20~30代世帯の所得中央値は90年代から増えているが、可処分所得を見ると逆に減っている photoAC

<25~34歳の若年男性の手取り収入の中央値は、税負担等の増大から今や全国ほとんどの地域で300万円に満たない>

物価高による生活苦が広がっている。奢侈品はともかく、食費や光熱費の値上がりは辛い。主食のコメに加え、肉・魚・卵といったタンパク質の供給源の値段も上がっている。

昨年の2月、日経新聞WEBに「日本人のタンパク質摂取量、1950年代並みに悪化」という記事が出ていたが、今ではもっと悪くなっているだろう。1日2食、いや1食と、食費を削り過ぎ、栄養失調で倒れる人も出ている。電気代が高いからと、酷暑(極寒)のなかエアコンをつけられないのは命にかかわる。

給与も並行して上がっているなら、ここまで状況は悪くなっていないはずだ。結婚・出産期の若年層に注目すると、世帯主が20~30代の世帯の所得中央値は、1996年では485万円だったのが2022年では515万円と増えてはいる。だがこれは税引き前のもので、可処分所得(所得から所得税、住民税、社会保険料等を引いたもので、手取り収入に相当)にすると、中央値は順に413万円、368万円となっている。

これらの数字を<表1>に整理すると、どういう事態が起きているかが分かる。


1996年から2022年にかけて、収入の実額は増えているものの、手取りの収入は50万円近くも減っている。

原因は、税負担が大きくなっているためだ。表の右端は、税金や社会保険料等に持っていかれている割合だが、1996年では14.8%だったのが、2022年では28.5%にまで上がっている。今の若年層は、稼ぎの3割弱を税金等で持っていかれていることになる。

少なくなった手取り収入で、値上がりした生活必需品を、重い消費税を上乗せして買わないといけない。若年世帯は借家住まいが大半だが、昔よりも高くなった家賃の負担ものしかかる。さらに、学生時代に借りた奨学金も返さないといけない。結婚どころではない。

若者の「手取り年収」の都道府県地図を、昔と今で比べてみると、ぞっとするような模様になる。1992年の25~34歳男性有業者の年収中央値は376万円(総務省『就業構造基本調査』)。90年代では税金等で持っていかれる割合は14.8%だったので<表1>、この分を引いた手取り年収にすると320万円。同じやり方で、2022年の手取り年収の中央値を出すと277万円。現在では、結婚期の男性の手取り年収中央値は300万円に届かない。

手取り年収の中央値が300万円に満たない県に色をつけた地図にすると、<図1>のようになる。左は1992年、右は2022年のものだ。


色付きの県は1992年では19県だったが、現在では東京・神奈川・愛知を除く全県が染まってしまっている。若者のワーキングプア化の進行が一目瞭然だ。「失われた30年」の可視化と言っていい。未婚化・少子化が進むわけだ。

こういう変化が起きている原因として、増税の影響が大きい。高齢化が進む中、やむを得ない面もあるが、税金が適切な用途に使われているのか、疑問に思うこともしばしばだ。物価高が止まらないので、全世帯に食券を配ろうという案が出たが、それなら最初から(重税を)取らないほうがいい。「配らなくていいから取るな」は、今やSNS上の俗語となっている。

過去最高となっている税収の内訳を見ても、増えているのは消費税だけで、所得税や法人税は減っている。今では、逆累進の消費税の比重が最も高い。税金には「再分配」の機能が期待されることを思うと、こうした構造の是正も求められる。奢侈品を除く食品については、消費税を軽減(撤廃)すべきだ。

重くなり過ぎている負担を除く――これが国民の暮らしを楽にする政策の基本スタンスだ。人生のイベントアワーにいる、若年層の多くが望んでいることでもある。

<資料:厚労省『国民生活基礎調査』、
    総務省『就業構造基本調査』>


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