11月5日のアメリカ大統領選挙が近づくなか、その結果が日本や世界の金融市場にどのような影響を及ぼすかが注視されています。しかし、専門家は選挙結果がマーケットに大きな変動を引き起こすことはないだろうと、3つのポイントを挙げて予想します。
「中間層」「ねじれ議会」「米経済の減速」を読み解いて見えることは?
大統領選にはカマラ・ハリス副大統領とドナルド・トランプ前大統領らが立候補していますが、両候補の支持率は拮抗しています。そのなかで大和証券チーフエコノミストの末廣徹さんがまず指摘するのは、マーケットが既に「トランプ氏の不透明さを織り込んでいる」という点です。
「トランプ氏は依然として不透明な存在ですが、“そのこと自体”が織り込まれており、必要以上に期待も不安がりもせず、マーケットは結果を受け入れる可能性が高い」
ハリス氏についても似たことが言えそうです。トランプ氏の共和党陣営は法人減税、ハリス氏の民主党陣営は法人増税を掲げるなどの違いはあるものの、両者はともに勝負の行方を左右する中間層の取り込みを競っています。
このため、どちらの候補が勝利しても、アメリカの経済政策に劇的な変化は起こらないと末廣さんは見ているのです。
2つ目のポイントは、「議会のねじれによる政治の停滞」です。大統領選と同時に行われる米議会の上下院選でも、接戦が見込まれています。大統領が所属する政党と議会で多数派を占める党が異なる「ねじれ」が発生した場合、大統領は政策を実現しにくくなります。
また、仮にトランプ氏が大統領に就任しても、財政赤字が既に膨らんでおり大きな政策変更は期待できない、と末廣さん。共和党は伝統的に政府支出を嫌う「小さな政府」路線で財政赤字の削減を重視するため、大規模な景気刺激策は難しいという予想です。
そのため、マーケットもねじれなど議会の動向を見極めつつ、抑制的な反応を示すだろうと考えられるのです。ハリス氏についても大筋ではバイデン現政権の路線を継承するとみられるため、当選した場合には大きな動きは少ないと考えられます。
最後に3つ目の理由として、末廣さんは「現在の経済環境が過去とは異なる」という点を挙げます。2017年のトランプ政権発足時はアメリカ経済が回復基調にあり、トランプ政権の政策がその流れを加速させました。
しかし現在は景気が減速しており、同じような政策が機能するかは不透明です。末廣さんは「景気が弱いときに(トランプ前政権が実施した)関税引き上げなどでコストを上げる政策は、需要をさらに抑制する可能性が高い」と述べ、似たような政策が現在の状況では逆効果になる可能性を示唆します。
これらの3つの理由から、末廣さんは大統領選の結果が市場に大きな影響を与えることはなさそうだと結論付けます。
好調な日本の製造業がアメリカへの「外交カード」に…円安が進むリスクは?
他方で、むしろ政治の膠着は企業業績などファンダメンタルズ(経済の基調)によって金融市場が動く本来の健全な状況をもたらすので、投資家にとっては「意外に好感される部分でもある」。
それでは、大統領選は日本経済にどのような影響を与えそうでしょうか。外交面では米中関係が日本にどう作用するかに一番注目が集まる、と末廣さん。
また、トランプ氏が再選されれば雇用創出を重視するとみられるため、日本企業がアメリカに工場を作り、雇用を増やすことが日本側の外交カードになり得る、と指摘します。
「円安で製造業の利益が上がっているので、そうした元気な産業はアメリカとうまくつながるような動きが出てくるのでは」
これ以上円安が進むかどうかについては「誰が大統領になっても、日本経済にとってそれほど心配することはなさそう」と楽観視します。アメリカの中央銀行にあたるFRBが利下げ局面に入ったため、アメリカの金利が上がり、それにともないドル高・円安になるリスクはそこまで高くない、という見立てです。
とはいえ、米大統領選では投票直前の10月に結果に大きく影響する「オクトーバー・サプライズ」がたびたび起こるジンクスがあります。常に最新の状況を注視する必要がありそうです。
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<取材協力>
大和証券エクイティ調査部チーフエコノミスト 末廣徹[すえひろ・とおる]
(TBS NEWS DIGオリジナルコンテンツ「The Priority」より)
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