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)

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