(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)

米国労働省が10月4日に発表した24年9月の雇用統計によると、非農業部門雇用者数は前月差+25.4万人と、市場予想を上回った。過去分は小幅に上方修正された。失業率は4.1%と、市場予想を下回った。平均時給は前年同月比+4.0%と、市場予想を上回った。総じて強い雇用統計だった。

米国の労働市場は「良くも悪くもない」と考えるべき

非農業部門雇用者数変化の6ヵ月移動平均は減少傾向が続いているため、トレンドが反転したと言うには気が早いと考えられるが、今回の雇用統計の結果は堅調なものだったことは明らかである。平均時給(前年同月比)も4ヵ月ぶりの高水準となったことも含めて考えると、市場ではリセッション回避どころかインフレの再燃が懸念されるという受け止めとなるだろう。

もっとも、米国の労働市場は良くも悪くもあまり状況は変わっていないと、筆者は捉えている。悪化が続くこともなければ、急に回復することもないだろう。例えば、平均失業期間は小幅に長期化しており、比較的長期的に失業している人が就職している様子はない。少なくとも単月の動きでは、おそらくスキルの高い最近失業した人がすぐに就職できたと考えられ、誰でも条件の良いポジションを得られているわけではないだろう。数の上ではフルタイムと比べてパートタイムの方が堅調であることからも、賃金上昇圧力をそれほど心配する必要はないだろう。

雇用者数と賃金水準および労働時間を考慮した賃金総額の水準はほぼ一定のペースで上昇しており、良くも悪くもない状況と言える。

FRBの軌道修正は限定的となる見込みであり、長期金利の上昇余地は大
きくない

米国の労働市場の評価が定まるにはまだ時間を要する可能性が高いものの、やや悲観方向に傾いた見方は、特に「外野」において修正されるだろう。今回の雇用統計の結果を受け、サマーズ元米財務長官は「今になって思い返せば、9月の50bp利下げは間違いだったといえる。ただ深刻な結果を招くようなものではない」「9月の雇用統計は、高い中立金利の環境にあるのではないかという疑いを裏付けている。
責任ある金融政策として利下げにおいて慎重さが求められる環境だ」と、Xに投稿した(Bloomberg)。

また、ダドリー元NY連銀総裁は雇用統計の公表前に公表されたコラムで「米経済がいわゆるハードランディングに直面するリスクについて、過去数年にわたり私は悲観的になり過ぎていた。その見解に至る判断の多くは正しかったが、景気の先行きがそのような結果になるか、なお大いに疑わしい」としてい(Bloomberg)。

しかし、9月に50bp利下げを決めたFRBのメンバーは急にスタンスを修正することはないだろう。雇用統計の結果を受けてグールズビー・シカゴ連銀総裁は雇用統計の結果について「素晴らしい」としながらも、「雇用市場は幅広い指標から見て冷え込んでおり、インフレ率がFRBの目標をアンダーシュートする兆候さえあると指摘」し、「今のような状況を今後も維持するよう努める必要がある」との考えを示した(ロイター)。FRBは9月FOMCで50bpの大幅利下げを実施したが、同時に示した経済見通し(SEP)は強いものだった。インフレリスクが顕在化するまでは、FRBは見方を誤っていないと主張することは可能である。なお、10月雇用統計については、「米南東部を襲った大型ハリケーン『へリーン』や、米ボーイングおよび米港湾でのストなどの影響」(ロイター)によってやや弱めの結果となる可能性が指摘されており、スタンスを
強気化することも、FRBにとってはリスクが高い。

今後を展望すると、50bp利下げの可能性はほとんどなくなったと言えるが、11月と12月のFOMCでは25bpずつの利下げが実施されるだろう。市場の大幅利下げの見通しは修正されて長期金利は4%に近づいたが、利下げが続く以上は金利上昇リスクは大きくないだろう。年内の長期金利は3.5~4.0%のレンジ推移が続くと、筆者は予想している。

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