自民党が大幅に議席を減らし、与党過半数割れの結果となった衆議院選挙。国民民主党の議席増加と自民党との連立の可能性が注目されるなか、選挙後の株式市場は大方の予想に反して上昇し、円安が進んだ。当面は政治の不透明感が続く可能性が高く、市場は方向感を定めにくい状態が予想される。円安・株高となった背景や今後の予想される日銀の動きについて、大和証券チーフエコノミストの末廣徹さんとTBS経済部 佐藤祥太デスクが読み解く。(10月28日配信「The Priority」より)
市場は“ポジションを取りにくい”状況続くか
末廣:
モヤモヤしてますよ。とってもモヤモヤしてます。「株はこんなに強いのか」と思ったというのが感想ですね。マーケットにはよくあること、よくある話でまた“後付け”だって言われるんですけど。ただやっぱり先週かなり警戒感が広がって、蓋を開けてみたらもうみんな警戒し尽くして、売る人がもういなかったので理由なく買い戻されたっていうのがメインかなと思います。あとは国民民主党がかなり議席増を増やしたということで。
佐藤:
元々は7議席だったものが28ですから4倍増。
末廣:
一部報道だと石破さんが国民民主党とちょっと関係を深めていくというような趣旨の発言をしたんじゃないかって話にもなっていて。そうすると、国民民主党はかなり財政拡張的な、金融緩和も「高圧経済」って玉木さん言ってますけれども、低金利維持して景気を良くするというふうに言っているので、その連想で株が買われたという話も説明としてはあると思うんですね。
佐藤:
なるほど。“モヤモヤ”がやっぱり続く感じですか。我々報道する側からしても一方向には進まないというか、連立の作業って話が浮いては消え、浮いては消えってのが多分しばらく続くんじゃないかなと思いますけどね。
末廣:
そうですね。28日の反応で株価が上がったからしばらくこのまま上がり続けるとは私は全く思っていなくて。モヤモヤっていうのが続くんじゃないかなと思いますね。理由としてはやっぱりすぐに連立ってなったら、選挙は何だったんだってなりますから。
佐藤:
そうなりますよね。自民党はもう秋波を送っていますけれども、乗る側としても、乗ることのリスクももちろんありますよね。
末廣:
そうですね。あとは財政拡張、一言で言うと確かに似たようなテーマで自民党と国民民主党ありますけど、中身を見ると、自民党はやや「ばら撒き」なんじゃないかというのに対して、国民民主党は消費税の減税とか社会保険料を下げて手取りを増やすとかどちらかという「減税」の方ですよね。そこで、政策が重なる部分はそこまで多くないんじゃないかなと私は思ってますね。お互いに譲っちゃうと、それが失点になってしまう可能性も。
佐藤:
確かにそうですね。譲歩すると自民党支持層からするとどうしちゃったのってなりますし、国民民主党は今回議席を増やして期待感が高まったということでしょうから。それが失速してしまうと、今度はそちらの支持層も困ってしまうと。
末廣:
これからは良い話も悪い話も、突然ヘッドラインが出てくる可能性があると思うので、動きは出るかもしれないですけど逆にそういう状況って身構えておかなきゃいけないので。ポジションを取りにくい、と言えばいいですかね。どっちかに傾けにくい状況が続くので、ちょっと落ち着いてみると、結局「モヤモヤしてましたね」っていう形になるんじゃないかなと。そこの駆け引きってのは、アメリカだと結構多いですよね共和党と民主党が…
佐藤:
譲歩するかしないか、特に予算をめぐってや債務上限をめぐって、もうこれ連日行ったり来たりしてますよね。
末廣:
よくねじれて、どっちかがもう折れなきゃいけないってなるんですけどギリギリまで「自分たちは絶対折れない」っていうのを国民に示して、「あっちが折れないのが悪いんだ」という形で向こうの失点を狙うっていうのをギリギリまでやって。最後はスパっと決まることが多いと思うんですが。なので日本に関してはそこまでネガティブに捉える必要ないのかなと思うんですけど。まだやり取りあると思いますし、来年の参院選もあります。
佐藤:
そうですよねこれから先、税制改正大綱があって、補正予算を組めるのかどうか。でも通常予算編成もありますし、経済閣僚どうすんだとか、いろんなことが出てくると思いますので、その都度やっぱりマーケットを注視してという感じになりますよね。
末廣:
そうですね。様子見していくしかないってことだと思います。あと一つ言えるとすると、28日は円安には振れたという話もあったんですけど、アメリカの金利が上がっているので円安に振れやすかったっていうのがあると思っていて。例えば玉木さんが日銀に関しては“高圧経済”、要するにあんまりアグレッシブに利上げをしないっていうのを望んでいるとか、そもそも政治が不透明になると日銀もちょっと動けないんじゃないかっていうことで円安が進んだという説明は一応成り立つと思うんですけど、私が日銀の立場だったとするだったとすると、「野放し」ってのが多分一番正確かなという気がします。
要するに、岸田政権の時は円安はけしからん、とかなりプレッシャーがかかっていたと聞いてますけど、いまは逆に、誰も日銀にしばらくプレッシャーをかけてこないと思うんですよね。だから日銀としては自分たちの判断でやるべきことをやっていくと考えているとすると、それ自体が利上げをできないとかそういうことではないんだと私は思うんですね。
経済への国民の不満が反映された選挙 日銀は利上げの“準備”進めるか
末廣:
選挙の結果って、選挙がこうだったから、政策がこうなって経済がこうなるっていう話をしがちだと思うんですけど、経済を見るうえでは、なぜ今回のような選挙結果になったのか。政策があって経済じゃなくて、経済があって選挙があってと考えると、やっぱり家計が弱いということだと思います。私たちが思っていた以上に今の経済状況に不満を抱えていて、苦しいという思いが今回選挙に反映された。特に国民民主党の手取りを増やすというところも刺さったというのはあると思うんですね。そう考えると、やっぱり円安は良くないという思いが日銀の中でも続いている、少なくとも政治は、円安は良くないという流れが続いていくと予想しているのではないかと思いますよね。
佐藤:
今回の裏金をめぐる選挙も、やっぱり経済、体感経済との関連もあるんじゃないかなと私も個人的に思いますが、末廣さんは。
末廣:
すごくあると思いますね。マーケットの動きと実感っていうのはやっぱりズレは当然あると思いますし、注意しなきゃいけないと思うのは、最近、実質賃金が上がるって言いますよね。あれ何が上がってるかというとみんな前年比を見てるんですよね。実質賃金が前年と比べて上がるっていうところをみんな期待して、株式市場も期待してるんですけど、でも1年前と比べて生活してる人って少ないと思うんですよね、週末の選挙結果も、実質賃金上がってるのにこんなに不満があるんだって思ったんですけど、それあるよなと。
だからやっぱり日銀としては「円安はけしからん」とまたなる可能性があるので、そういう雰囲気が出てきた時に機動的に動けるように。しかも8、7月は突然利上げしてかなり批判されてしまってるので、より事前に織り込ませたいっていう思いがあるでしょうね。ということで、今週の金融政策決定会合については少し利上げのトーンが出てきてもおかしくない、タカ派予想です。この話をすると、反論もあるんですよ。これ面白いんですけど「いやいや12月は動かないでしょう」と。
佐藤:
はい。「利上げは1月でも良くないか」と。なんで12月は動かないのか?
末廣:
これは面白いんですけど、12月って予算ですね。予算を閣議決定するときに、財務省は金利の「仮置き」をつくるわけですよ。金利の計算をする時にですね。それで12月に計算してたのに金利が日銀で動くと、必ず「動いちゃったけど大丈夫なんですか」とかって言われる。財務省は怒る。
佐藤:
なるほど確かにそうかもしれない。
末廣:
ただ例がないわけではなくて、2年前に黒田さんが総裁だった時にYCCを拡大して年末に大慌てになった、あの時は12月でも動いてきたので。12月に動かないわけではないと思うので、実際動くかどうかは別として、日銀は利上げに動く準備というのは今回やってくる可能性は高いと思ってます。
(TBS CROSS DIG with Bloomberg 10月28日配信「The Priority」より)
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